トルコ語と日本語は文法が似てる?発音の仕方や言葉の歴史についても解説
更新日:2023.04.05
投稿日:2022.08.03
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トルコ語は、日本人にとって習得しやすい言語だといわれます。語順が日本語と一緒であることや、書いてあるままに発音すればよいことなどが理由です。
また、トルコの人々はフレンドリーでおしゃべり好きな方が多いため、少しトルコ語を覚えればすぐに打ち解けられるでしょう。本記事では、トルコ語と日本語の文法や発音における共通点と違い、トルコ語の歴史について紹介します。
Contents
トルコ語と日本語は文法が似てる?共通点を紹介
トルコ語と日本語には、以下2つの共通点があります。
- 主語や述語、目的語などの語順が同じである
- 文法関係を助詞が担う「膠着語」である
順番にみていきましょう。
トルコ語と日本語は文の構造が同じ
トルコ語と日本語は、主語や述語、目的語といった文の構成要素を並べる順序が同じです。英語やドイツ語といった印欧系の言葉のように「主語のあとに述語、それから…」と考える必要がありません。
たとえば、「私は花が好きです、特にチューリップが好きです。」という文は、トルコ語では次のようになります。
Ben çiçekleri seviyorum, özellikle laleyi seviyorum.
- Ben:私は(主語)
- Çiçekleri:花が(目的語)
- seviyorum,:好きです、(述語)
- özellikle:特に(副詞)
- laleyi:チューリップが(目的語)
- seviyorum.:好きです。(述語)
日本語の文章をそのままトルコ語に置き換えていけば、ほぼ意味の通じる文ができます。単語は覚える必要があるため、最初は難しく感じるかもしれません。しかし、ある程度単語を覚えればすらすらと文章が作れるので、トルコ語で話すのが楽しくなりますよ。
トルコ語も日本語と同じ膠着語
膠着語とは、助詞や助動詞が名詞や動詞にくっつく(膠着する)ことで文法関係を組み立てていく言語です。日本語やトルコ語以外にも、韓国語やフィンランド語も膠着語とされています。
日本語の文は、主語に「~が、~は」、目的語に「~を、~が、~に、~は」といった助詞をつけて、文章の中での役割を表しますよね。トルコ語でも、同じように助詞をつけることで単語同士の関係性を表します。
先ほどの「私は花が好きです、特にチューリップが好きです。」という例文を確認してみましょう。
Ben çiçekleri seviyorum, özellikle laleyi seviyorum.
私は花が好きです、特にチューリップが好きです。
トルコ語の目的格を表す助詞は<-i, -ı, -u, -ü>の4つです。日本語と違い、主語には助詞がつきません。
格助詞によって語順が変えられるのも同じ
格助詞によって文の中での役割が明確になるため、ある程度自由に語順を入れ替えられる点も、日本語とトルコ語の共通点です。
明日あなたの家に私たち家族みんなで伺いたいです、ご都合いかがでしょうか。
Yarın sizin evinize ailemizle hep birlikte gelmek istiyoruz müsait misiniz?
- Yarın:明日
- sizin evinize:あなたの家に
- ailemizle hep birlikte:私たち家族みんなで
- gelmek istiyoruz:伺いたいです、
- müsait misiniz?:ご都合いかがでしょうか。
日本語では1・2・3の言葉は順番を入れ替えても意味が通りますよね。トルコ語でも、同じように入れ替えられるのです。
「-de」「-e」など発音・役割が同じ助詞もある
日本語で「てにをは」と呼ばれる格助詞は、トルコ語には7つ存在します。
主格 (助詞なし) |
~が、~は、など (主語) |
---|---|
目的格 (-i/ -ı/ -u/ -ü) |
~を、~が、など (目的語) |
与格 (-a/-e) |
~へ、~に、など (目的地や時間、物、値段) |
奪格 (-dan/-den) |
~から (起点となる時間や場所、物、理由) |
位格 (-da/-de) |
~で、~に (時間や場所) |
属格 (-in/ -ın/ -un/ -ün) |
~の (所属) |
道具格 (-la/-le) |
~で (道具や手段) |
7つの格助詞のうち、なんと与格と位格の助詞は日本語と発音まで同じになることがあります。
私たちの電車は南へ向かっています。
Bizim trenimiz güneye doğru gidiyor.
彼とイズミールで会いました。
Onunla İzmir’de görüştük.
単語につける助詞の位置も同じ
日本語の動詞を受身や使役、可能形にするとき、助詞や助動詞をつけて変化させますよね。トルコ語でも、同じように助詞をつけて受身や使役、可能形の動詞を作ります。使う助詞は異なりますが、受身や使役の助詞がつく順序も日本語と同じです。
たとえば、「食べさせられる」という動詞はトルコ語で「yedirilmek」となります。食べさせられるは、食べるに使役の「~させ~」、受身の「~られ~」がついた使役受身動詞ですよね。
Ye-dir-il-mek の〈-dir-〉は使役の助詞、〈-il-〉は受身の助詞です。助詞がつく順番が一緒であるため、使役受身可能のような複雑な動詞を作るときにも、日本語話者にとってはわかりやすいでしょう。
述語からみた文の種類が同じ
トルコ語の文章は、名詞が述語になる名詞文と、動詞が述語になる動詞文、モノの存在を表す存在文に分かれます。
日本語で「~です」で終わる述語の文章は、トルコ語の名詞文にあたります。日本語でも形容詞が述語になる文は「~です」がつきますよね。トルコ語では、形容詞は名詞と同じ区分であるため、形容詞文と名詞文は同じ分類なのです。
一方、日本語で「~ます」で終わる文はトルコ語の動詞文にあたります。
トルコ語と日本語の文法における違い
これまでトルコ語と日本語の文法的な共通点に注目してきましたが、一方で違う部分もあります。
トルコ語は主語が明確である
大きな違いの一つとして挙げられるのが、トルコ語では主語の人称を明確に表す点です。述語には、必ず人称語尾がつきます。述語だけでなく、文節の中の動名詞や分詞についても、所有格にすることでその動作を行う行為者が誰かをはっきりさせます。
トルコ語には6つの人称がある
トルコ語には1人称・2人称・3人称それぞれに単数・複数があるため、合計6つの人称があります。名詞文・動詞文どちらの場合も、人称接辞がなければ文として成立しません。
以下の名詞文の例では、日本語なら「~です」をつけるだけで述語になります。しかしトルコ語の場合、主語の人称に合わせた人称接辞をつける必要があります。
1人称単数 | 私は日本人です。 Ben Japonum. |
---|---|
2人称単数 | 君はトルコ人です。 Sen Türksün. |
3人称単数 | 彼はアメリカ人です。 O Amerikalıdır. |
1人称複数 | 私たちは学生です。 Biz öğrenciyiz. |
2人称複数 | あなた方は旅行者です。 Siz turistsiniz. |
3人称複数 | 彼らは教師です。 Onlar öğretmendirler. |
トルコ語では動名詞や分詞の行為者を明確にする
トルコ語では動名詞や分詞を使った文節においても、誰がその行為を行ったのかを明確にする必要があります。
私が食べたリンゴは酸っぱかった。
Benim yediğim elma ekşiydi.
上記の例では、「私が(benimと分詞の所有格を表すim)食べた(yediğ)リンゴ(elma)」となります。日本語の「私が」と同様、トルコ語でも「benim(私の)」を使って行為者を限定します。
さらに、トルコ語では「食べた」にあたる部分にも1人称単数所有格の助詞をつける必要があるのです。この助詞「im」は省略できませんが、代名詞「benim(私が)」の部分は省略が可能です。
Yarın gideceğimiz firmaya nasıl gidelim?
明日行く会社にどうやって行きましょうか。
上記の例では、1人称複数の接辞が文節を作っている分詞と述語の2箇所についています。そのため、1人称複数(私たち)が行くことが明確です。日本語の場合は、文脈で私たちが行くのか、私が行くのか読み取る必要があります。
日本語は主語をぼかす傾向があるので、翻訳する際に少し苦労するかもしれません。
トルコ語は時制、日本語は助動詞で表現する
日本語では、助動詞を使って「過去」と「それ以外の時間」という2つの文法的な時間を表します。時制以外の「伝聞」「推定」「意志」といった表現には「~らしい」「~そうだ」「~ようだ」といったそれぞれの意図を表す助動詞を使いますよね。
トルコ語には5つの単純時制、つまり文法的な時間があります。願望や条件、義務を表す助動詞はありますが、「伝聞」「推定」「意志」は時制を表す接辞で表現されます。
トルコ語の現在進行形は日本語とほぼ同じ
トルコ語で「今~している」という状況を表現するには、〈-i⁴yor〉という接辞をつけます。
※〈-i⁴yor〉などにつく「⁴」という数字の意味は後述します。
Ben şimdi Türkçe öğreniyorum. (私は今トルコ語を勉強しています。)
Annem ve babam kahvaltı yapıyorlar. (母と父は朝食を食べています。)
上記のトルコ語の「勉強しています。」という表現は「今この瞬間に勉強している」という意味もあれば、「トルコ語をこの何年か勉強し続けている」という意味にもなりますよね。日本語と同じように、トルコ語でもどちらの時間も表現できます。
ただ、日本語で動詞の現在進行形を使って「状態」を表す場合は、トルコ語では形容詞で表現することが多いです。たとえば、「アフメットさんは結婚しています。」をトルコ語にすると〈Ahmet bey evli.〉となり、形容詞の〈evli〉を使った形容詞文で表現します。
トルコ語の「未来形」は意志や意図を表す
トルコ語では〈-e²cek〉という接辞を使って、未来に起きることや現在以降に実現する予定を表現します。話者にとって実現する可能性がかなり高い場合に使います。
日本語でも、将来実現する予定のできごとについて「~つもりです」「~します」といった表現で「意志」や「意図」を表しますよね。トルコ語でも同様に、未来形を使うことで自分の意志や意図を伝える場合があります。
「超越形」は時間の区切りがないものを表現する
トルコ語には「超越形」という時制があり、その名のとおり時間を「超越」した物事を表します。過去形以外がすべて同じ文法時間になる日本語こそ、究極の超越形ではないかとも考えられます。しかし、トルコ語の「超越形」は時間を超越していることがもう少し明確に伝わる表現です。
トルコ語では、時間を問わず変わらない真理、何度も繰り返す習慣などを「超越形」で表します。ことわざで使われることも多い時制です。下記のことわざはどちらも述語に超越時制が使われています。
- Acele yürüyen yolda kalır.
(急いで進むと(迷子になって目的地に)たどりつけない(「急がば回れ」に近い意味)) - Kötü haber tez yayılır.
(悪い知らせは早く広まる)
「単純過去」は過去に起きた事象を表現する
トルコ語には、過去形と呼ばれる時制が2つあります。1つ目は、〈-di⁴〉という接辞で表現する単純過去形です。単純過去形はその名のとおり時制としての過去を表し、過去に起きたことや過去にあった状態を表現するために使われます。
日本語の過去形「~た」で訳せる表現です。
「推定過去」は伝聞や推定を表す
もう1つの過去形が、〈-mi⁴ş〉という接辞を使う「推定過去形」です。推定過去形は、話者が現実には見ていない過去に起きた事象を表します。日本語の「~だそうだ」「~たらしい」「~たようだ」といった助動詞で訳せる表現です。
一人称が主語で〈-mi⁴ş〉を使うと「それまで意識していなかった状況を意識してしまった」ことを表現できます。
Televizyonu izlerken uyumuşum.
テレビを見ていたら眠っちゃってたみたい。(いつ眠ったのか自分ではわからなかった)
「複合時制」を使えばニュアンスも表現できる
トルコ語には複合時制という、時制の接辞を重ねた表現方法があります。現在進行形・超越形・未来形・単純過去形・推定過去形の接辞に、単純過去形または推定過去形の接辞を重ねて作ります。
たとえば、「未来形+単純過去形」は「~するはずだった」など「実現しなかったものの実現させる意図はあった」ことを伝える表現です。「未来形+推定過去形」なら「~するらしい」という訳になります。
この「推定過去形」を2つ重ねて作る〈-mi⁴şmi⁴ş〉という接辞は、文章で表現されている事態を話者が疑っている状況を表せます。
Cemil babasına haber vermişmiş.
ジェミルはお父さんに知らせたって言うけど…(言ってるはずないよね。)
トルコ語と日本語の文化的共通点とは
トルコ語と日本語は、まったく別の言語系統から影響を受けています。日本語が中国語の漢字を取り入れた一方、トルコ語は一時アラビア文字を使って表記されていました。
トルコ語にも中国語の影響がある?
しかし、トルコ語もはるか昔には中国に近い中央アジアで話されていた言語です。
トルコ語の歴史は、トルコ民族の歴史と重なっています。トルコ民族は、現在のモンゴル高原あたりにいた頃から世界史に登場します。最初のトルコに関する記述は、中国語の資料によるものだったのです。
トルコ語と日本語で似ている単語
トルコ語と日本語の文法はよく似ていますが、使われる単語は大きく異なります。そのため、トルコ語と日本語が同系の言語だとみなされることはほとんどありません。
それでも、本記事でご紹介した助詞のように似ている単語もあります。以下にトルコ語と日本語で意味と発音が似ている単語を紹介します。
- てっぺん(天辺):tepe
- 斜視:şaş-
- 茶:çay
- 水:su
日本語は中国語から言葉を取り入れたため、古代のトルコ民族がモンゴル高原にいた頃、中国の近隣で生活していたことが関係しているのかもしれません。
トルコ語と日本語は表記のとおりに発音する
トルコ語は日本語と同様、基本的には書いてある文字をそのまま発音する言語です。
たとえば、フランス語には「書いてあるのに読まない文字」「読まないのに必要な音節」があります。トルコ語は、書かれているとおりに読めばよいだけでなく、共和国になってからはラテン文字を使っているため日本語のローマ字読みに近く、かなり習得しやすい言語だといえます。
トルコ語の文字はアルファベット
トルコ語の文字であるアルファベットはAlfabe(アルファベー)と呼ばれます。8の母音と21の子音があり、辞書には以下の表の順に記載されています。ただし、9番目の帽子を乗せたgのような文字は単語の頭にくることがないため、辞書の項目にはありません。
大文字/小文字 (文字名) |
読み方 (注意点) |
---|---|
A/a (a) |
ア |
B/b (be) |
ベ (破裂音) |
C/c (ce) |
ジェ (破裂音) |
Ç/ç (çe) |
チェ |
D/d (de) |
デ |
E/e (e) |
エ |
F/f (fe) |
フェ |
G/g (ge) |
ゲ |
Ğ/ğ (yumuşak ge) |
読まずに伸ばす |
H/h (he) |
ヘ |
I/ı (ı) |
ウ (唇を横に伸ばして舌は後ろ) |
İ/i (i) |
イ (唇は横に伸ばして舌は前) |
J/j (je) |
ジェ (摩擦音) |
K/k (ke) |
ケ |
L/l (le) |
レ (デよりも少し舌の位置が後ろ) |
M/m (me) |
メ (口を閉じる) |
N/n (ne) |
ネ (口を閉じない) |
O/o (o) |
オ (唇を丸めて舌は後ろ) |
Ö/ö (ö) |
オ (唇を丸めて舌が前) |
P/p (pe) |
ペ |
R/r (re) |
レ |
S/s (se) |
セ(サ・ス・セ・ソ) |
Ş/ş (şe) |
シェ(シ) |
T/t (te) |
テ |
U/u (u) |
ウ (唇を突き出す形で丸めて舌は後ろ) |
Ü/ü (ü) |
ウ (唇を突き出す形で丸めて舌は前) |
V/v (ve) |
ヴェ (摩擦音) |
Y/y (ye) |
イェ |
Z/z (ze) |
ゼ |
トルコ語の発音
トルコ語は、基本的に子音と母音を組み合わせた音節単位で発音します。基本的に書いてあるとおりに読みますが、日本人にとって少し難しいのは子音で終わる音節です。
たとえばパンは”ekmek”と言いますが、この単語を音節に分けるとekとmekになります。どちらもkで終わりますが、カタカナ表記ではエキメキかエクメクとなるため、実際にはない”i”や”u”の音を入れることになってしまいます。子音で終わっている音節は、母音が入らないよう気を付けましょう。
紛らわしい子音
アルファベットの表には、ÇやŞなどあまりなじみのない子音がいくつかあります。それぞれに対応する日本語の音は以下のとおりです。
- Ç:日本語のチャ/チ/チュ/チェ/チョ
- Ş:日本語のシ
- S:日本語のサ/ス/セ/ソ
サシスセソと言ってみると、シだけほかと違う場所で音を出していますよね。そのシの音に近いのがŞです。
また、トルコ語の子音の音同士が紛らわしいものもあります。
1つは「B」と「V」です。Bは唇を合わせてから離す際に発音する破裂音、Vは唇の間で発音する摩擦音です。
ちなみにトルコ語にはWがないため、外国語のWをVのように発音することがあり、たとえば和香子(Wakako)さんは、人によってはヴァカコさんと言っているように聞こえてしまいます。
また「C」と「J」も区別の難しい音です。Cは口蓋に舌をつけてから離す際に発音する破裂音、Jは口蓋と舌の間で発音する摩擦音です。Jの音は基本的に外来語に使われており、トルコ語本来の音にはあまり使われません。日本はJaponyaで、ジャポンヤと読みます。
トルコ語の母音の発音
トルコ語の母音は8つあります。アルファベットの表にある母音のうち、E、A、O、Uはローマ字の音に近いため、日本人にもなじみのある音でしょう。残り4つの文字について紹介します。
大文字でも上に点があるİ(アイ)と小文字でも棒の上に点がないIは見慣れない文字でしょう。点があるİ(アイ)はローマ字のi(アイ)に近い音ですが、点がないIは少し違う音になります。ÖとÜも、日本語にはない音です。
トルコ語の母音は、発音するときの舌の位置と口の形によって以下表のように分けられます。
唇の形 | 舌の位置が前 | 舌の位置が後ろ |
---|---|---|
大きめの楕円 | E | A |
薄い楕円 | İ | I |
大きめの丸 | Ö | O |
尖った小さい丸 | Ü | U |
EとAを区別するには、まず日本語で「あ」と言ってみてください。唇の形が大きな楕円形になり、舌の位置が後ろになっていればAの音です。そのまま舌を前に突き出すと「え」という音に変わります。それがEの音です。EとAは、唇の形は同じですが舌の位置の前後によって変わる音の組み合わせです。
İとIを区別するには、子供のころに友達とけんかをして「イーッダ」と言ったことを思い出してみましょう。この2つの音は、「イーッダ」と言うときの唇の形で出す音です。唇の両端を思いきり引いて、薄い楕円形にします。その状態で「い」と言ってみてください。舌の位置が前にあれば、それはİの音です。そのまま舌を後ろに引くと、点のないIの音になります。引っかかりのある「う」の音といったイメージです。
ÖとOを区別するには、まず日本語の「お」という音を出してみてください。唇は丸く口の中が広めで、舌は後方にあるはずです。それがOの音です。そのまま口や唇の形は変えずに舌を前に突き出すと、音が変わります。それがÖの音です。
ÜとUを区別するには、まず唇を少し尖らせるようにすぼめて音を出してみてください。舌が後方にあればUの音、舌が前方にあればÜの音です。唇の形を変えず、舌を前後に動かしてみると、音の違いがわかりやすいでしょう。
助詞をつける際の規則:母音調和
トルコ語では助詞をつけて文を組み立てますが、助詞をつける際に母音調和が行われます。母音調和とは、助詞がつく直前の音節の母音に調和した母音の助詞を選ぶという法則です。法則というとむずかしく聞こえますが、発音しやすくするための仕組みです。母音の音の出し方さえわかれば、そこまでむずかしくありません。
どの助詞がつくときにも母音調和は起こるため、トルコ語を話す・書く・理解するためには必須の規則になります。
助詞を母音調和させてつける方法
トルコ語の助詞は、格助詞、動詞を名詞にする接辞、態を表す接辞、時制や人称を表す接辞などさまざまですが、母音調和という観点からは2つに分けられます。
1つ目が、-a/-eの母音のどちらかを選ぶものです。舌が前にある音または後ろにある音のどちらかを選ぶため、-e²と表示されることもあります。位格を表す-da/-de(-de²)、与格を表す-a/-e(-e²)、動名詞を作る-ma/-me(-me²)などです。
直前の音節の母音が、舌が前にある状態で発音される母音ならe、舌が後ろにある状態で発音される母音ならaの音がある助詞がきます。
- İstanbul’a(イスタンブールに)
- Japonya’ya(日本に)
- İzmir’e (イズミールに)
- Türkiye’ye (トルコに)
2つ目は-i/-ı/-ü/-uの4つの中からいずれかを選ぶというものです。4つの中から選ぶため、-i⁴と表示されることもあります。
名詞を形容詞にする-li/-lı/-lü/-lu(-li⁴)、使役動詞を作る-dir/-dır/-dür/-dur(-di⁴r)、1人称の人称語尾-im/-ım/-üm/-um (-i⁴m)などがあります。舌の位置と口の形を変えずに発音できるようにするため、4つのグループになるのです。
Eとİは唇の形が楕円で舌の位置が前の母音、AとIは唇の形が楕円で舌の位置が後ろの母音、ÖとÜは唇の形が丸く舌の位置が前にある母音、OとUは唇の形が丸く舌の位置が後ろにある母音です。
発音するとき、口の開き方を大きい状態から小さくするか、小さい状態から大きくするかで発音のしやすさが変わります。OからUとUからOなら、大きい状態から小さくするOからUのほうが少し楽でしょう。そのため、Eとİで終わる音節のあとにはİがつく助詞、AとI のあとにはIがつく助詞、ÖとÜのあとにはÜがつく助詞、OとUで終わる音節のあとにはUがつく助詞がきます。
- Çin-li(中国人)
- Norveç-li (ノルウェー人)
- Amerika-lı(アメリカ人)
- kız-dırmak(怒らせる)
- Köy-lü(村の人)
- akü-lü(電動バッテリーの)
- Espanyol-lu(スペイン人)
- Peru-lu(ペルー人)
音と助詞の関係を表にまとめてみました。発音を楽にするための仕組みなので、音読しながら練習すれば身につけやすいでしょう。
直前の母音 (舌の位置が前) |
唇の形 | 助詞につく母音 |
---|---|---|
E | 大きめの楕円 | İ |
İ | 薄い楕円 | |
Ö | 大きめの丸 | Ü |
Ü | 尖った小さい丸 |
直前の母音 (舌の位置が後ろ) |
唇の形 | 助詞につく母音 |
---|---|---|
A | 大きめの楕円 | I |
I | 薄い楕円 | |
O | 大きめの丸 | U |
U | 尖った小さい丸 |
トルコ語を形作ったトルコ民族の歴史
トルコ語がいかにしてできあがったのか、トルコ民族の歴史とともにご紹介します。
世界史の授業で、突厥(とっけつ)という民族のことを学んだ方もいるでしょう。実は、突厥はトルコ系の民族です。トルコ系国家の始まりは552年といわれており、これは突厥が国家となった年に由来します。突厥で話されていた言語がトルコ語の原型でした。
最古のトルコ語資料:オルホン碑文
最古のトルコ語の資料は、突厥文字で書かれた「オルホン碑文」です。オルホン碑文は、1889年にモンゴルのオルホン河畔で発見されました。8世紀の初頭に刻まれたものとされ、当時遊牧民だったトルコ民族が文字を使用していたことがわかります。
この碑文に書かれているトルコ語の成熟度から、少なくとも何世紀かにわたって使われてきた言語であるともいわれています。
(出典:Muharrem Ergin著「Türk Dil Bilgisi」)
最古のトルコ語辞書:ディワニ・ルガティ・トゥルク
ディワニ・ルガティ・トゥルクは、11世紀に編纂されたトルコ語をアラビア語で説明したトルコ語―アラビア語辞典です。編者はカシュガルル・マフムートという学者でした。カシュガルルにはカシュガル出身という意味があり、今の新疆ウイグル自治区にあたります。
ウイグル族の歴史や文化、グルメも解説!祖先はトルコ人で美人が多い?
当時のテュルク諸語に関する包括的な辞書となっており、トルコ語の語源などにつながるたいへん価値の高い資料となっています。興味深いことにこの辞書には地図がついており、形はかなりいびつですが大陸の脇に日本も記載されています。
西への移動につれてテュルク諸語が発展
モンゴル高原で歴史に登場するトルコ系の民族は、次第に西に移動していきます。中央アジアから西アジア、アナトリア半島へと移動する過程で、カザフスタンやウズベキスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャンなどに分化しました。これらの国々で話されている言葉は、テュルク諸語と呼ばれるトルコ語系の言葉です。
アナトリアが小アジアと呼ばれる理由とは?歴史・文明・遺跡を紹介
11世紀にアナトリア高原でトルコ語が出現
現在トルコ共和国で話されているトルコ語の原型は、11世紀にアナトリア高原に移動してきたセルジュークトルコ時代の言葉です。11~15世紀初頭までのトルコ語は、アナトリア古語と呼ばれています。
セルジューク朝の成立から滅亡までを徹底解説!オスマン帝国との関係も説明
当時、文化的な行事や政治に使われていた言葉はペルシャ語でした。たとえば、「旋回祈祷」で知られるメヴラーナは著書をペルシャ語で書いています。政治に関する話し合いが行われる宮廷での会議でも、ペルシャ語が使用されていました。
しかし、13世紀に入って状況は大きく変わります。1277年5月にカラマン氏族が宮廷内での会話や会議、布告にトルコ語を使うと決めたことから、アナトリア古語と呼ばれるトルコ語が広く使われるようになりました。13世紀の著名な詩人ユヌス・エムレも、アナトリア古語で著作を残しています。
オスマントルコ時代のトルコ語は折衷語
15~20世紀初頭まで、トルコの書き言葉や官僚用語はオスマントルコ語でした。オスマントルコ語は、ペルシャ語やアラビア語の影響を色濃く受けた言葉です。
15世紀のオスマントルコ語では、まだ多くのトルコ語の単語が使われていました。しかし、17世紀になると動詞以外はトルコ語の単語がほとんど見られないほど、アラビア語やペルシャ語の単語が多用されるようになったのです。
19世紀に書かれたものにはフランス語の単語が多く含まれるなど、政治と時代の変化を大きく反映しています。
オスマン帝国はなぜ600年以上も続いたのか?栄光と滅亡の歴史と強さの秘密
ラテン文字を使えるのはアタテュルクのおかげ?
1928年にトルコ共和国が建国されると、オスマントルコ時代まで表記に使われていたアラビア文字がラテン文字に改められました。トルコ共和国の父アタテュルク指導のもと実施された「文字改革」で、ローマ字に似たアルファベットを使った新たなトルコ語の文字体系が制作されたのです。
トルコの初代大統領ムスタファ・ケマル・アタテュルクの生い立ちと偉業
また、アラビア語やペルシャ語の単語をトルコ語に置き換える政策もとられました。トルコ語は、日本語と同じように複数の単語を組み合わせた新たな単語を作る造語力に長けた言語です。たとえば、「知識bilgi +計算するsayar」を組み合わせたbilgisayarıは、コンピューターという意味の単語として広く受け入れられています。
とはいえ、日本語の中に漢語が多く取り入れられているように、トルコ語の中にもアラビア語やペルシャ語起源の言葉がたくさん残っています。
トルコ語と日本語の共通点や違いまとめ
本記事では、トルコ語と日本語の文法的な共通点や違い、さらにトルコ語ができあがるまでの歴史的な変遷などをご紹介しました。
文法的な成り立ちや文字をそのまま読み上げる発音方法など、日本語との共通点が多いトルコ語は日本人にとって身につけやすい言語といえるでしょう。少しでもトルコ語が話せるようになれば、フレンドリーな国民性のトルコ人とはすぐに打ち解けられるはずです。
長い歴史を誇るトルコには、世界遺産やグルメなどさまざまな魅力が詰まっています。興味を持たれた方はぜひ一度現地を訪れてみてください。
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