イスラム教で豚が禁止されている理由とは?トルコではどんな肉料理を食べているの?
更新日:2023.06.27
投稿日:2022.08.27
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イスラム教では豚肉を食べることが禁止されていて、絶対に避けねばならないものとされています。その範囲は、豚肉だけではなく豚由来の成分が含まれる物や豚肉に触れた皿、調理器具にいたるまでと、かなり広範囲で繊細。
そこで今回は、イスラム教徒が食べることができない豚について、少し詳しく解説していきます。さらに、イスラム教徒が豚肉以外で食せる肉料理や、イスラム教の国トルコでおすすめの肉料理についてもご紹介していきます。
Contents
なぜイスラム教で豚はタブーなの?
ここでは、なぜイスラム教において豚がタブーなのかについて詳しく解説していきます。
豚がタブーなのはコーランで禁止されているから
イスラム教で豚がタブーなのは、コーランで禁止されているからです。イスラム教の経典「コーラン」では、豚は不浄な動物とされていて、ほぼ全てのイスラム教徒が避けるものです。
例えば、コーランの2章「雌牛」の173節の食べることを禁じられるものには「死肉、血、豚の血、アッラー以外の名が唱えられたもの」との記述があります。また、コーランの6章「家畜」145節では豚について「忌まわしいこと」という記述もあります。
このように、イスラム教徒は物心つく頃から、「豚は不浄の動物」と教えられて育つため、ほとんどの人が豚について嫌悪感をいだいています。
コーランに連なる旧約聖書でも豚は禁止されている
ユダヤ教の経典でもある旧約聖書のレビ記にも「あなたたちの食べてよい生き物は、ひづめが分かれ、完全に割れており、しかも反芻するものである。したがって反芻するだけか、あるいはひづめが分かれただけの生き物は食べてはならない」という記述があり、豚は食べていけない生き物にあたります。そのためユダヤ教徒も豚を口にしません。
旧約聖書はユダヤ教の経典ですが、実はイスラム教とも関係があります。イスラム教では、ユダヤ教徒とキリスト教徒のことを「啓典の民」としています。この「啓典」というのは、真理をあらわす神の言葉=啓示を記した文書のことを指します。
イスラム教では、ユダヤ教の『旧約聖書』、キリスト教の『新約聖書』を、『コーラン』と同じく唯一神から示された啓典とみなします。ユダヤ教とキリスト教、イスラム教の「神」は元来同じなのです。豚は、この神が最初から禁じているものなので、ユダヤ教とイスラム教では不浄として口にすることはありません。
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一方、キリスト教では豚は特に禁忌とはされていません。これは、キリスト教の創始者であり神の子であるイエスが、「すべての食べ物は清い」と言ったからです。
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根拠に関してはさまざまな説がある
イスラム教において豚が禁止されているのはコーランが禁じているから。それ以上でもそれ以下でもなく、科学的な根拠などは記述されていません。しかしながら、研究者などの間ではさまざまな根拠について論じられてきましたが、一説には、豚の食性や衛生面が背景にあるのではないかといわれています。
豚は8,000年ほど前に家畜化されます。豚は雑食なので生ごみ処理にも利用していましたが、処理をするごみの中には病原体に汚染された動物の死骸などもあり、寄生虫に感染するリスクがありました。
食べることを許されている生き物が草だけを食する草食動物であることからも、寄生虫感染リスクの高い生き物である豚を食べると人体に有害なので、不浄として食べてはならないと考えたのではないかという説です。
さらには、人間の排せつ物なども食する豚は衛生面からみても不浄であり、食べるに値しないと考えたという説などもあるようです。
しかしながらこれは、あくまで仮説であり、コーランには一切そのような記述はありません。イスラム教徒にとっては「コーランで禁じられている」のが最大にして唯一の理由なのではないでしょうか。
イスラム教におけるハラルとハラムの考え方
イスラム教徒は、唯一神アッラーの教えに従って生活しています。アッラーの言葉を記したものがコーランで、コーランには生活の中のものや事柄について、神が禁じているのかいないのかが記されています。この「神が禁じているかいないか」という考え方をハラルとハラムといい、神によって許されている「ハラル」を選ぶことで教えに従っているのです。
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神によって許されている「ハラル」とは逆に、「ハラム」はイスラム教で禁じられているものや事柄のことで、絶対に避けねばならないものとされています。そのためハラムに分類される豚肉は食すことができません。ハラルかハラムかがわからない場合も「シュブハ(疑わしいもの)」として、避けるべきものとされています。
ハラムの例 | 豚肉や豚由来の成分が含まれているもの、適切な処置が施されていない食肉やその動物由来の成分を含むもの、血液、アルコール類、犬やかぎ爪がある動物、死んだ動物 |
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シュブハの例 | 適切な処理が施されているかどうかわからない食肉など |
「豚」は、寛容なイスラム教の国トルコでも絶対的タブー!
トルコはイスラム教の国々の中でも世俗主義的国家で、教義の考え方は比較的寛容で飲酒も許されています。そんなトルコでも豚肉を食べることは絶対的タブー!
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それぐらい、豚はハラムの中でもイスラム教徒が最も避けるもの。豚は不浄な動物とされていて、ほぼ全てのイスラム教徒が避けます。
イスラム教徒の人と食事をしたり、イスラム教徒の国で食事をふるまったりする場合は気をつける必要があるので覚えておきましょう。
豚肉だけじゃない。豚由来の成分が含まれていればNG!
イスラム教において豚肉がタブーということは前述したとおりですが、豚肉だけではなく豚由来の成分が含まれている食品もすべてNGとなります。一度でも豚肉を使った料理に使用した皿や、豚肉を切るのに使用したまな板や包丁、とんかつを揚げた油などの使用も禁じられています。
豚肉由来の成分を含む食品例
- ソーセージやベーコンなどの豚肉を使った加工品
- ラードや豚骨スープなどの豚のエキスや油脂を使った食品
- ゼラチンやコラーゲン、乳化剤やショートニングなど、豚由来成分が含まれる調味料や添加物
もしハラムなものを食べてしまったらどうなるの?
イスラム教における禁止行為とは、来世で罰を受ける行為とされています。コーランには「自業自得」という言葉があり、禁止行為をおこなえば、来世で必ず責任を引き受けるものとされています。
ただし緊急の場合は例外。もし他に食べるものがない場合は餓死するよりは禁止されている食べ物を食べてもよいとされています。また、知らずに口にしてしまった場合も同様で、大きな問題にはなりません。コーランにも「やむを得ず、または違反の意志なく方を超えないものは、本当にあなたの主は、寛容にして慈悲深くあられる」と記されています。
アルコールについても、もし飲酒をしてしまった場合は、お祈りをしたり、貧しい人たちに施したりするなどして挽回すればよいとされています。
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イスラム教徒の人たちはどんな肉を食べているの?
イスラム教徒は豚を食すことができませんが、豚肉以外のラム肉や鶏肉、牛肉などは食べることができます。ただし、イスラム法に則って適切な処理を施していることが必要となります。
例えば、非イスラム教徒がほふった肉は食すことができません。食用として認められるのは、イスラム教徒とイスラム教徒と同じ啓典の民(ユダヤ教徒、キリスト教徒)がほふった肉のみとされています。
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また、死んだ動物はハラムとされているので、生きている状態で動物の頸動脈を切る手法で屠畜する必要があります。屠畜の際には必ず神に感謝し、「ビスミッラールヒルラッフマーニルラヒーム(神の御名において)。アッラーフアクバル(神は偉大なり)」と唱えます。
イスラム教徒も食せる。トルコ料理で人気の肉料理をご紹介
イスラム教徒の国であるトルコでも豚肉を口にすることはできませんが、伝統的にラム肉や鶏肉などを食してきました。最近では牛肉が人気でよく食べられているようです。
日本人もよく耳にする「ケバブ」とは調理法の名前で、トルコにはさまざまなケバブ料理があります。
また、マリネしたり、スパイスを用いるなど、下ごしらえをして肉の旨みを引き出す手法もよく用いられてきました。ドライフルーツやナッツ類などを多用するのも特徴的です。ここでは、代表的なトルコの肉料理をご紹介します。
ドネル・ケバブ
ドネル・ケバブは、日本人にもなじみのある、串に刺した肉層をナイフでそぎ落としていただく肉料理。トルコ料理の中でも代表的な肉料理です。ラム肉やマトンを使用するのが伝統的なスタイルですが、最近では牛肉や鶏肉なども使われています。屋台で食べるときは、ピタなどに挟んでソースをかけていただくのが一般的です。
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シシ・ケバブ
シシは金串、ケバブは焼肉という意味。羊肉のもっとも一般的な食べ方で、肉のくし切りを金串に刺して炭火で焼いていただきます。現代では肉に、ニンニクやスパイスで味付けをすることもあり、トマトやタマネギなどの野菜も一緒に串に刺して焼くこともあります。
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イスティム・ケバブ
イスティム・ケバブとは、宮廷料理として知られる肉料理の牛肉のナス包みのこと。牛のひき肉をナスで包み込み、トマトソースと一緒にオーブンで煮込みます。スライスしたトマトと甘唐辛子をのせるのが昔ながらのスタイル。
ムサカ
ギリシャ料理にもあるムサカはトルコからギリシャに渡った料理。トルコのムサカは、ナスと牛ひき肉のオーブン焼きで、一般家庭でもよく食べられています。ニンニクとタマネギ、牛のひき肉を炒めてトマトペーストとトマトなどを加えて煮込んだものを、揚げたナスを並べた耐熱容器の上にかけてオーブンで焼きあげます。
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キョフテ
キョフテはラム肉や牛のひき肉を使って作られるハンバーグのような料理。中東や南アジアなどにも広まっている、代表的なトルコ料理のひとつでもあります。肉に香辛料などを加えて下ごしらえするため、スパイシーな味わい。家庭でも簡単に作れます。
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カルヌヤック
カルヌヤックとはトルコ語で「お腹を裂く」という意味。ナスを使った代表的な家庭料理のひとつで、その名のとおり、ナスの真ん中を切り裂きそこにひき肉を詰めています。ヨーグルトソースなどを添えていただくと爽やかでおいしいですよ。
エトゥリ・ケル・ファスリエ
エトゥリは羊、クルは乾燥、ファスリエは白インゲン豆という意味。白インゲン豆と羊肉のトマト煮で、トルコの家庭でもよく食べられています。簡単に作れる料理でもあるので、気になる人はぜひトライしてみてくださいね。
タヴック・サルマス
ダヴック・サルマスは、ほうれん草やチーズを鶏胸肉で巻いた、ロールチキンのような料理です。ソースはトマトベースで、日本人の口にも合います。
エトゥリ・ラハナ・サルマス
エトゥリ・ラハナ・サルマスは、トルコのロールキャベツ。みじん切りにしたタマネギと牛のひき肉、米をオリーブオイルで炒め、塩、胡椒、シナモン、クミンなどで味を調えたものをキャベツで包み込み、水にトマトペーストを加えたもので煮込みます。
マンタルル・タヴク・ソテ
マンタルル・タヴク・ソテは、きのことチキンのソテーです。一口大に切ったタマネギ、ピーマン、トマト、きのこにニンニクとパセリ、トマトを加えて炒め、そこに鶏モモ肉を加えさらに炒めます。味付けには、唐辛子やクミン、ドライバジルなどを使っていて、パンとも相性が良い家庭料理のひとつです。
イスラム教の国トルコの肉料理のアレンジ力を体感しよう!
今回はイスラム教徒が豚肉を食せない理由や、イスラム教徒が食べている肉料理などについて紹介してきました。コーランで禁止されている豚肉は、イスラム教徒にとってタブーなもの。イスラム教の教義に寛容なトルコでも、絶対に口にすることはありません。さらに、豚肉だけではなく、豚由来の成分が含まれる食品も一切口にすることはできません。
しかしながら、そんなイスラム教の国トルコには、豚肉以外の肉を使った料理がたくさんあります。日本でもなじみの深い料理から、宮廷料理までその豊富さに驚くだけでなく、調味料や調理法などを駆使したアレンジ力の高さにも、世界三大料理でもあるトルコ料理の底力を感じます。ぜひ、次回の休日はトルコを旅して、奥深きトルコの肉料理を味わってみてはいかがでしょうか。
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