ギリシャ神話をわかりやすく解説!あらすじ、十二神、英雄、怪物もまとめて紹介
更新日:2023.12.05
投稿日:2022.07.09
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古代ギリシャ時代から語り継がれてきたギリシャ神話は、長きにわたり西洋文明に大きな影響を与えてきました。
「ギリシャ神話」と聞いて、すぐにあらすじや神々の名前が思い浮かぶ方は少ないかもしれません。しかし、ビックリマンのキャラクターでお馴染みの「ゼウス」や、ギリシャの首都アテネの由来になった女神「アテナ」、架空の生き物として描かれる「ペガサス」など、実は馴染みのある名前が多く登場します。アニメやゲームのキャラクターなど、ギリシャ神話の登場人物がモデルになっているケースは非常に多いのです。
本記事では、ギリシャ神話のあらすじや登場人物についてわかりやすく解説します。
Contents
ギリシャ神話とは
ギリシャ神話とは、神々が繰り広げる愛憎劇を通じて世界の始まりや成り立ちを描いた、古代ギリシャ時代より語り継がれる伝承文化です。
ギリシャ神話で知られる神々や英雄の物語は、およそ紀元前15世紀頃にまで遡ります。物語は口承形式で伝えられ、紀元前9~8世紀頃にはホメロス(ホーメロス)によって二大叙事詩「イリアス」「オデュッセイア」にまとめられました。
ホメロスの叙事詩は人間の英雄たちが主な登場人物でしたが、紀元前8~7世紀頃には前日譚である神々の物語「神統記」がヘシオドスによってまとめられます。より明確なストーリーをもって語り継がれることとなったギリシャ神話は、ヨーロッパの文芸や美術に大きな影響を与えました。
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オリュンポス十二神
ギリシャ神話に登場する神々の中でも、とくにオリュンポス十二神はその中心となる存在です。オリュンポス山(現代のギリシャの最高峰オリンポス山)の山頂に住んでいたと伝えられ、最高神ゼウスをはじめとした男女6柱ずつの神々で構成されます。
世界創造の神である原初神がすべての始まりですが、まずは馴染みのあるオリュンポス十二神から紹介しましょう。ギリシャ語表記と英語表記の違いも面白いので、注目してみてください。
ゼウス(ギリシャ語:Zeus、英語;Jupiter)
ゼウスは全知全能の最高神であり、オリュンポス十二神をはじめとする神々の王です。また、天候(特に雷)を司る天空神、神々の家族や人類にとっての守護神・支配神でもあり、神々と人間たちの父と考えられています。
絶対的な力によって全宇宙と天候を支配しており、世界を破壊できる強大な力を持ちます。天候を司るゼウスは、ケラウノスという雷の武器を使うことでも有名です。正義と慈悲の神であり、秩序を乱すものに対しては容赦がないという側面も持ち合わせていました。
一方、妻ヘラの目を盗んで女性に手を出しては子孫を増やす好色な神でもあり、ゼウスが愛した女性たちとの間には多くの子供が生まれました。
ヘラ(ギリシャ語:Hera、英語:Juno)
ヘラ(ヘーラー)はゼウスの実の姉であるとともに正妻で、ギリシャ神話の中で最高位の女神です。婚姻の神、女性の守護神とも呼ばれています。
ヘラは気が強く嫉妬深いため、気に入らない者は容赦なく罰しました。また、浮気ばかりのゼウスとは対照的にヘラは貞淑だったため、ゼウスの浮気相手やその子供を恨み、苛烈な仕打ちを行いました。
ローマ神話ではJuno(ユノ)と呼ばれ、6月(June)はユノに捧げられた聖なる月とされています。ジューンブライドで6月の花嫁が幸せになれるのは、ヘラ(ユノ)の祝福を受けられるからだといわれています。
アテナ(ギリシャ語:Athena、英語:Minerva)
知恵と純潔の女神アテナ(アテーナー)は、ギリシャの首都アテネの守護神であることから、都市名の由来にもなっています。ゼウスと最初の妻メーテス(メティス)との子にあたり、ゼウスの頭部から誕生したとされています。アテナのシンボルは、オリーブとフクロウです。
美と知恵を兼ね揃えた女神でありながら、理性的で気高い戦士としての一面を持つ、生涯処女を誓った三大処女神の一人です。信仰の対象として古代ギリシャ時代から人気があり、アテネのパルテノン神殿では処女神として祀られています。
アテナの使用する胸あてや肩あて、盾などは「アイギス」と呼ばれる神聖な防具であり、あらゆる邪悪や厄災を払う力があるとされていました。
アポロン(ギリシャ語:Apollon、英語:Apollo)
アポロン(アポローン)は、ゼウスと女神レト(レートー)との間に生まれた子であり、アルテミスの双子の兄にあたります。予言や芸術、音楽、医療、弓矢の神とされています。
アポロンは金の弓矢を武器に戦う優れた弓の名手で、疫病をもたらすとされる矢に射られた者は即死してしまいます。トロイア戦争では、敵兵を次々と弓矢で射抜きました。また、牧畜や光明、太陽、医術の神とも呼ばれるなど、さまざまな側面をあわせ持った神だとされています。
アポロンはオリュンポス十二神の中でも一番の美男子だったといわれていますが、失恋による悲劇が多く描かれています。
アルテミス(ギリシャ語:Artemis、英語:Diana)
アルテミスは、ゼウスと女神レト(レートー)の子であり、アポロンの双子の妹にあたります。狩猟や森林、貞淑、豊穣、月の女神とされています。
アルテミスは、海の神ポセイドンの息子オリオンを愛していました。しかし、兄のアポロンは二人の仲を良く思っていません。
ある日、オリオンがサソリに追われて海の沖合に逃げたのを見たアポロンは、アルテミスに「あの遠くに光る丸太を射あててみよ」と言います。アルテミスは丸太に矢を放ちますが、矢の先にいたのは愛するオリオンでした。翌日浜辺に打ち上げられたオリオンを見たアルテミスはひどく悲しんだため、父ゼウスはオリオンを星にして天に昇らせ、オリオン座としました。
トルコのエフェソス遺跡には、アルテミスを祀った総大理石の「アルテミス神殿」が見つかっています。アルテミス神殿は、世界七不思議の一つに挙げられていることでも有名です。
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アフロディーテー(ギリシャ語:Aphrodite、英語:Venus)
アフロディーテ-(アフロディテ、アプロディテ)は愛と美の女神であり、最高の美神とされています。また、戦いの女神という側面も持ち合わせています。
ゼウスと女神ディオーネーの子という説もありますが、天空神ウラノスの切り落とされた男根(男性器)の泡から生まれたという説が一般的です。
アフロディーテーは気が強く、ほかの女神達とあまり折り合いが良くありませんでした。しかし最高の美しさを持ち合わせていたため、多くの神々から求愛されました。
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アレス(ギリシャ語:Ares、英語:Mars)
アレス(アレース)は、ゼウスとヘラの子供であり、戦いの神とされています。
アテナが戦争に勝つための戦略や栄誉の神とされる一方、アレスは狂乱や破壊の神です。戦争の厄災を司る荒れた神として畏怖されており、粗野で残忍な性格を持っています。
ギリシャ神話に登場する神の中ではあまり人気がありませんが、美男子として有名であり、最高美神アフロディーテーの恋人となっています。
デメテル(ギリシャ語:Demeter、英語:Ceres)
デメテル(デーメーテール)は、ゼウスの姉にあたる農耕・大地の女神であり、その名前は古代ギリシャ語で「母なる大地」を意味します。
好色な弟ゼウスに迫られた結果、娘ペルセポネー(ペルセポネ)が生まれました。ある時、娘のペルセポネ-が冥界の神ハデスに略奪されます。デメテルは嘆き、洞窟に閉じこもってしまったため、草木は枯れ、地上は荒れ果ててしまいました。
ゼウスは娘を帰すようハデスに命じましたが、ペルセポネーは冥界のザクロの実を食べてしまっていたため、地上に戻れません。困ったゼウスは、ペルセポネーが1年の3分の1を冥界、残りの3分の2を地上で母と過ごせるようにしました。
ペルセポネーと一緒にいられる間は、デメテルの機嫌が良いため大地は緑に覆われました。しかし、ペルセポネーが冥界にいる間は、悲しみによって雪の降る冬が訪れます。デメテルの機嫌によって、地上に四季ができたといわれているのです。
ポセイドン(ギリシャ語:Poseidon、英語:Neptune)
ポセイドンはゼウスの兄にあたり、ゼウスに次ぐ圧倒的な強さを誇る、海洋や地震、馬の神とされています。三叉の槍を装備しており、嵐や津波を簡単に起こせるほか、大地を真っ二つにしたり、山を吹き飛ばしたりするほどの強さを持っています。
ギリシャ神話で有名な蛇の頭髪を持った怪物メドゥーサは、ポセイドンの愛人でした。メドゥーサとポセイドンの間に生まれたのがペガサスです。
ちなみに、ディズニー映画「リトル・マーメイド」の主人公アリエルの父にあたる海の王トリトンは、ギリシャ神話に出てくるポセイドンの息子と同じ名前です。
ヘルメス(ギリシャ語:Hermes、英語:Mercury)
ヘルメス(ヘルメース)はゼウスと女神マイアの子供であり、羽根の生えた空を飛べる靴を履いています。神々の使者として世界を駆ける伝令使でありながら、青年神や旅人の安全を守る守護神としての一面も持っています。
ヘルメスは父ゼウスの忠実な部下であり、機転が利くため巨人アルゴスの暗殺など多くの密命を果たしました。また、サイコロや天文学、アルファベットの発明により人間文化の発展にも貢献しました。
へーパイストス(ギリシャ語:Hephaistos、英語:Vulcan)
へーパイストス(ヘパイストス)はゼウスとヘラの第一子となる息子であり、火山・炎・鍛冶の神です。容姿に恵まれず、足の自由も失いましたが、鍛冶屋として磨いた腕によってさまざまな武器や道具を生み出し、オリュンポスに自らの居場所を築きました。
ゼウスの雷電やアルテミスの矢、トロイ戦争で活躍したアキレウスの武具なども、ヘーパイストスが作ったものです。美の女神アフロディーテーと結婚しますが、彼女の浮気により離婚する結果となりました。
ヘスティアー(ギリシャ語:Hestia、英語:Vesta)
ヘスティアー(ヘスティア)は、ゼウスやヘラ、ポセイドンの兄弟にあたり、かまどの神・家庭生活の守護神とされています。夫や子供を持たない、アテナ、アルテミスと並ぶギリシャ神話の三大処女神の一人です。
かまどの神として家の中心にいたため、ほかの神々のように外での戦いに登場することはほとんどありません。
オリュンポス十二神の一柱には、ヘスティアーの代わりに甥である豊穣と葡萄酒の神ディオニュソス(ディオニューソス)が挙げられることもあります。十二神に入れず嘆く甥を憐れみ、ヘスティアーが地位を譲ったためといわれています。
ギリシャ神話のあらすじ
ここでは、オリュンポス十二神以前の原初神から始まるギリシャ神話のあらすじを紹介します。
カオスから生まれた大地の女神ガイア
かつて世界はカオス(混沌)に満たされていました。カオスから大地の女神ガイアが生まれ、ガイアは奈落の神タルタロスや愛の神エロスなど原初の神々を産み出しました。
ガイアが自分の息子ウラノスと交わったことで、ティターン(ティーターン、タイタン)神族と呼ばれる多くの神々が誕生します。
ガイアの子クロノスによる支配の始まり
ガイアとウラノスの子供には、キュクロプスやヘカトンケイルなどの怪物も含まれました。ウラノスは醜い怪物たちを嫌ったため、奈落の神であり、奈落そのものでもあるタルタロスに幽閉します。
ガイアはウラノスの行為を深く悲しみ、憎しみを抱きます。そして農耕の神である息子クロノスをそそのかし、父であるウラノスの性器を切り捨てることで追放させました。ウラノスの時代が終わり、クロノスによる支配が始まったのです。
最高神ゼウスの誕生
クロノスは大地の女神レアと結婚し、二人の間にはのちのオリュンポス十二神にあたるヘラやポセイドン、冥界の神ハデスなどの子供が生まれます。
しかし、父ウラノスの「お前も私のように子供に権力を奪われることになる」という予言が頭を離れず、クロノスは怯えていました。そして恐怖に駆られたクロノスは、生まれてくる子供たちを次々と飲み込んでしまうのです。
妻のレアは6番目の子供を隠し、代わりに石を布で包んでクロノスに渡しました。石を飲み込んだことに気付かないクロノスの目を逃れ、密かに育てられた子供が「最高神ゼウス」でした。
神々とティターン神族の戦い「ティタノマキア」
成長したゼウスは、母レアと協力して父クロノスに薬を飲ませ、飲み込まれた兄や姉を吐き出させます。そしてギリシャの最高峰オリュンポス山に住み始めました。
しかし、怒った父クロノスはティターン神族を率いてゼウスたちと敵対し、全宇宙の支配権を巡る「ティタノマキア」という大戦争が起きます。ゼウスたちは、50個の頭と100本の手を持つ巨人ヘカトンケイルの3兄弟を味方につけたうえ、それぞれの武器を駆使して戦いました。最終的に、ティターン神族の奈落タルタロスへの幽閉に成功します。
神々とギガース軍団の戦い「ギガントマキア」
ティターン神族の母ガイアは、大切な子供たちが幽閉されてしまったことから孫のゼウスに激しく憤ります。
ガイアはかつてウラノスの性器が切り落とされたときに流れた血から受胎しており、ギガースという巨人の軍団を生み出していました。ギガース軍団との戦い「ギガントマキア」では、ゼウス軍は相手の巨大な体躯と凶暴な性格に苦しみますが、何とか退けることに成功します。
最強最大の怪物テュポーンとの戦い
ガイアは最終手段として奈落の神タルタロスと交わり、ギリシャ神話最強最大の怪物テュポーンを誕生させます。
テュポーンは上半身が人で下半身が大蛇であり、肩からは無数の蛇が生え、腕を広げれば世界の端まで届き、光る目玉や口からは炎を吹き出し、咆哮で大地を震わせる恐ろしい怪物でした。強さは最高神ゼウスにも匹敵するほどで、一度はゼウスを負かします。しかし、ヘルメスなどの助けによって形成が逆転しました。
騙されたテュポーンは希望の果実と間違えて絶望の果実を食べてしまい、戦闘不能になったところをゼウスに封印されます。テュポーンに勝利したことで、ゼウスの一族であるオリュンポス十二神がその後の世界を支配しました。
人間同士の争い「トロイア戦争」
神同士のさまざまな戦いを経て、オリュンポスの神々には長い平和が訪れていました。しかし人間の数が増えすぎたと感じたゼウスは、人間同士を争わせることにします。
もっとも美しい女神を決める「パリスの審判」
天界にて、女神テティスと人間の英雄ペレウスの結婚式が執り行われました。宴席にはすべての神が招かれましたが、ゼウスの策略により不和の女神エリスだけは招かれませんでした。
怒ったエリスが宴席に「最も美しい女神へ」と書かれた黄金のリンゴを投げ入れたところ、三人の女神ヘラ、アテナ、アフロディーテーがこれを欲しがります。ゼウスは、黄金のリンゴを誰に渡すべきか、トロイアの王子パリスに判断を委ねます。パリスから林檎をもらうため、ヘラは「栄光」、アテナは「勝利」、アフロディーテーは「最も美しい女性」を差し出すといいました。
パリスはアフロディーテーを「最も美しい女神」に選び、見返りに「最も美しい女性」である敵国スパルタの王妃ヘレネを受け取りました。パリスは敵国からヘレネを略奪しますが、怒ったスパルタ王メネラオスと兄のミケーネ王アガメムノンがトロイアに攻め込みます。
「パリスの審判」をきっかけとして、トロイア戦争が始まりました。
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ギリシャ軍による「トロイの木馬」作戦
9年間も続いたトロイア戦争では、多くの人間が命を落としました。ある日、ギリシャの知将オデュッセウスは巨大な木馬を造り、内部に兵を潜ませてトロイア軍の城内に入る計画を立てます。
ギリシャ軍が消え、代わりに大きな木馬が置いてあったため、敗走したと考えたトロイア軍は木馬を城内に引き入れました。夜になると、木馬の中から出たギリシャ軍は門の鍵を開き、押し寄せた大軍によりトロイアは一夜で陥落しました。
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アイネイアースが築いた古代ローマの礎
ギリシャ軍によって一夜で陥落したトロイアですが、王子アイネイアースは生き残っていました。アイネイアースはトロイア王の血を引くアンキセスと女神アフロディーテーの子供です。
トロイアを脱出し、あてのない旅をしていたアイネイアースに対し、ゼウスはイタリアでトロイアを再建するようお告げを与えます。イタリアにたどり着いたアイネイアースは、古代ローマの礎を築きました。
トロイア戦争の舞台であった古代都市トロイの遺跡はトルコで発掘され、世界遺産に登録されています。
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ギリシャ神話の英雄たち
ギリシャ神話には、神々のほかにも有名な英雄が多数登場します。ここでは、代表的な英雄を5人紹介します。
ヘラクレス
ヘラクレス(Hercules)はゼウスと人間の間に生まれた半神半人であり、屈強な身体と困難に立ち向かう強い意志を持った英雄です。
何世紀にもわたる活躍によって「12の功業」と呼ばれる数々の偉業を成し遂げました。具体的には、九頭の怪物ヒドラの討伐、アマゾン女王ヒッポリタの腰帯の入手、3つの頭を持つ地獄の番犬ケルベロスの捕獲、ネメアの獅子の殺害などが含まれています。
さまざまな偉業を成し遂げたヘラクレスですが、浮気の可能性に嫉妬した妻の手で殺されてしまいます。死後、神々に迎え入れられたヘラクレスはオリュンポスの神となりました。
アキレウス
アキレウス(アキレス)は、トロイア戦争に参加したギリシャ人の中で最高の戦士でした。母のテティスは、生まれたアキレウスを冥府に流れるステュクス川に浸し、無敵の戦士にしました。しかし、母親がつかんだ踵だけが水に浸からなかったため、唯一の急所となったのです。
トロイア戦争で活躍していたアキレスですが、トロイア王パリスの放った矢が急所である踵に命中したことで亡くなってしまいます。以後、踵は「アキレス腱」と呼ばれるようになり、致命的な弱点を意味する言葉としても使われるようになりました。
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ペルセウス
ペルセウスはゼウスとダナエー(アルゴス王アクシリオスの娘)の子であり、半神半人の英雄です。神々から授かった魔術的な武具を駆使し、怪物メドゥーサの退治を成し遂げました。
ペルセウスはメドゥーサの首を切り落とし、切断した頭を女神アテナに献上しました。帰路、生贄になっていたエチオピア王女アンドロメダを救出し、彼女と結婚します。
ミケーネ王家の創始者となったペルセウスは、死後に妻アンドロメダとともに天に昇り、星座となりました。
オリオン
オリオンは、海の神ポセイドンとミノス王の娘エウリュアレーとの子であり、すぐれた美貌の持ち主でした。
父である海の神ポセイドンからは、海を歩く力を与えられています。女神アルテミスの恋人であったオリオンは、死後ゼウスによって天に送られ、オリオン座となりました。
アスクレーピオス(アスクレピオス)
アスクレーピオスは、オリュンポスの十二神アポロンの子であり、優れた医術の技を持つ英雄でした。蘇生作用があるメドゥーサの血をアテナから授かり、死者すら蘇らせることが可能でした。
しかし、死者を蘇らせるアスクレーピオスを嫌悪した冥界の王ハデスは、ゼウスに依頼して雷で撃ち殺させます。しかし、死後には功績を認められたことで、天に昇ってへびつかい座となったほか、医神として神の一員に加えられました。
ギリシャ神話の怪物たち
ギリシャ神話には神々や英雄だけでなく、数多くの恐ろしい怪物たちが登場します。ここでは、日本人でも名前に馴染みのある代表的なギリシャ神話の怪物を紹介します。
ペガサス
ペガサス(ペーガソス)は日本人にとっても馴染みのあるキャラクターですが、誕生の物語を知らない方は多いでしょう。ペガサスは海の神ポセイドンとメドゥーサの子供であり、ペルセウスに切られたメドゥーサが流した血から生まれたといわれています。
美しく優雅に空を飛ぶイメージがあるペガサスですが、もともとは凶暴で人間を近づけない性格をしており、女神アテナが黄金の馬具をつけることでコントロールしました。のちに星座となるペガサスは、ゼウスの雷雲を世界に運ぶ役割を果たしていました。
見た目が似ているユニコーンと混同されますが、ユニコーンは旧約聖書の伝説上の生き物であり、ギリシャ神話には登場しません。
メドゥーサ
メドゥーサは頭髪が蛇になっている点が最大の特徴で、目は宝石のように輝き、見た者を石に変えてしまいます。もともとは美しい女性でしたが、海の神ポセイドンとアテナの神殿で交わったことから、怒った処女神アテナによって醜い怪物にされました。
最終的には、メドゥーサは英雄ペルセウスによって殺されます。切り落とされた首から滴り落ちた血は2つの瓶に集められ、ペルセウスから処女神アテナに献上されました。右の血管から流れた血には死者を蘇生する力、左の血管から流れた血には人を殺す力があったとされています。
ちなみに、メドゥーサはイタリアの高級ブランドであるヴェルサーチのシンボルとしても有名です。
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ケンタウロス
ケンタウロスは、上半身は人間で下半身は馬という姿が特徴の怪物です。ケンタウロスにはさまざまな個体が存在し、総称してケンタウロス族と呼ばれています。
一般的には野蛮で粗暴に描かれるケンタウルス族ですが、ケイローンは知恵を有しており、ヘラクレスやアキウレスなどギリシャの英雄に教えを授けたことで有名です。また、射手座の形はケイローンの姿をゼウスが模したものだといわれています。
ギリシャ神話と星座の関係
現在名付けられているさまざまな星座の名前には、ギリシャ神話に由来するものが多数あります。ここでは、ギリシャ神話のエピソードをまじえて代表的な星座を紹介します。
オリオン座
女神アルテミスは双子の兄アポロンの策略により、自身の恋人オリオンを弓で射って殺してしまいます。悲しむアルテミスのため、父ゼウスはオリオンを星座として天に昇らせました。
アルテミスは月の女神とも呼ばれており、冬の空で月がオリオン座を通るのはアルテミスがオリオンに会いに行っているためだといわれています。
アンドロメダ座とペルセウス座
エチオピアの王女アンドロメダは、母が「アンドロメダの美貌は神にも勝る」と言ったことから神の怒りを買い、怪物の生贄にされてしまいます。
しかし、メドゥーサを退治した英雄ペルセウスが現れてアンドロメダを助け、のちに二人は結婚して平穏に暮らしました。神々から功績を評価されたペルセウスとアンドロメダは、ともに天に昇り星座となりました。
牡牛座
好色な最高神ゼウスは人間の王女エウロペに恋をし、牡牛の姿になって近づきます。エウロペは優しい眼をした真っ白の牡牛にすぐに慣れ、背中に乗りました。
エウロペを乗せた牛は突然走り出し、地中海を飛び越えてギリシャのクレタ島まで連れて行きました。エウロペはゼウスの子供を産み、ヨーロッパ(エウロペ)大陸の人々の祖先になったとされています。
牡牛座は、ゼウスがエウロペに近づくため変身した姿をそのまま星座にしたものです。
射手座
射手座は、女神アルテミスから狩猟を学んだケンタウロス族のケイローンが弓を引く姿です。
不死の身体を持つケイローンでしたが、英雄ヘラクレスが誤って放った毒矢に当たります。苦痛のために不死を解くようゼウスに願い、認められて息を引き取りました。
ケイローンの死を悼んだ神々は、彼を天に昇らせて「射手座」としました。
へびつかい座
へびつかい座の巨人は、ギリシャ神話第一の名医アスクレーピオスとされています。
熱意を持って医療に取り組み、死者をも蘇らせてしまうアスクレーピオスは、冥界の王ハデスの怒りを買います。そして、ハデスに頼まれたゼウスの雷撃で撃ち殺されてしまいました。
しかし、ゼウスはアスクレーピオスの功績を認め、その姿を星座にします。へびつかい座のアスクレーピオスが両腕につかむ大蛇は、古代ギリシャでは健康のシンボルとして神聖なものと考えられていました。
ギリシャ神話と西洋美術(絵画・彫刻)
古代から伝わるギリシャ神話は、数多くの西洋美術作品のモチーフとして取り上げられています。ここでは、絵画・彫刻などの代表的な作品を紹介します。
ボッティチェッリ「ヴィーナスの誕生」
ギリシャ神話に登場する愛と美の女神アフロディーテー(別名ヴィーナス)を描いた、初期ルネサンスの画家サンドロ・ボッティチェッリによる最高傑作です。
誕生したヴィーナスがキプロス島に上陸した光景を描いたもので、身体をくねらせて恥じらいを感じさせるポーズで立つヴィーナスの姿が印象的です。風になびく、ウェーブのかかった長く美しい髪、とろりと潤んだ瞳はまさに美の女神に相応しい優美な姿だといえます。
ルーベンス「パリスの審判」
トロイア戦争のきっかけとなった「パリスの審判」を描いた、バロック期を代表する画家ピーテル・パウル・ルーベンスの作品です。最も美しい女神へと書かれた黄金のリンゴを取り合った3人の女神が、判定を下すトロイアの王子パリスに贈り物を約束する様子が描かれています。
ルーベンスは「パリスの審判」のモチーフを好んでいて、同じ題材の絵を何枚も残しました。いずれもグラマラスな身体と明るい雰囲気が表現されており、ルーベンスの魅力が詰まった絵画となっています。
ベルニーニ「アポロンとダフネ」
バロック期の彫刻家ジャン・ロレンツォ・ベルニーニの作品「アポロンとダフネ」は、驚くほどの美しさを讃えられる大理石彫刻です。ギリシャ神話のアポロンとダフネによる悲しい恋の結末がモチーフになっています。
アポロンはダフネに恋をしますが、拒絶されてしまいます。アポロンに捕まりそうになったダフネは、姿を変えてほしいと父に助けを求め、月桂樹に変身しました。ダフネを諦められないアポロンは、ダフネが自身の神木となるよう懇願します。
ダフネは枝を揺らして葉をアポロンの頭に落としました。そして、アポロンはダフネが落とした葉で月桂冠をつくり、肌身離さず身に着けたといわれています。
オリンピックチャンピオンの頭に月桂冠が載せられるのは、アポロンとダフネの逸話が由来とされています。
ギリシャ神話にまつわるトルコの遺跡
トルコの国土であるアナトリア半島は、長い歴史のなかでさまざまな文明の発祥地となっており、古代ギリシャ世界とも深く関連しています。そのため、トルコにはギリシャ神話につながる遺跡や神話の舞台となる場所が数多く存在します。
ここでは、ギリシャ神話にまつわるトルコの代表的な遺跡を紹介します。
トロイ遺跡
トロイの木馬作戦で有名なトロイア戦争は、増えすぎた人間の数を調整するために最高神ゼウスが起こしたとされています。戦争の舞台トロイは伝説上の都市とされていましたが、ドイツの実業家ハインリッヒ・シュリーマンが発掘調査を続けたところ、トルコのチャナッカレ県で遺跡が発見されました。
世界的に有名なトロイの考古遺跡は、1998年にユネスコ世界文化遺産に登録されています。遺跡の入口では、有名な「トロイの木馬」も鑑賞できます。
トロイ遺跡は歴史ロマンあふれるトルコの世界遺産!観光のポイントは?
エフェソス遺跡
トルコの古代遺跡エフェソスは良好な保存状態を評価され、2015年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。
見どころは、女神アルテミスを祀った「アルテミス神殿」です。世界七不思議にも挙げられるアルテミス神殿は、7回崩れ落ち、7回建て直されたといわれていますが、残念ながら現在は原型を留めていません。
エフェソス考古学博物館には、美しい2体のアルテミス像が展示されています。
アフロディシアス遺跡
アフロディシアスはトルコ南西部のゲイレ村近くにある、古代ギリシャ・ローマ時代の遺跡であり、2017年に世界遺産として登録されました。
名前の由来は、紀元前82年にローマの将軍スッラがデルフィーの神託(神のお告げ)に従い、女神アフロディーテーに斧と金の冠を奉納したことです。女神アフロディーテーのために紀元前3世紀に建てられた神殿は、街で最も古い大理石の建物でした。
立派な神殿とアフロディーテー信仰により、アフロディシアスの名は周辺地域に広く知られました。
世界有数の古代遺跡アフロディシアス|美神アフロディーテ由来の町
ペルガモン(ベルガマ)遺跡
ペルガモンはトルコ西部エーゲ海近くの町ベルガマにある、アッタロス朝の首都とされた古代都市です。「ペルガモンとその重層的な文化的景観」として2014年に世界文化遺産に登録されました。
ペルガモンのアクロポリス(小高い丘)に建てられたゼウスの大祭壇は、ヘレニズム美術を代表する重要な建造物です。全長100m、高さ10mの祭壇と周囲を取り囲む大理石の壁には、ギリシャ神話の神々と巨人の戦いを描いた彫刻が施されています。
ゼウスの大祭壇は19世紀後半にドイツ人によって発掘され、ベルリンにあるペルガモン博物館における最大の見どころとなっています。
世界遺産ペルガモン(ベルガマ)の古代遺跡とは?トルコの人気観光スポット紹介
古代シデ(スィデ)遺跡
シデ(スィデ)は、地中海に面したトルコのリゾート地アンタルヤ周辺に存在した古代都市です。
アンタルヤはトルコの地中海随一のリゾート地!観光の見どころを解説
貿易や研究、文明の中心地として栄え、人々は古代ギリシャの神々を深く信仰していました。半島にある小さな町ですが、町中の遺跡はしっかりと保存されています。岬の先端にあるアテナ神殿・アポロン神殿の立地は素晴らしく、そこから見る夕日は格別です。
ギリシャ神話を題材にしたおすすめ映画
パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々
アメリカで大ヒットした児童書を映画化した作品。ギリシャ神話の神々と人間のハーフ(デミゴッド)である少年パーシーの冒険と活躍を描いた映画です。続編として『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々/魔の海』も公開されています。
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タイタンの戦い
ギリシャ神話に登場する神々と人類の壮絶な戦いを描いたファンタジーアクション映画です。反乱を起こした人類を滅ぼそうとする神々の王ゼウスに対して、半神ペルセウスが人類を救うために立ち向かいます。
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ギリシャ神話のあらすじ・神々の紹介まとめ
本記事では、ギリシャ神話のあらすじや登場する神々・英雄・怪物をまとめて紹介しました。西洋文化に大きな影響を及ぼしたギリシャ神話は、絵画や彫刻、遺跡の形で現代にも残っています。
古代ギリシャとつながりの深いトルコには、ギリシャ神話の神々への信仰が感じられるさまざまな遺跡が残っています。現地を訪問して実物を見れば、その迫力に圧倒されることは間違いないでしょう。
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