トルコ美術の世界を紹介!オスマン帝国時代から現代まで、時代を反映しながら力強く華やかに発展し続ける芸術
更新日:2023.04.05
投稿日:2022.08.17
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オスマン帝国時代から現代まで、トルコ美術はその歴史を反映するかのように変化し発展し続けています。
栄華を極めたオスマン帝国の時代には壮大な建築や、世界中でその美しさが称賛されたイズミックタイルなどが発展。トルコ共和国建国から現代へと歴史が流れる中で、その担い手は変化し、絵画や風刺漫画、写真芸術などが発展していきます。
長い歴史の中でさまざまな文化が交差してきた国、トルコを彩り続けるトルコ美術の世界をのぞいてみましょう。
Contents
オスマン帝国時代のトルコ美術
ここでは、オスマン帝国時代のトルコ美術についてご紹介していきます。オスマン帝国が栄華を極め、その文化も花開いていったこの時代の壮大なトルコ美術の数々を堪能してくださいね。
オスマン帝国時代の美術の特徴
1299年~1922年のオスマン帝国時代のトルコ美術は、イスラム美術やセルジューク美術などを基盤にビザンチン美術の影響も受けながら発展していきます。この時代は、オスマン帝国の発展を反映するように特に壮大な建築美術が発達。さらに15世紀以降はイズニクやキャタフヤを中心にタイルや陶器の文化や技術も花開きます。
絵画では控えめな色調のミニアチュールが盛んに描かれ、肖像画が発達したのもこの時代の特徴のひとつです。
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文化の円熟期チューリップ時代
オスマン帝国皇帝のアフメット3世の時代の後半、1718~1730年ころの時代は「チューリップ時代」と呼ばれています。この時代にヨーロッパからチューリップが輸入され熱狂的に愛好されたのでこの呼び名が付いたのだとか。
宮廷を中心に西欧文化が移入し、きらびやかな新文化が花開いていった時代でもあります。この時代の美術品のモチーフにチューリップが描かれているものが多くみられるのも特徴的です。
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オスマン帝国の天才建築家「ミマール・スィナン」
ミマール・スィナンは、オスマンのミケランジェロとも称された天才建築家。オスマン帝国時代のトルコ美術を語る上では欠かせない人物です。オスマン帝国時代に特に花開いた壮大な建築の担い手で、手がけた建築は700以上。オスマン帝国のみならず、イスラム世界の建築史に輝く業績を残した人物でもあります。
ミマール・スィナンは、その生涯でスルタンの権威の象徴ともいうべき巨大なモスクを3つ手がけています。スィナンの仕事を代表するその3つのモスク「スレイマニエ・モスク」「シェフザーデ・モスク」「セミリエ・モスク」のなかでも、セミリエ・モスクは最高傑作との呼び声が高く、オスマン帝国時代のトルコ美術の粋が集約されている建築物といえるでしょう。
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オスマン帝国時代に最盛期を迎えたイズニックタイル
イズニックタイルとはトルコ伝承のタイル装飾で、長い歴史を誇るトルコを代表する伝統美術のひとつです。独自の技法で粘土を形成し、様々なモチーフを描くもので、オスマン帝国時代に建築装飾として最盛期を迎えました。
代表色は赤、ターコイズブルー、コバルトブルー、ダークパープル、黒の5色で、イズニック陶器は17世紀には建築装飾だけでなく、食器類やオイルランプなどにも使用され、その美しさや技術などすべての面において世界で称賛されました。
イズニックタイルの美しさを最高峰に極めているのが、世界遺産にも登録されているイスタンブール歴史地区にある「スルタン・アフメット・モスク」。その美しい色合いからブルーモスクとも呼ばれています。
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絵画ではヨーロッパ伝来のミニアチュールが発展
ミニアチュールとは、細密画と呼ばれる小型の技巧的な絵のこと。肖像画を主とする小画面の絵画の意味で16~19世紀頃にヨーロッパで多く制作されていました。控えめな色調で、ヨーロッパから伝わりオスマン帝国にも広まっていきました。ミニアチュールの発展により肖像画が発達したのも、この時代の特徴のひとつといわれています。
オスマン帝国時代のトルコ美術を鑑賞できるおすすめスポット
ここでは、オスマン帝国時代のトルコ美術が緩衝できるスポットをご紹介します。トルコの観光スポットとしても外せないスポットばかりですので、次回の旅行で訪れてみてくださいね。
スレイマニエ・モスク
世界遺産にも登録されているイスタンブール歴史地区にあるモスク。当時のスレイマン大帝の権力の大きさを物語る壮大なモスクで、オスマンの天才建築家ミマール・スィナンの最高傑作といわれています。
名称 | スレイマニエ・モスク |
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住所 | Eminönü, Prof. Sıddık Sami Onar Cd, 1-45, 34116 Süleymaniye, İstanbul, Türkiye – İstanbul |
公式サイト | http://www.suleymaniyecamii.org/ |
スレイマニエ・モスクとは?トルコ・イスタンブールにそびえ立つオスマン帝国最高の建築
スルタン・アフメット・モスク
ブルーモスクの名で知られている美しいモスクで、世界遺産にも登録されているイスタンブール歴史地区にあります。
名前の由来ともなった青を基調としたイズニックタイルが、内部の壁に21,043枚も敷き詰められています。自然光をモスクに取り入れている200以上のステンドグラスも必見です。
名称 | スルタン・アフメット・モスク |
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住所 | Sultan Ahmet, Atmeydanı Cd. No:7,34122 Fatih/İstanbul |
公式サイト | http://www.sultanahmetcamii.org/ |
世界で最も美しいと称されるブルーモスクの見どころは?イスタンブール観光を満喫
セリミエ・モスク
ギリシャとブルガリアとの国境に接する町エディルネのシンボルともいえるモスクで、世界遺産にも登録されています。
天才建築家ミマール・スィナンの建築の集大成ともいわれていて、スィナンが造った最も美しい「親方時代の傑作」でありオスマン建築の最高峰。世界建築の中でも特記に値するといわれています。
名称 | セリミエ・モスク |
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住所 | Meydan, Mimar Sinan Cd., 22020 Merkez/Edirne |
公式サイト | https://www.kulturportali.gov.tr/portal/edirneselimiyecamiivekulliyesi |
セリミエ・モスク|トルコ・エディルネにあるオスマン建築最高傑作の世界遺産
トプカプ宮殿
トプカプ宮殿は、オスマン帝国のスルタンの居城で、別名「チューリップの宮殿」とも呼ばれています。
世界遺産にも登録されているイスタンブール歴史地区を代表する建築物で、建築物としての素晴らしさはもちろん、内部はタイルやステンドグラスをはじめとした豪華な装飾で彩られ、空間全てでオスマン帝国時代のトルコ美術を感じることができます。
トプカプ宮殿内にある宝物館では、86カラットの巨大ダイヤが輝く「スプーン職人のダイヤモンド」や、巨大エメラルドがあしらわれた「トプカプの短刀」など、オスマン帝国の繁栄を実感させる財宝などが展示されています。
きらびやかなトルコ美術の粋を間近で感じられる唯一無二のスポットですので、トプカプ宮殿とともにじっくり見学してください。
トプカプ宮殿はオスマン帝国皇帝達380年の居城!見逃せない観光ポイント!
名称 | トプカプ宮殿 |
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住所 | Cankurtaran, 34122 Fatih/İstanbul |
公式サイト | https://www.millisaraylar.gov.tr/en/palaces/topkapi-palace |
近現代の新しいトルコ美術の変遷
ここでは、オスマン帝国の時代以降から現在までの、近現代のトルコ美術についてご紹介していきます。
新しいトルコ美術をけん引した「絵画」
オスマン帝国からトルコ共和国となり、その時代の画家たちの育成に努めたのが「1914年ジェネレーション」と呼ばれる画家たちです。彼らは、オスマン帝国時代末期の1910年代にヨーロッパに留学し、印象派の理念や象徴派的解釈をトルコ絵画界にもたらし、美術アカデミーで教鞭をとりました。
その後、1926年にヨーロッパへ派遣され、フォビズムやキュビズム、表現主義に触発されて帰国した若いトルコ人アーティストにより「インディペンデント(ミュスターキラー)」というグループが発足。トルコ絵画の世界に現代の世界のトレンドをもちこみました。さらに時をほぼ同じくして「Dグループ」が誕生。絵画は立体主義を基本とする分析的解釈および抽象化へと向かっていきます。
1950年代には「オンラル・グループ」により、トルコの伝統的な題材であるミニアチュールやキリム、モザイクなどにも現代的解釈が加えられるようになります。その後、絵画芸術は1980~90年代に躍進し、1980年代以降からは伝統的油彩画のほかに概念芸術も広まっていきました。
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1960年代に世界進出が始まった「写真芸術」

アラ・ギュレル写真展(京都市)
トルコ写真芸術のアイデンティティの確立と国外への進出が始まったのは1960年代。1961年に、アラ・ギュレル(Ara Güler)氏が世界の7大写真家のひとりに選ばれたことが、世界進出の大きな1歩となりました。2003年にはトルコ写真芸術連盟も結成され、組織化面でも前進。現在も進化を続けています。
時代に新たな風を吹き込んだトルコ美術「風刺漫画」
トルコ共和国建国当時、雑誌『アクアバ(トルコ語でハゲワシの意味)』は、さまざまな思想を表現した作家や画家により時代にその名をはせます。その後、第2次世界大戦後の多政党体制の中始まった新自由主義とともに、風刺漫画も体質が変化していきます。
この時代を表す最も重要な風刺漫画雑誌が『マルコ・パシャ』という雑誌です。トルコの美術界に新たな風を吹き込んだ1950世代の風刺漫画家たちは、文字に頼らない線描風刺漫画を発達させました。
1960~70年には1950世代の作家が形成した風刺漫画にさらに独自性を加えながら発展。1970年代に出版された週刊風刺漫画誌『グルグル』に集った若手風刺漫画家などが、歪んだ都市化問題が作り出した人間像や出来事を皮肉りながら、言葉を使った日常的な滑稽譚を作り出し、1980年代以降は言葉と文章に線描を混在させながら、社会の価値観の変化を批判・分析するようになっていきます。
2004年末に開設されたアナドル大学風刺漫画芸術研究実践センターの博物館には、約2,000点もの作品が所蔵されています。
トルコ美術を鑑賞できるおすすめ美術館・博物館
ここでは、オスマン帝国時代から近現代までのトルコ美術が鑑賞できる美術館や博物館を紹介していきます。
イスタンブール現代美術館
トルコ初のコンテンポラリーアート専門の美術館。国内外のアート作品を紹介しているほか、イベントなども開催しています。
名称 | イスタンブール現代美術館 |
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住所 | Kılıçali Paşa, Tophane İskele Cd. No:1/1, 34433 Beyoğlu/İstanbul, トルコ |
公式サイト | https://www.istanbulmodern.org/en |
トルコ イスラム美術博物館
スルタン・スレイマン大帝時代の大宰相イブラヒム・パシャの邸宅跡にある美術館。細密画やスルタンの勅令書、ミニアチュール、トルコ絨毯などの伝統的な工芸品が展示されています。
名称 | トルコ・イスラム美術博物館 |
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住所 | Sultanahmet Mh., Meydanı Sok. No:46, 34122 İstanbul |
憧れのトルコ絨毯の基礎知識!賢く購入するために知っておきたい情報を伝授
イスタンブール考古学博物館
イスタンブール考古学博物館は、トプカプ宮殿の庭にある古代オリエント博物館、考古学博物館、チニリ・キョシュク(装飾タイル博物館)の3つの総称です。
3つの博物館で6万点の考古学的出土品、76万枚のコイン、7万5,000枚の粘土板など計100万点以上が収蔵されていて、コレクションの豊かさはトルコ国内で最大。
名称 | イスタンブール考古学博物館 |
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住所 | Alemdar Caddesi,Osman Hamdi Bey Yokuşu,Gülhane |
公式サイト | https://muze.gov.tr/muze-detay?SectionId=IAR01&DistId=IAR |
東西文明の歴史が集合!イスタンブール考古学博物館の見どころを紹介
サキプ・サバンジュ美術館
自然の中にある白亜の私立美術館。オスマン帝国時代の絵画やカリグラフィーなどが展示されています。
名称 | サキプ・サバンジュ美術館 |
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住所 | Sakip Sabanci Caddesi, No. 42 Emirgan, istanbul |
公式サイト | https://sakipsabancimuzesi.org/en |
国立絵画彫刻美術館
19世紀以降のさまざまな作品が展示されていて、世界屈指のトルコ美術作品にふれられます。
名称 | 国立絵画彫刻美術館 |
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住所 | Hacettepe, Türkocağı Sk. Resim Ve Heykel Müzesi, 06230 Altındağ/Ankara, トルコ |
公式サイト | https://arhm.ktb.gov.tr/ |
大宮殿モザイク博物館
メフメト2世がコンスタンティノープルを攻略した際に、街の再建のために撤去された大宮殿の地下から発見されたモザイク画を一般公開している博物館です。
名称 | 大宮殿モザイク博物館 |
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住所 | Eminönü, Torun Sk, 1-21 34122 Sultanahmet,Istanbul |
公式サイト | https://muze.gov.tr/muze-detay?SectionId=MOZ01&DistId=MOZ |
イスタンブール「大宮殿モザイク博物館」の観光情報!見どころは?
隈研吾による私立美術館「オドゥンパザル近代美術館」にも注目
Turchia: il nuovo Odunpazari Modern Museum – OMM, progettato da Kengo Kuma #musei #architettura #cultura #progetti #design #pregettazione #architetti https://t.co/KKPsrXRtEp pic.twitter.com/sP7kSeWqnc
— inexhibit_mag (@Inexhibit_mag) September 12, 2019
「オドゥンパサル近代美術館」は2019年9月に開業した私立美術館で、トルコ北西部のエスキシェヒルにあります。この近代美術館は、日本を代表する建築家、隈研吾(くまけんご)が建築を手掛けたことでも話題となりました。アートコレクターで実業家のエロル・タバンジャ氏によって設立され、1950年代から現在までの重要な近現代アートコレクションが収蔵・展示されていますので、興味のある方はぜひ立ち寄ってみてください。
トルコ美術に出会う旅へでかけよう
ここまで、オスマン帝国時代から近現代までのトルコ美術について解説してきました。
建築やイズミックタイルなどの美術品や技術は、歴史的にも栄華を誇ったオスマン帝国時代に花開いた文化。チューリップ時代とも呼ばれるトルコ的ルネッサンス時代には、トルコ美術も最盛期を迎え一時代を築きました。
また、トルコ共和国へと歴史が変化する中、トルコ美術の主役も変化。現代まで時代とともに変遷しながら発展しています。
オスマン帝国時代から現代まで、トルコ美術を目にすることができるスポットはたくさんあります。次回のトルコ旅では、トルコ美術の世界を堪能してみてはいかがでしょうか。
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