アキレウスとは?イリアスに描かれたトロイア戦争の英雄の生涯や特徴をわかりやすく紹介
更新日:2023.04.05
投稿日:2022.10.26
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アキレウス(ラテン語ではアキレス)はギリシア神話に登場する伝説的な英雄で、ホメロスの叙事詩「イリアス(イーリアス)」の主人公です。神と人との間に生まれた英雄で、トロイア戦争ではギリシア軍の中で最も活躍しました。アキレウスは不死身の英雄ですが、ただ一つ、かかとだけが弱点でした。私たちのかかとにある「アキレス腱」は、アキレウスにちなんで名付けられたとされています。
この記事では、アキレウスの生い立ちやトロイア戦争での活躍、関わりの深い人物などについて紹介します。多くの文学・芸術作品に描かれ、現在にも影響を残す英雄アキレウスの生涯を覗いてみませんか。
Contents
アキレウス(アキレス)とは?
ギリシア神話の英雄アキレウスは、神と人間の間に生まれました。父は人間の王ペーレウス、母は海の女神テティスです。実はアキレウスの誕生も神たちによって仕組まれたものでした。
テティスは非常に美しかったので、全知全能の神・ゼウスと海神ポセイドンから熱烈に求婚されていました。しかしテティスは、「父であり海神ネーレウスよりも偉大な子を産む」という定めを負っていたのです。女神テミスからその予言を知らされたゼウスとポセイドンは求婚を取り止め、テティスを人間の王と結婚させることにしました。こうして生まれたのがアキレウスです。
アキレウスは幼少期にケンタウロス族の賢者ケイローンのもとで教育を受け、無双の勇者として育ちました。特に足の速さにかけて右に出る者はなく、イリアスでは「俊足のアキレウス」と表現されています。
アキレウスといえば、トロイア戦争でギリシア軍随一の活躍をしたことで有名です。しかし実はアキレウスの母テティスは、息子がトロイア戦争に参加すれば命を落とす運命であることを知っていました。そこで、息子をトロイア戦争に参加させないために手を尽くしますが、運命には逆らえなかったのです。
アキレス腱の由来はアキレウスから
アキレウスは、かかとにある「アキレス腱」の語源になっています。アキレウスの母である女神テティスは、生まれたばかりの息子を不死身にするために、冥府を流れる川「ステュクス」の水に浸しました。しかしそのとき、テティスが掴んでいたかかとだけはステュクスの水につかっていませんでした。そのためアキレウスの体の中で、かかとだけが不死身にならなかったとされています。
アキレウスは母の予言どおり、トロイア戦争で命を落とします。トロイアの王子パリスが放った矢が、唯一の弱点であるかかとに命中したためでした。
アキレウスの武装
無双の勇者アキレウスは、武装も特別なものでした。有名なものを紹介します。
アキレウスの槍
アキレウスは、トネリコの木でできた大きな槍を持っていました。この槍は、師であるケイローンがアキレウスの両親に結婚祝いとして贈ったものです。
アキレウスの鎧
アキレウスが最初に身につけていた鎧は、トロイア軍に奪われます。親友パトロクロスに貸したものの、彼がトロイア軍の総大将ヘクトールに敗れたためです。
アキレウスが最後まで身につけていた鎧は、母テティスが新たに鍛冶の神ヘパイストスに頼んで作ってもらったものです。アキレウスの死後、鎧は一旦オデュッセウスが受け継ぎましたが、のちにアキレウスの息子であるネオプトレモスへと渡されました。
アキレウスの盾
トロイア軍の総大将・ヘクトールとの戦いで用いられた盾で、イリアスにも詳しく描写されています。この盾もまた、鍛冶の神ヘパイストスによって作られました。盾は円形で、中央から外側に向かって大地、空と海、太陽、月と星座、都市や人の営みなどが幾層にも重なるレイアウトになっています。盾の各層は戦争と平和、労働と祝祭というような対比が描かれているのも特徴の一つです。
アキレウスの馬(戦車)
クサントス、バリオス、ペーダソスは、アキレウスの持っていた3頭の名馬です。トロイア戦争ではこの3頭がアキレウスの戦車を引きました。なおクサントスとバリオスは兄弟で、ともに不死の馬ですが、ペーダソスは不死ではありませんでした。クサントスとバリオスはもともと海の神・ポセイドンの馬で、アキレウスの両親が結婚する際に贈られました。
ちなみにクサントスは、女神へーラーの力によって人の言葉を話す馬でした。パトロクロス亡きあと、戦線に復帰したアキレウスに、彼の死を予言したへーラーの言葉を伝えたことでも知られています。
アキレスと亀
「アキレスと亀」とは、古代ギリシアの哲学者・ゼノンが提唱したパラドックスのひとつ。論理的には筋が通らないとわかっていても、簡単には論破できない主張のたとえです。俊足のアキレウスが亀を追いかけるとき、彼が亀のいた地点に追いつくときには、亀はすでに少し前進しています。再び追いかけて亀のいた地点に追いついたときには、亀はまた少し前進しているはずです。これを繰り返す限り、アキレウスは亀に追いつくことができません。
数学的に考えればアキレウスは亀に追いつくはずですが、初めて聞くとうっかり納得しそうになる話ですよね。アキレスと亀はゼノンのパラドックスの中でも特に有名で、多くの作家に引用されました。
アキレウスが登場するギリシャ神話とは
アキレウスはギリシア神話に登場する、最も有名な英雄の一人です。ギリシア神話とは古代ギリシア人に伝わる神話のことで、後世の宗教や世界観、文学、芸術など多方面にさまざまな影響を与えました。
ギリシア神話は世界創造から始まり、神々の誕生や人間の起源、英雄たちの物語が描かれています。ギリシア神話と聞くととっつきにくいイメージかもしれませんが、登場する神々は嫉妬や恨み、怒りなどの感情をあらわにし、ドラマのような愛憎劇を繰り広げます。ペガサスやメデューサといったおなじみの伝説の生物もたくさん登場するので、読み物として楽しめるでしょう。
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また、成立年代が1200年ほど離れているのにもかかわらず、ギリシア神話と古事記にはいくつもの類似点があります。ギリシア神話に登場する神々は、日本の古代の神ともよく似ているのです。
ギリシア神話は以下のように3部構成になっています。
世界の起源
最初に存在したのはカオス(混沌)で、そこからガイア(大地の女神)が誕生しました。その後、ガイアは子であるウーラノス(天空神)と交わり、さまざまな神を生み出したのです。ギリシア神話の主神であり全知全能の存在であるゼウスは、ガイアの孫にあたります。
神々の物語
ゼウスの覇権が確立するまでに起こった神々との戦いや、その後の出来事が描かれています。戦いに勝利したゼウスとその兄弟姉妹は、オリュンポス山の山頂で暮らしました。ゼウスを含めたこれらの神々は「オリュンポス十二神」と呼ばれます。
英雄たちの物語
人間の起源や英雄の誕生、英雄たちのさまざまな神話が描かれています。なおギリシア神話に登場する英雄の多くは、神と人との間に生まれた子です。トロイア戦争やアキレウスに関する記述があるのもこの部分です。
アキレウスはトロイア戦争の英雄
アキレウスはトロイア戦争において、ミュルミドーン人を率いて50隻の船で出陣し、多くの戦果をあげたギリシアの英雄です。ただ、戦争に参加するまでには紆余曲折がありました。
もともとアキレウスの両親は、息子がトロイア戦争に加われば死ぬ運命にあることを知っていました。そこで息子を助けるため、アキレウスをスキュロス島の王リュコメーデースのもとに預けたのです。アキレウスは女の格好をし、王の娘に混じって暮らしました。そこでアキレウスは王の娘のうちの一人と恋に落ち、子どもも生まれます。
ところが運命とは残酷なものです。ギリシア軍の総大将アガメムノーンは、何とかしてアキレウスをトロイア戦争に参加させようとしました。というのも、「アキレウスがいなければ、トロイアは陥落しない」という神託があったためです。
アガメムノーンの命令を受けたオデュッセウスは、アキレウスを説得するため、商人に化けてスキュロス島に向かいました。そこで王の娘たちを前に、きらびやかな衣装や宝石、そして武具を広げて見せたのです。女性たちが衣装や宝石に目を奪われる中、アキレウスだけが武具を手に取りました。こうして正体がばれてしまい、アキレウスはトロイア戦争に加わることになりました。
トロイア戦争とは
トロイア戦争とはギリシア神話に登場する、トロイアとギリシア連合軍との間に起こった戦争のことです。小アジアにあったトロイアに、ミケーネを中心とするギリシア連合軍が大船団を組んで攻め入りました。
トロイア戦争は長い間単なる伝説だと考えられていましたが、トロイ遺跡の発掘により、現在では紀元前13世紀に実際に起こったとする説が一般的になっています。
そもそもトロイア戦争は、全知全能の神ゼウスによって仕組まれた戦争でした。ゼウスは戦争によって地上で増えすぎた人口を減らし、英雄の時代を終わらせようとしたのです。そしてそのために、戦争で華々しく活躍する無双の英雄を誕生させました。この無双の英雄こそがアキレウスです。
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トロイア戦争のきっかけ
トロイア戦争のきっかけとなった事件は、ギリシアサイドであるアキレウスの両親の結婚式で起こりました。ただ一人招待されなかった不和の女神エリスが、怒りのあまり「最も美しい女神へ」と書いた黄金のりんごを結婚式の座に投げ入れたのです。黄金のりんごをめぐって、ゼウスの妻であり最高位の女神ヘーラー、戦いの女神アテーナー、美の女神アフロディーテの3人が激しく対立しました。
あろうことか、ゼウスはこの重大な審判をトロイアの王子パリスに押しつけます。パリスが決められずにいると、3人の女神はそれぞれに「自分を選んでくれたら見返りを与える」と約束しました。へーラーは「アジア全土の王の座」を、アテーナーは「戦での勝利」を、そしてアフロディーテは「最も美しい女」を与えると申し出ます。
パリスはトロイアの王子であったものの、生まれた時の予言で「トロイアの未来にとって災をもたらす」とされたため、聖なるイデ山の斜面に捨てられ、羊飼いの元で生活をしていました。そこに問題ごとが降ってきたのです。
審判は山腹の聖なる泉で行われ、青年に成長したパリスが選んだのはアフロディーテでした。この出来事は「パリスの審判」と呼ばれ、後に多くの作家が絵のテーマに用いました。
黄金のりんごを手に入れたアフロディーテは約束を守らなければなりません。そこで絶世の美女ヘレネーをキューピッドの矢で射ぬき、パリスを愛するように仕向けました。パリスはめでたくヘレネーを連れてトロイアに帰国しますが、ある問題が起こります。
実はこのときヘレネーはすでに、ギリシアでの有力都市・スパルタの王であるメネラーオスと結婚していたのです。妻を奪われて怒り狂ったメネラーオスは、兄のアガメムノーンに相談しました。こうしてアガメムノーンはギリシア全土から志願者を募り、トロイアへと遠征することになったのです。
ギリシア軍の勝利で終結
トロイア戦争は10年にわたって続き、最後は「トロイの木馬」として知られる策略によってギリシア軍の勝利で終わります。トロイの木馬とは知将オデュッセウスが提案した計画です。巨大な木馬を作って中に人を隠れさせ、それをトロイア市内に運び込ませるというものでした。
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計画は成功し、トロイアは一夜にして陥落。この戦争ではゼウスの目論見どおり、両軍大勢の英雄が命を失いました。
アキレウスと関わりの深い人物
トロイアとギリシア間で争ったトロイア戦争。トロイア戦争において、ギリシア側について戦ったアキレウスと特に深い関わりのあった人物を紹介します。
アガメムノーン(ギリシア側)
アガメムノーンは伝説的なミケーネの王です。父アトレウスの死後、全ギリシアの宗主権を持ちました。トロイア戦争では、ギリシア軍の総指揮官として戦ったとされます。アガメムノーンとアキレウスはしばしば対立しており、その様子はイリアスのほか、エウリピデスのギリシア悲劇にも描かれています。
まずトロイア戦争の開戦前、アガメムノーンは出航に必要な風を吹かせるため、女神アルテミスに自分の娘を生け贄として差し出しました。このときアガメムノーンは、「アキレウスと見合いをさせる」と嘘をついて娘を呼び出したのです。アキレウスは怒りと同情から、アガメムノーンに対して反感を持ちました。
またトロイア戦争の終盤、アガメムノーンはアキレウスの愛妾ブリーセーイスを強引に奪います。アキレウスは激怒し、それ以降は戦いに参加しなくなりました。
パトロクロス(ギリシア側)
ギリシア神話に登場する英雄の一つで、アキレウスの親友です。幼い頃からアキレウスとともに育てられ、トロイア戦争にも一緒に参加しました。アキレウスが戦に参加しなくなった際、自軍が戦況不利になったため、アキレウスの鎧を身につけて出陣します。しかし敵を深追いしすぎたため、敵の総大将ヘクトールによって討ち取られました。親友の死を知ったアキレウスは、復讐のために再び戦場へと戻ります。
ヘクトール(トロイア側)
トロイア王プリアモスの子であり、トロイア戦争においてはトロイア最強の戦士として名を馳せました。トロイア戦争のきっかけを作ったパリスの兄でもあります。イリアスでは「兜きらめくヘクトール」と称されています。アキレウスの親友・パトロクロスを討ち取ったことから恨みを買い、アキレウスの手で殺されました。
ケイローン
ギリシア神話に登場するケンタウロス族(半人半馬の怪物)の賢者で、アキレウスの師です。養育者または教師として、多くの英雄たちを導きました。なお、ケイローンがアキレウスに武術を教える様子は絵画の主題としても好まれました。19世紀フランスの画家であるドラクロワも、ケイローンの背に乗って弓矢の手ほどきを受けるアキレウスの絵を残しています。
ペンテシレイア(トロイア側)
アマゾーン(アマゾネス)の女王で、トロイア戦争にはトロイア軍の援軍として参加しました。
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美しく勇敢な娘で、アキレウスに戦いを挑んで討ち取られます。アキレウスはペンテシレイアの美しさに心を打たれ、後悔の念から悲しみにくれました。さらに、「敵軍の女に心を奪われている」と嘲笑した部下を、怒りのあまり殺してしまいます。
トロイアの遺跡は現在のトルコにある
トロイアは、長いこと伝説上の都市だと思われていました。しかしドイツの実業家ハインリッヒ・シュリーマンが私財を投じて1871年に遺跡を発掘したことで、その存在が明らかになりました。
トロイアの遺跡があるのは現在のトルコ西部、ダーダネルス海峡の南のヒサルルクの丘です。1998年に「トロイの古代遺跡」として世界遺産に登録され、現在ではトルコの人気観光スポットとなっています。遺跡の入り口には伝説を元に復元された巨大なトロイの木馬があり、中に入ることもできます。
トロイの古代遺跡までのアクセスは、拠点となる都市チャナッカレからミニバスで30分ほど。イスタンブールからは、バスで5時間ほどの距離です。城塞が広がる丘に立てば、ギリシア神話の世界をより身近に感じることができるでしょう。
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アキレウスは「イリアス」の主人公
アキレウスは叙事詩イリアスの主人公として有名ですが、内容を知らない人も多いかもしれません。ここではイリアスの内容とあらすじを押さえておきましょう。
イリアス(イーリアス)とは
イリアスとは、ギリシア最古の詩人ホメロスによって作られたとされる叙事詩です。叙事詩とは、伝説の英雄や歴史的な出来事などに節をつけて歌う長編の物語詩のこと。イリアスは紀元前8世紀半ば頃に成立し、始めは口承によって広まりました。
文字化されたのは紀元前6世紀後半で、現在のような形にまとめられたのは紀元前2世紀だと考えられています。イリアスは古代ギリシア詩作品のうち最も古いものの一つであり、その後の西洋の文学や芸術に大きな影響を与えました。
イリアスに描かれているのは、10年に渡るトロイア戦争の最後の1年、わずか51日間に起きた出来事です。(なお、51日間というのは数え方によってさまざまな解釈があり、50日、53日、54日とする説もあります。)
2,700年以上も前に作られた作品ですが、登場する神や英雄たちは個性豊かで魅力的。現代人が読んでも十分楽しめるでしょう。なお、ホメロスが作ったとされるもう一つの叙事詩「オデュッセイア」は、イリアスの後日譚にあたります。
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イリアスのあらすじ
イリアスは24巻からなる長編の詩です。内容はアキレウスの怒りから始まり、トロイア軍の英雄・ヘクトールの葬儀までが描かれています。あらすじを簡単に見てみましょう。
トロイア戦争10年目のある日、ギリシア軍の総大将アガメムノーンは、アキレウスが捕虜で愛妾の美しい女性・ブリーセーイスを強引に奪ってしまいます。これに腹を立てたアキレウスは、戦場に出ることをやめました。困ったのはギリシア軍です。ギリシア随一の英雄アキレウスがいなければ、トロイア戦争に勝つことはできません。
アキレウスの親友パトロクロスは、何とか出陣するようアキレウスに懇願します。しかしアキレウスの気持ちは変わりません。そこでパトロクロスはアキレウスに頼み込み、彼の鎧を借りて出陣します。アキレウスの鎧は戦士たちの士気を上げ、一時はギリシア軍が盛り返しました。
しかしその後、パトロクロスはアキレウスの忠告を忘れ、敵を深追いしすぎてしまいます。その結果、トロイア軍の総大将・ヘクトールに槍で突かれ、ついに絶命したのです。ヘクトールはパトロクロスの体から鎧を剥ぎ取り、自分のものにしました。
アキレウスは親友の死を嘆き悲しみ、ヘクトールに復讐するため再び出陣することを決めます。母テティスは出陣すればアキレウスが死ぬことを知っていましたが、彼の情熱に心打たれ、戦場に向かうことを許しました。そして鍛冶のヘパイストスに頼み、新しい武具を作ってもらったのです。
再び戦場に戻ったアキレウスは、恐ろしいほどの勢いでトロイア軍の名だたる戦士たちを倒していきました。そしてついに、ヘクトールとの一騎打ちを迎えます。ヘクトールは、パトロクロスから奪ったアキレウスの鎧を身につけていました。一方アキレウスは、自身の鎧の弱点が首元であることを知っていました。そこで隙をうかがい、槍を喉に突き刺してヘクトールを討ち取ったのです。
アキレウスは自分の鎧を取り返したあと、ヘクトールの遺体を戦車の後ろにつないで引きずり回しました。またパトロクロスの霊をなぐさめるため、豪華な商品を賭けた競技会を開きます。
競技会が終わったあとも、アキレウスはヘクトールの遺体を引きずり回すことをやめませんでした。ヘクトールの父プリアモスは悲しんで、アキレウスに対して「息子の遺体を返して欲しい」と懇願しました。アキレウスはプリアモスの心情を思い、ヘクトールの遺体を返すことにしたのです。こうしてヘクトールの葬儀が行われ、イリアスの幕は閉じます。
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イリアスの物語はトロイア戦争の後半のみ
イリアスには10年に渡るトロイア戦争の中でも、最後の1年の51日間だけが描かれています。そのため、トロイア戦争全般を細かく学びたいときにはあまり向きません。物語として楽しむのが良いでしょう。
一方、ホメロスのもう一つの叙事詩「オデュッセイア」は、英雄オデュッセウスを主人公とした物語です。トロイア戦争終結後から故郷へたどり着くまでの、オデュッセウスの10年に渡る苦難の道のりが描かれています。なおオデュッセイアでは、オデュッセウスが考えたことで有名な「トロイの木馬」についても言及されています。時系列を考えると、イリアスから先に読むのがおすすめです。
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イリアスを読んでみよう!
イリアスは日本語訳もされています。現在、最も多くの人に読まれている訳を紹介します。
ホメロス イリアス 上 (岩波文庫)、松平千秋訳
ホメロス イリアス 下 (岩波文庫)、松平千秋訳
こちらは1992年に出版された翻訳です。散文調になっているため、それまでに出版されていた韻文調の訳に比べて読みやすいのが特徴です。散文調といっても独特のリズムがあり、声に出して読みたくなる一冊です。
アキレウスが登場する創作作品
映画やゲーム、小説などにもアキレウスを扱ったものがあります。最後に、アキレウスが登場する作品を3つ紹介します。3,000年以上も昔の古代ギリシアのストーリーが、現代に蘇っていると思うと感慨深いですね。いつの時代も、神様も人間も本質は変わらないという点に多くの人が共感し心打たれていると思うと、触れてみたくなるのではないでしょうか。
映画「トロイ」
2004年のアメリカ映画で、トロイア戦争をモチーフにした壮大な作品です。アキレウスをブラッド・ピットが、トロイアの王子パリスをオーランド・ブルームが演じて話題になりました。なお、「トロイ」はホメロスの叙事詩イリアスにインスピレーションを受けて製作されたものの、あくまでフィクションです。神話と異なる点が多いため、批判も少なくありませんでした。ただし豪華スターが共演したこともあって、興行的には大成功をおさめました。
ゲーム「Fate/Grand Order」
「Fate/Grand Order(FGO)」は、2015年から配信されているスマートフォン向けRPGゲームシリーズです。アキレウスは、「Fate/Apocrypha」にサーヴァントの一人として登場します。注目すべきは、アキレウスのゲーム内の設定がギリシア神話を反映している点です。アキレウスの宝具として、ケイローンから贈られたトネリコの槍や鍛冶神ヘパイストスが作った大盾、3頭の名馬が引く戦車などが登場します。また足が非常に速いことや、弱点がかかとというのも伝説と同じです。
小説「アキレウスの歌」
英雄アキレウスと、無二の親友であるパトロクロスの友情を描いた、切ない青春の物語です。イギリスで最も権威ある文学賞の一つ「オレンジ賞」を受賞し、23カ国語に翻訳されました。
アキレウスの歌 マデリン ミラー (著) 川副 智子 (翻訳)
イリアスではトロイア戦争の最後の51日間のみを扱っていますが、「アキレウスの歌」はその前後についても書かれています。トロイア戦争の流れを理解するのにも役立つ一冊です。
トルコ旅行では古代ギリシアの風を感じよう
神と人との間に生まれた英雄アキレウスは、トロイア戦争で華々しい活躍をし、神託どおりに短い生涯を終えました。トロイア戦争は紀元前13世紀というはるか昔に起こった出来事だとされますが、イリアスに描かれた人間模様は、今も私たちの心を揺さぶります。トルコを訪れた際は、ぜひトロイアの遺跡に立ち寄ってみてください。ヒサルルクの丘にたたずむ城塞は、古代ギリシアの風を感じさせてくれることでしょう。
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