古代ギリシャの哲学者・ヘラクレイトスって?思想や名言を徹底解説!
更新日:2023.04.05
投稿日:2022.08.25
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「万物は流転する」という名言で知られる、ヘラクレイトス。ソクラテスやアリストテレスよりも前の時代に活躍し、後世の哲学者たちに大きな影響を与えた古代ギリシャの哲学者です。
自然や宇宙をテーマに探求し、たどり着いたヘラクレイトスの思想は、どのようなものだったのでしょうか。彼が残した数々の名言や知られざる生涯を、活躍した時代背景や同時期の哲学者との違いなどとあわせて詳しく解説します。
Contents
最も難解な哲学者?ヘラクレイトスとは
ヘラクレイトス(紀元前540年~480年頃)は、トルコ西部エフェソス生まれの自然哲学者。ソクラテスやアリストテレスなど、後の哲学者に影響を与えた人物といわれていますが、その生涯に関してはほとんど知られていません。
ヘラクレイトスが執筆した唯一の著書『自然について』も失われており、現在では後世の著者たちが引用した断片が伝わっているのみ。最も難解な哲学者の一人として知られ、作品から伺える彼の性格と併せて「暗い哲学者」や「闇の人」などとも呼ばれています。
『自然について』は3部からなる散文だった
ヘラクレイトスのたった一つの著書『自然について』は、「万有について」「政治について」「神学について」という3部からなり、詩的な散文の書で、箴言(しんげん)めいた難しい表現が使われていました。
その難解さからエリートに向けて書かれた内容であったと考えられており、エフェソスのアルテミス神殿に寄付されたといわれています。
ちなみに、古代文明のなかで最も規模が大きい図書館があったことで有名なエフェソスですが、まだ図書館が存在しなかった当時、神殿は貴重品の保管庫としての役割も果たしていました。
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それでは、ヘラクレイトスはどのような思想を持っていたのか、彼が残した数々の名言とともに見ていきましょう。
「万物は流転する」ヘラクレイトスの思想と残した名言
ヘラクレイトスは、万物(宇宙に存在するあらゆるもの)の根源(アルケー)を象徴的な「火」であるとしました。そこから生まれたのが、名言「万物は流転する(パンタ・レイ)」。すべてのものは燃焼する火のように絶えず変化しているという思想です。
また彼は水の流れを観察し、「同じ流れに二度入ることはできない」という言葉も残しています。川はいつも変わらず存在しているように見えるが、水は常に上から下へと流れており、実際には絶えず変化していると考えたのです。
変化の中には「調和」がある
また物事の変化は対立によって起こり、「戦いは万物の父」だと唱えました。暑さと寒さ、戦争と平和、健康と病気など正反対に見える要素が対立することで変化が生まれます。しかし、反対方向に引っ張り合いながらも、楽器の弦のように、全体としては調和を保っているのです。
また、彼によれば「上り道も下り道も一つであって同じもの」。つまり、火が空気・水・土へと変化(循環)するように、世界も変化のサイクルを繰り返しながら全体としての均等を保っていると主張しました。
ヘラクレイトスが提唱した「ロゴス」とは
対立や変化は無秩序に起こっているわけではないと考えたヘラクレイトス。この絶えず変化し続ける物事の中心として、「ロゴス」が宇宙に存在するすべてのものを司り、調和や秩序をもたらすと主張しました。「ロゴス」は文脈によっては、神や理性、言葉などと訳されることもあり、万物流転の思想を補完する概念として、ヘラクレイトスが最初に提唱しました。
ヘラクレイトスは、わたしたちもこの世界の一部であるため、ロゴスを認識し調和して生きるべきだと考え、「自然に従って生きよ」と説きました。このようにヘラクレイトスは単に万物の根源を探求しただけでなく、宇宙や世界を統御している存在について、また自分自身や生き方に関しても深く考察しました。
同時期に活躍した哲学者・タレス、ピタゴラスたちの思想は?
ヘラクレイトスが活躍したのは、有名なソクラテスやアリストテレスよりも前の時代。当時の人々は、世界のあらゆる物事の説明として神話を信じていました。そのような時代背景のもと、自然をテーマに探求し、万物の根源について解き明かそうとしたのが哲学者たちです。
この問いの答えを初めて究明しようとしたのは、紀元前6世紀前半にエフェソスに近いミレトスで活躍したタレスだったといわれています。彼は「ギリシャ七賢人」の1人に数えられる偉大な哲学者で、万物の根源は「水」であるとしました。
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その後、彼の後継者ともいわれるアナクシマンドロスは、万物の根源について「アペイロン(不生不滅で無限のもの)」だと主張します。アネクシメネスは「空気」だと考えました。
また、やはり紀元前6世紀に同じイオニア地方のサモス島で生まれたピタゴラスは、万物の根源は「数」であると唱えます。
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民衆とは一線を置いていた?エピソードから見る人柄と生涯
前述の通り、ヘラクレイトスの生涯に関する正確な記録は残っていません。しかし、政治的スタンスやエフェソスとの関わり、死因などを伝えるさまざまなエピソードが残っています。それらのエピソードから彼の人柄と生涯を探ってみましょう。
湾岸都市エフェソスの貴族階級出身
ヘラクレイトスが生まれたのは、エーゲ海に面する湾岸都市エフェソス。当時エフェソスはペルシャの支配下にあり、湾岸都市またイオニア地方の要所として栄えていました。
彼は貴族階級出身(王または司祭の家系)だったといわれています。幼いころからとても優秀でしたが、自分では無知であると主張し、学ぶことに貪欲でした。また、「自分自身を探求した」ともいわれています。
政治的には、民主制を軽蔑し貴族政治を好む立場をとっており、当時の政治情勢を厳しい言葉で批判しました。さらに、彼の友人ヘルモドロスを追放したことで、エフェソス市民たちを憎んでいたようです。そのため、人々から法の制定を依頼された際には拒否し、子どもたちとサイコロ遊びをしているほうがましであると答えました。
先人たちから影響を受けるも、独学で哲学者へ
ヘラクレイトスは特定の哲学者から弟子として教えを受けたことはなく、独学で哲学者になりました。ただし、詩人であり哲学者でもあったクセノパネスの講義を聞いていたといわれています。クセノパネスは、万物の根源を「土」、もしくは「土」と「水」であると唱えた人物です。
ピタゴラスや、アナクシマンドロスやアナクシメネスなどのミレトスの哲学者たちからも影響を受けたといわれていますが、彼らと直接会ったり教えを受けたりしたという記録はありません。
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叙事詩人ホメロスやヘシオドスをはじめ、他の賢人や哲学者たちの思想を批判し、自分なりの思想を模索しました。さらに、市民のことをさげすみ、もともと存在していた土着宗教に関しても批判的な態度を示します。
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あえて難解な表現を使うことで一般の人々に自分の書が理解できないようにした、というエピソードからは誇り高く人を寄せつけない彼の性格が伝わってきます。
孤独に最期を迎えた
人嫌いであったヘラクレイトスは、都市から離れた山奥にこもるようになり、草や葉などを食べながら暮らしていました。やがて体調を崩し、水腫を患ってしまいます。彼は医者のもとに行きますが、望んでいた答えを得ることができず、山奥に戻ります。そして、自分で水腫を治すことにしたのです。
その方法というのは、なんと牛糞を体中に塗りたくるというものでした。熱を持つ牛糞によって体内の水分(毒素)を蒸発させようと考えたのかもしれません。しかし、残念ながら効果はなく、ヘラクレイトスはそのまま60歳でこの世を去りました。
ちなみに、このエピソードはヘラクレイトスを軽蔑していた後世の伝記作家の作り話であるともいわれています。
ヘラクレイトスが与えた影響
ヘラクレイトスに弟子がいたという記録は残っていません。しかし、彼の思想はアリストテレスやプラトンをはじめ、後代に活躍する哲学者たちに大きな影響を与えました。
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たとえば、パルメニデスはヘラクレイトスの万物流転説を真っ向から否定し、「存在論」という対照的な哲学を展開させました。また、クラテュロスはヘラクレイトスの思想を支持しアテネに持ち込みます。そして、プラトンは「万物は流転する」という言葉を引用し、ヘラクレイトスを流転の哲学者として紹介しました。
18世紀以降のドイツ人哲学者ショーペンハウアーやハイデガーなども、ヘラクレイトスを尊敬していたといわれています。ニーチェの「永劫回帰」説にも、ヘラクレイトスの影響が見受けられます。
ヘラクレイトスについて書かれたおすすめの本
ヘラクレイトスに関してはわかっていないことが多く、その生涯は謎に包まれています。そのため、多くの研究者は彼の作風を研究したり同時期に活躍した他の哲学者たちと比較したりしながら、彼の人柄や思想を読み解いてきました。
ヘラクレイトスや彼の思想に興味があるなら、本を読むのもおすすめ。日本では、『流転のロゴス』や『森羅万象が流転する(パンタ・レイ)―ヘラクレイトス言行録』などが人気です。
『流転のロゴス』 木原 志乃 著
この本では、まずヘラクレイトスの生命観や世界観に関して説明しています。そして、どのようにヒポクラテス以降のギリシャ医学に継承され発展していったかという観点で、彼の思想を考察します。
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『森羅万象が流転する(パンタ・レイ)―ヘラクレイトス言行録』 クレシェンツォ,ルチャーノ・デ 著
「言行録」とある通り、この本には129篇の断片と82個の証言が含まれます。
他の哲学者との対話や現代社会を見た感想といった視点で、ユーモアを交えつつヘラクレイトスの人となりや思想が描かれています。
ヘラクレイトスが生まれ育ったエフェソスは世界最大級の古代都市!
ヘラクレイトスが生まれ育ったエフェソスは、ギリシャ~ローマ~オスマン時代に栄えた、長い歴史を誇る古代都市です。かつてはアントニウスとクレオパトラが訪れ、聖母マリアが聖ヨハネとともに余生を過ごしたといわれる、美しい街でした。
湾岸都市であったエフェソスは、貿易の要所、文化や商業の中心地として発展。また、アルテミス崇拝の中心地として、後にはキリスト教の歴史においても重要な役割を果たしました。
現在は誰も住んでいないものの、都市全体が遺跡として保存されており、かつての繁栄ぶりや生活の様子を感じ取れます。歴史的価値、スケールの大きさ、保存状態の点で優れた、見ごたえ抜群の世界遺産です。
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エフェソスの観光情報
エフェソスは、トルコ西部イズミール地方のセルチュク近郊に位置しする人気観光スポット。
アルテミス神殿
ヘラクレイトスが本を寄託したアルテミス神殿自体は残っていませんが、その跡地には多くの観光客が訪れます。この神殿はかつて「エフェソスのアルテミス」と親しまれていた有名な女神崇拝の中心地で、世界七不思議の1つとしても知られていました。
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ローマ時代の図書館・劇場・公衆トイレも
また、3大図書館の1つに数えられたケルスス(セルシウス)図書館や、2万5千人も収容できる大劇場からは、かつてのエフェソスの栄華がしのばれます。大衆浴場やトイレ、住居の跡などを見学して、当時の人々の生活に思いを馳せるのもよいでしょう。
キリスト教の聖地
聖母マリアの家や聖ヨハネの教会など、初期キリスト教ゆかりのスポットもあり、多くのキリスト教徒が巡礼に訪れています。
ぜひ一度、トルコ屈指の歴史的観光スポットであるエフェソス遺跡を訪れてみるのはいかがでしょうか。
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