ローマ神話を全解説!有名な神・女神やギリシャ神話との違い、成立の歴史
更新日:2023.02.28
投稿日:2022.10.31
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ローマ神話と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょう。日本ではどちらかといえばギリシャ神話のほうが有名で、ローマ神話について知っているという方はあまりいないかもしれません。
古代ローマ時代に語り継がれたローマ神話は、登場する神様やストーリーがギリシャ神話とよく似ているのが大きな特徴です。本記事では、ローマ神話の代表的な神様やストーリー、ギリシャ神話との違いなどをわかりやすく解説します。
Contents
ローマ神話とは
ローマ神話は、かつてイタリア半島を中心に栄えた古代ローマで伝承されていた神話です。内容は国の起源や神々の物語などで、ギリシャ神話から強い影響を受けており、登場する神様やストーリーなどにギリシャ神話とそっくりな部分が多くみられます。
ギリシャとローマ、全く別々の場所で伝えられてきた2つの神話に密接な関係ができたのはなぜなのでしょうか。ローマ神話が生まれた背景やギリシャ神話と似ている理由など、ローマ神話とはどのようなものかをみていきましょう。
ギリシャ神話との違いは?
ローマ神話とギリシャ神話が類似している理由は、古代ギリシャと古代ローマが歩んだ歴史にあります。ローマ神話とギリシャ神話の違いを説明する前に、まずは古代ローマと古代ギリシャが歴史的にどのような関係にあったかを確認しておきましょう。
古代ローマと古代ギリシャの関係とは?
古代ローマと古代ギリシャは日本人から見ると、よく似ていて混同してしまいがちですが、実際にはさまざまな違いがあり、全く異なる歴史を歩んできました。
古代ローマは現在のイタリア半島から発展していった一つの国家ですが、古代ギリシャは現在のギリシャ周辺で栄えた文明や都市国家などを指します。
古代ギリシャのほうが時代は古く、B.C.3000頃に興ったエーゲ海文明が起源とされています。その後、古代ギリシャでは複数の都市国家(ポリス)が発展していき、アテナイやスパルタなどで有名なポリスも誕生しました。
一方の古代ローマは、B.C.753年にイタリア中部で興った都市国家で、諸外国との戦争に勝利しながら領土を拡大。最盛期には地中海一帯を支配する大帝国を築きました。
B.C.4世紀頃になると、古代ギリシャの都市国家群は台頭してきたマケドニアによって征服されていきます。マケドニアはアレキサンダー大王の時代にアジアに至る世界帝国へと発展しましたが、大王の死後、国は分裂。同じ頃、勢力を伸ばしていた古代ローマはマケドニアを破ると、B.C.168年、ギリシャを属州として勢力下に置きました。
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ローマ神話とギリシャ神話の違い
ギリシャ神話は古代ギリシャで語り継がれていた伝承文化です。内容は世界創造から始まり、神々が子どもを作り、世界を形成していく過程が描かれました。かの有名なオリンポスの十二神やヘラクレス、ペルセウスといった英雄たちが登場する物語として、日本でも馴染みがあるという人もいるでしょう。
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古代ローマでは、もともと古代ギリシャにあった神話や神々を取り込んだため、2つの神話にさまざまな類似点や共通の神様が生まれました。
ローマ神話もギリシャ神話と同様に多くの神様が登場する多神教の世界観をもっており、神様が神様を生み出すなど、似た内容の物語も存在します。また、ローマ神話に登場する神々の多くがギリシャ神話の神々と同一視されているのも特徴です。
しかし、2つの神話には大きな違いもあります。ギリシャ神話が当時の人々の文化・教養として、吟遊詩人などにより口承で伝えられていた叙事詩的なものだったのに対して、ローマ神話は支配者となったローマのアイデンティティや権威の裏付けとしての役割を果たしていました。ギリシャをはじめ各地の神話や神様を取り入れ、ローマ独自の解釈を加えながら成立していったのです。
ローマ独自のストーリーが加わったため、物語的により豊かになった側面もあるものの、基本的にローマ神話はギリシャ神話よりも政治的要素が強くなっているといえます。
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ローマ神話の起源とは?
ギリシャ神話から大きな影響を受けたローマ神話ですが、全てが輸入されたものではなく、もともと先史時代からローマ独自の神話や伝承も存在していました。後世に伝わったローマ神話は、主にラテン人に由来するローマ土着の神話とギリシャ神話に由来するエトルリア神話が融合したものと考えられます。
ラテン人とは、B.C.1000年頃にローマにいたとされるインドヨーロッパ系イタリック族で、原ローマを築いた人々です。
一方のエトルリア人は、B.C.8世紀頃にアナトリアから渡ってきたともいわれる人々で、ローマの北に都市国家エトルリアを形成しました。ローマとエトルリアは勢力争いを繰り広げた末に同化し、ローマが建国されたといわれます。エトルリア人の文化や信仰はギリシャに近く、ギリシャ神話に影響を受けたとみられるエトルリア神話を生み出していました。
ローマとエトルリアが融合したことにより、両者の神話も融合。ローマ建国の英雄である双子のロームルスとレムスの父がギリシャ神話の軍神アレース(ローマ神話ではマールス)、母がラテン人の神話に登場する火の神ウェスタの巫女であったレア・シルウィアとされていることからも、その関係性がうかがえます。
その後、ローマがギリシャを支配したため、従来のギリシャ神話もローマ神話と強く結びついていきます。
古代ローマは古代ギリシャの文化に影響を受けた
実は、古代ローマが古代ギリシャから影響を受けたのは神話だけではありません。B.C.2世紀にローマがギリシャを統治した際、神話をはじめ、古代ギリシャの優れた文学や哲学作品などが多数ローマに流入してきたのです。
古代ギリシャ人は、長い歴史の中でさまざまな文明の影響を受け、近代ヨーロッパの基礎ともいわれる学問や芸術、文化を発達させていました。征服者だったローマ人ですが、学問や文化においてはギリシャ人に学ぶことも多かったといえるでしょう。
ローマ人は、古代ギリシャの神話原典や作品を自分たちが使っていたラテン語に翻訳したり、古代ギリシャの語彙をラテン語に取り入れたりして、ラテン語とローマ文化を大幅に進歩させました。
ローマ神話に関する文学作品
ギリシャ神話と比べると、日本ではまだまだマイナーな存在のローマ神話。ローマ神話をより深く知りたいという方は、古代ローマ時代に書かれた神話に関する文学作品を読んでみるのもおすすめです。ここでは、代表的なローマ神話の文学作品を紹介します。
「変身物語」オウィディウス
『転身物語』『メタモルポーセース』とも呼ばれる、古代ローマの詩人オウィディウスによる叙事詩です。全15巻におよぶ長編で、宇宙の成立からアウグストゥス帝の治世までの時代を背景にして、ローマ神話の登場人物たちが動物や植物、星座、神様などさまざまなものに変身する話が約250本収められています。
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なかには、イカロスの墜落やナルシストの語源になったナルキッソスなど有名なエピソードも含まれており、ラテン文学の最高傑作の1つとされています。シェイクスピアやグリム童話にも影響を与えたといわれる作品です。
ローマ神話独自のストーリーのあらすじ
ローマ神話のストーリーはすべてがギリシャ神話と同じというわけではなく、ローマ神話だけの固有要素もあれば、追加要素もあり、新たな解釈が入れられている場合もあります。ローマ神話独自の物語としては、ロームルスとレムスによるローマ建国神話やアエネーアース(アイネイアース)のイタリア上陸などが代表的です。
アエネーアースのイタリア上陸
アエネーアースのイタリア上陸は、ローマ時代の詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』の中に描かれており、トロイア戦争でギリシャに敗れたトロイアの英雄アエネーアースの物語です。
トロイア(現在のトルコ西岸)を脱出したアエネーアースは王国再建を誓い、さまざまな苦難を乗り越えながら地中海各地を彷徨。やがて、ローマ神話の主神ユーピテルの命を受けてイタリアへ辿り着いたアエネーアースは、現地の王族と結婚し、勢力を広げて新たな都を築きました。
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ローマ建国神話
アエネーアースによる新都建設後、何度かの王朝交代を経て登場するのが、ローマを建国した初代王ロームルスです。生まれは、アルバ・ロンガというイタリア半島にあったラテン人の都市国家でした。アルバ王家の血を引きながら捨て子となっていたロームルスは、やがて国を取り戻すと、自分の名を冠した悠久の都「ローマ」を建設。周辺諸国を征服して豊かな国を作り上げ、王政だった政治体制から、後の共和政ローマ、そして帝政ローマの礎を築いたとされています。
こうしたローマ独自の物語に登場するのが、以下に紹介するローマ神話の英雄たちです。
ローマ神話のおもな英雄
イタリア上陸やローマ建国などの物語には、ローマ神話オリジナルの英雄やギリシャ神話に存在するものの、ローマ神話で新たな役割を与えられた英雄などが登場しています。ローマ神話に出てくるおもな英雄たちをみていきましょう。
アエネーアース(アエネアス)
ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』の主人公。トロイア戦争後、イタリアに渡ってローマ建国の祖になったとされる人物です。
アエネーアースは、もともと英雄アエネイアスの名前でギリシャ神話にも登場しており、ホメロスの叙事詩『イーリアス』にも活躍が描かれていますが、ローマを建国した人物というストーリーが加えられたのはローマ時代になってからです。このように、ギリシャ神話を下敷きにしながら、独自の部分を付け加えるのは、ローマ神話の特徴的な点といえるでしょう。
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ちなみに、アエネーアースの物語がローマ人に広まったのはB.C.4世紀頃といわれますが、建国神話自体はウェルギリウスの作品以前から存在しており、さらに古い時代の土着の伝承がもとになっていると考えられています。
ロームルス(ロムルス)・レムス
ローマ建国の祖となる双子の兄弟。アエネーアースの長男が築いた都市国家アルバ・ロンガの王族の血を引いており、王位争いの結果、王家を追われてウェスタ神の巫女となっていたレア・シルウィアと軍神マールスの子どもとして産まれました。
出産後すぐに捨て子にされた2人は狼によって育てられたといわれ、やがて成長すると、母の仇である叔父を討ち取り、祖父を復位させて国の実権を握ります。
しかし、どちらが新しい都の支配者になるかを決める占いにレムスが敗れたため、兄弟仲が悪化。ついにロームルスは決闘によりレムスを殺めることになります。その後、新たに築かれた都はロームルスの名をとってローマと呼ばれるようになり、ロームルスは初代王として王政ローマの建国者となりました。
ローマ神話独自の神
ローマ神話の神様の多くは、ギリシャ神話の神様と同一視されています。しかし、なかには、ギリシャ神話には出てこないオリジナルの神様も存在するのです。ローマ神話だけに登場する独自の神々を紹介します。
ティベリヌス
イタリアで3番目に長いティベレ川の神で、最も重要な川の神の1人です。もとはティベリヌス・シルヴィウスという人間の国王でしたが、ティベレ川を渡ろうとして溺れ、死後に川の神へ転生しました。
建国神話に登場するロームルスとレムスを育ての親である狼のもとへと連れて行ったのはティベリヌスだったといわれ、後には、死刑を宣告されていた双子の母親レア・シルウィアを助け出して結婚しています。
ヤーヌス
出入り口と扉の守護神。前と後ろに2つの顔をもつ双面神で、物事の内と外を同時に見られます。もともとは物事の始まりを司る神で、そこから、あらゆる行動のスタートを象徴する扉や門の守護神になりました。
1年の始まりとなる1月の神でもあり、英単語で1月を表す「January」はヤーヌスの名前が語源です。古い時代には王として人間の土地を治めていた時期もあり、ヤーヌスの治世は、人々に多くの技術を教えて野蛮な生活を終わらせた黄金時代だったといわれます。
リーベルタース
ローマ神話における自由の女神。リーベルタースの名前は、ラテン語で「自由(libertas)」を意味する単語にもなっています。もともとは、奴隷ではない自由市民のシンボルとして個人の自由を司る存在でしたが、やがて帝政時代になると政治的自由を現す女神としても信仰されました。
ローマ神話の調和せし神々

Louvre Museum, Public domain, via Wikimedia Commons
ローマによるギリシャ支配後、ローマ神話とギリシャ神話の融合が図られますが、その代表といえるのが「ローマの調和せし神々(ディー・コンセンテス)」です。ローマ神話では、12の最高神をギリシャ神話の神々に当てはめ、同一視していました。ここからは、ギリシャ神話と深い関係をもつローマ神話の神々について紹介します。
ローマ神話の十二神は「ディー・コンセンテス:Dii Consentes」
「ディー・コンセンテス:Dii Consentes(調和せし神々)」は、ローマ神話に登場する12柱の最高神の総称です。それぞれがギリシャ神話のオリュンポス十二神と対応しており、主神ユーピテルをはじめ、以下のような6人の男神と6人の女神で構成されます。
ローマ神話 | ギリシャ神話 | 英読み | 特徴 | 惑星 |
---|---|---|---|---|
ユーピテル(ユピテル) Juppiter |
ゼウス Zeus |
ジュピター Jupiter |
全知全能の神、最高神、雷神 | 木星 |
ユーノー(ユノ) Juno |
ヘーラー Hera |
ジュノー Juno |
神々の女神、婚姻・貞節の女神 | – |
ミネルウァ Minerva |
アテーナー Athena |
ミネルヴァ Minerva |
知略・商業・魔術・戦いの女神 | – |
アポロー Apollo |
アポローン Apollon |
アポロ Apollo |
太陽神、予言・音楽の神 | 太陽 |
ウェヌス Venus |
アフロディーテー Aphrodite |
ヴィーナス Venus |
愛と美の女神 | 金星 |
マールス Mars |
アレース Ares |
マーズ Mars |
軍神、戦争・農耕の神 | 火星 |
ディアーナ Diana |
アルテミス Artemis |
ダイアナ Diana |
月の女神、狩猟・貞節の神 | 月 |
ケレース Ceres |
デーメーテール Demeter |
セレス Ceres |
豊穣神、地母神、地下神 | – |
ウゥルカーヌス Vulcanus |
ヘーパイストス Hephaestus |
ヴァルカン Vulcan |
火の神、鍛冶の神 | – |
メルクリウス Mercurius |
ヘルメース Hermes |
マーキュリー Mercury |
商業・情報・泥棒・旅人・職人の神 | 水星 |
ネプトゥーヌス Neptunus |
ポセイドーン Poseidon |
ネプチューン Neptune |
海の神 | 海王星 |
ウェスタ Vesta |
ヘスティアー Hestia |
ヴェスタ Vesta |
かまど・家庭・家族の女神、処女神 | – |
ローマ神話の神とギリシャ神話の多くの神は同一視されている
「ディー・コンセンテス」のように、ローマ神話ではギリシャ神話の神々を自分たちの神々と同一視して、積極的に取り入れていきました。ギリシャ神話のほぼ全ての神に対応するラテン語名があり、例えば、ギリシャ神話の主神ゼウスはローマでは最高神ユーピテル(Juppiter)に当たります。また、一部の神々の名前は惑星名の由来にもなっており、木星の英語名ジュピター(Jupiter)はユーピテルの名前からとられたものです。
ただ、両神話の神々は全く同一というわけではありません。イメージの近い神同士を重ね合わせたため、名前や性質は似ていても性格やストーリーが違っているなど、細かい部分の扱いや特徴などに相違点があります。
例えば、ギリシャ神話の主神はゼウスですが、ローマでは次に紹介する「カピトリヌスの三神」のように、三柱一組の神が主神として信仰されていました。
ローマ神話の三主神「カピトリヌスの三神」
カピトリヌスの三神は、ローマの七丘の1つ、カピトーリウムの丘に建つユーピテル神殿に祀られた三柱一組の国家神のことです。一般的には最高神ユーピテルと妻のユーノー、その娘ミネルウァを指します。ローマでは、最高神だけでなく、妻と娘も同等の地位として信仰の対象とされていました。
古い時代には、ユーピテルとマールス、クゥイリーヌスが三神とされており、そこからユーノーとミネルウァに入れ替わり、さらにキリスト教が広まると父なる神、イエス・キリスト、精霊の三位一体へと置き換わります。このように、ローマでは長い歴史の中で信仰の対象が少しずつ変化しており、神の扱いも時代とともに移り変わっていったのです。
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ローマ神話の有名な女神
ここからは、ローマ神話の有名な神様を紹介していきます。まずは有名な女神から、ディー・コンセンテスを中心に、それぞれの特徴やギリシャ神話との関係をみていきましょう。
月の女神:ディアーナ(Diana)
狩猟・貞節を司る月の女神。ギリシャ神話のアルテミスに相当し、英語読みではダイアナです。ユーピテルの娘でアポローの妹といわれ、新月の夜に銀の弓をもつ女性として描かれます。
ディアーナに関する神話の大半はアルテミスそのままで、独自のストーリーはほとんどありません。ただ、『アエネーイス』において、天ではルーナ、地上ではディアーナ、地下ではプロセルピナという3つの顔をもつ女神とされている点は、数少ないローマ神話オリジナルの要素といえます。
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結婚の女神:ユーノー(Juno)
最高神ユーピテルの妻にして、ローマ最高位の女神。女性の結婚・出産を司り、月とも深い関係をもっています。ギリシャ神話ではヘーラーに相当し、英語読みはジューノウ。
6月の女神でもあり、英語で6月を指す「June」はユーノーの名前に由来していて、6月の花嫁(ジューンブライド)はユーノーの加護を願う習慣として始まりました。神権のシンボルである美しい冠を被った堂々たる姿で描かれ、『アエネーイス』の中では、英雄アエネーアースにさまざまな試練を与えたとされます。
愛・美の女神:ウェヌス(Venus)
愛と美を司る女神。ギリシャ神話のアフロディーテーに相当し、英語読みのヴィーナスのほうがよく知られているかもしれません。半裸または全裸の美女として描かれ、女性を表す♀のマークはもともとウェヌスを意味する記号です。
ウェヌスは火の神ウゥルカーヌスの妻ですが、マールスなど複数の神とのロマンスが伝わる恋多き女性でもありました。ローマ建国の祖であるアエネーアースは彼女の息子で、有名な古代ローマの政治家ユリウス・カエサルはその子孫といわれています。
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知略の女神:ミネルウァ(Minerva)
知略、戦争、芸術、魔術、商業、工芸など幅広い分野を司る女神。ギリシャ神話のアテーナーに相当し、英語読みはミナーヴァです。口語ラテン語の発音でミネルヴァと呼ばれる場合もあり、こちらの読み方のほうが知られているのではないでしょうか。絵画などでは、知恵のシンボルであるフクロウをつれている姿がよく描かれます。
元々はイタリア全土で信仰されていた神で、アテーナーとの同一視などが原因で、さまざまな顔をもつようになっていきました。知恵を象徴する女神のため、現在でも海外の大学や教育機関では、ミネルウァの紋章や像などが飾られている場合があります。
大地の女神:ケレース(Ceres)
大地と豊穣を司る女神。ギリシャ神話のデーメーテールに相当し、英語読みはシリーズです。惑星の名前にはなっていないものの、初めて発見された準惑星「ケレス」の名前は彼女に由来しています。
かつては冥界の神とも考えられており、ローマ時代には家に不幸があったとき、死の穢れを免れるためケレースに供え物を捧げる風習がありました。現代では、豊穣の象徴として、海外の紙幣やコインの一部でデザインにケレースが取り入れられています。
家庭の女神:ウェスタ(Vesta)
かまど、家庭、家族を司る処女の女神。ギリシャ神話のヘスティアーに相当し、英語読みはヴェスタです。古代ローマでは国を1つの大家族と考え、国家の鎮護神としてウェスタを信仰していました。
ウェスタ神殿では、貴族階級から選ばれた少女たちが巫女として仕えており、建国神話のロームルスとレムスの母親レア・シルウィアもウェスタの巫女だったといわれます。ウェスタの神官長はローマの聖職者で最も高い権威をもっており、女性ながら、劇場などでも最上級の席を割り当てられていました。
アナトリアの大地母神:キュベレー(Cybele)
現在のトルコにあたるアナトリア半島で信仰されていた大地母神です。死と再生を司る神で、キュベレーとは「知識の保護者」を意味します。B.C.200年頃、アナトリア半島フリュギアのアッタロス朝ペルガモンがローマと同盟を結んだのをきっかけに、キュベレー信仰はローマやギリシャにも広がっていきました。
ディー・コンセンテスのようなローマ、ギリシャの神とは異なりますが、古代ローマが支配圏を広げる中で、このような外来の神々もローマ神話の中に受容されていったのです。
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ローマ神話の有名な男神
続いては、最高神ユーピテルをはじめとするローマ神話の有名な男神を紹介していきます。
最高神・雷神:ユーピテル(Jupiter)
ローマ神話の最高神で、ローマ最高位の女神ユーノーの夫。ギリシャ神話のゼウスに相当し、同じく雷を象徴する神です。女性になる力をもっており、女神ディアーナは、実はユーピテルが変身した姿ともいわれます。
ローマの中心にはユーピテルを祀ったユーピテル神殿が建てられ、ローマの守護神として長く人々の信仰を集めました。また、戦争では一騎打ちの守り神といわれ、1対1の戦いで敵を仕留めたローマの将軍は、相手の鎧をユーピテルに奉納する習慣があったとされます。
太陽の神:アポロー(Apollo)
太陽神であり、音楽、予言、治癒、詩歌、光明など多くの分野を司るとされる神。ユーピテルの息子の1人で、月の女神ディアーナの兄といわれます。ギリシャ神話のアポローンに相当し、伝えられる能力や神話の多くもアポローンと同じものです。
人間と神の仲介役を務めており、人々が神託を必要としたときのため、予言を授ける能力に長けていました。
戦いの神:マールス(Mars)
ローマの守護神の1人で、戦と農耕を司る神。軍神としてグラディウス(進軍する者)の異名をもち、英語読みのマーズは火星の由来になっています。
ギリシャ神話のアレースに相当しますが、戦いの狂乱や疫病の神として畏怖されたアレースと異なり、マールスは勇敢な戦士の神として人々の信仰を受けました。マールスの姿は理想の青年像とされ、男性を表す♂はもともとマールスを意味する記号です。
鍛治の神:ウゥルカーヌス(Vulcunus)
火や鍛冶を司る神で、ギリシャ神話のヘーパイストスに相当し、英語読みはヴァルカンです。もともとはローマの火の神でしたが、ヘーパイストスと同一視されたため、鍛冶の神としての要素も加わりました。
一説には、ローマを建国したロームルスが信仰をはじめた神ともいわれます。ただ、現在では、多くの神話はヘーパイストスと同じになっており、ウゥルカーヌス独自のストーリーなどはほとんど残されていません。
海(水)の神:ネプトゥーヌス(Neptunus)
ギリシャ神話のポセイドーンに相当する海の神。三叉槍を手にもち、馬やイルカを操って海を支配したといわれます。もとは河川や湖沼などを司る水の神でしたが、ポセイドーンと同一視されたため、海の神として信仰されるようになりました。
水に関する多くのローマ神話に登場し、気難しい神としても知られています。特に、ネプトゥーヌスの怒りは大地を大きく揺らすといわれ、地震の原因になる神とも考えられていました。
風の神:メルクリウス(Mercurius)
風の神であると同時に、商人や旅人、盗人、職人、雄弁家など、さまざまな人々を庇護してくれる守護神です。ギリシャ神話のヘルメースに相当し、英語読みのマーキュリーは水星の語源になっています。
商業を象徴する神のため、初期のローマの硬貨にはメルクリウスが描かれていました。メルクリウスの神殿は、ローマ中心部から外れた場所にあったため、本来はローマの外部から伝わってきた神ではないかともいわれています。
ローマにあるローマ神話にまつわる観光スポット
イタリアの首都ローマには、現在も古代ローマ時代の遺跡や建造物がたくさん残されており、なかにはローマ神話と深い関係をもつスポットもあります。ここからは、ローマにある神話にまつわるスポットを紹介していきます。現地へ行く機会があれば、ぜひ訪れてみてください。
パンテオン
ローマ市内のマルス広場にある古代ローマ時代の神殿です。パンテオンには「すべての神々」の意味があり、特定の神ではなく全ての神々を祀るための神殿として、古代ローマや古代ギリシャにみられた建物です。
内部は天窓から光が差し込む厳かなドーム状の空間が広がり、高度な技術と芸術性から西洋建築史上の名作の1つといわれます。最初のパンテオンは紀元前に建てられましたが、火災で焼失しており、現在残っているのは再建された2代目です。パンテオンには墓標としての役割もあり、ルネサンス時代の芸術家ラファエロや近代イタリアの諸王など著名人が埋葬されています。
ウェスタ神殿
古代ローマ時代にローマの中心部だったフォロ・ロマーノ(遺跡)にある神殿で、ディー・コンセンテスの1人であるかまどの女神:ウェスタを祀っていた場所です。
古代ローマ時代には、多くのウェスタの巫女たちが神殿に仕えていたとされ、ローマの建国者であるロームルスの母もその1人だったといわれます。神殿内の炉でウェスタの炎と呼ばれる神聖な火を焚いており、この火が消えるとローマに災いが起きるとされていました。現在でも、大理石でできた炉の一部などが残されているのを見られます。
ウェヌスとローマ神殿
フォロ・ロマーノの東に位置する神殿で、ハドリアヌス帝時代の135年に完成しており、ウェヌスとローマの2人の女神が祀られていました。ウェヌスはディー・コンセンテスの1人で愛と美の女神。もう一方のローマは、都市および国家としてのローマを司る女神です。
かつては古代ローマ最大の規模を誇ったウェヌスとローマ神殿ですが、火災や地震などにより損傷を受け、現在では円柱など一部が存在するだけとなっています。
サートゥルヌス神殿
フォロ・ロマーノの西にある神殿で、ローマ神話の農耕神サートゥルヌスが祀られていた場所です。王政ローマの最後または共和政ローマの最初期に建造されたといわれ、内部には大鎌をもったサートゥルヌスの木像がありました。サートゥルヌス像の脚には、普段は亜麻布が巻かれており、年に1度の農耕祭のときだけ解かれたといわれます。
また、ローマの宝物庫としての役割ももち、金・銀など国家の財産や公文書、重量単位の原器などが保管されていました。時代とともに崩壊が進んでおり、現在は正面ポーチの一部のみが残されています。
ポルトゥヌス神殿
ローマ市内を流れるティベレ川のそばに建つ神殿で、鍵や扉、家畜、港を司る神ポルトゥヌスを祀っていました。かつて好古家から間違ってフォルトゥナ・ウィリリス神殿と名付けられたため、現在でも、しばしば誤った名前で呼ばれるケースがあります。
ポルトゥヌス神殿の建つ場所はティベレ川を見下ろせる位置にあり、かつては家畜を乗せた艀(はしけ)が港に入っていく様子が見えたといわれ、家畜や港の神様にはぴったりの場所だったといえるでしょう。教会として使用されていたため、他の遺跡に比べると保存状態も良好で、イオニア様式の建築として高い評価を得ています。
トルコにある古代ローマを感じられるスポット
イタリア半島からは離れた位置にあるトルコですが、かつてはローマの版図に入っていた時期もあり、現在もトルコ国内には古代ローマ時代の遺跡が多く残されています。トルコにある古代ローマを感じられるスポットをみていきましょう。
エフェソス遺跡
トルコ西部にある古代遺跡で、2015年には世界遺産にも登録されました。古代ギリシャ時代から存在している都市で、B.C.2世紀頃にローマの支配下に入ると、1世紀頃には人口25万人を誇り、ローマに次ぐ第2の都市として最盛期を迎えます。
クレオパトラや聖母マリアもかつてエフェソスを訪れたといわれ、世界七不思議の1つであるアルテミス神殿やエフェソス公会議が開催された街としても有名です。現在も、競技場や大通り、劇場、図書館、大衆浴場など、ローマ時代の生活を感じられる数多くの遺跡が残されています。
トロイ遺跡
「トロイの木馬」で有名なトロイア戦争の舞台になったトルコ北西部の遺跡で、1998年には世界遺産にも登録されています。トロイアは長い間、神話上の存在と思われており、1871年にドイツの考古学者シュリーマンによる発掘でようやく実在が確認されました。
ローマ神話に登場する建国の祖アエネーアースも、もとはトロイアの英雄で、古代ローマとも非常に関係の深い場所です。トロイ遺跡は青銅器時代からローマ時代までの9層の遺構に分かれており、トロイア戦争の時代とされる第7層からは戦争による破壊の痕跡も見つかっています。
トロイ遺跡は歴史ロマンあふれるトルコの世界遺産!観光のポイントは?
アフロディシアス遺跡
トルコ南西部ゲイレ村付近にある遺跡で、2017年には世界遺産にもなっています。都市自体はローマ時代よりも古いB.C.3~2世紀頃に築かれており、大理石の産出によって栄え、彫刻やレリーフなどの文化を発展させました。
都市名の由来は、ギリシャ神話の美と愛の女神アフロディーテーから。B.C.1世紀頃、ローマの将軍スッラが神託に従って斧と金の冠を奉納したのがきっかけで、アフロディシアスと呼ばれるようになったといわれます。アフロディーテ信仰の街として、現在も神殿や劇場、アゴラ(広場)、浴場などギリシャ、ローマ時代の遺構が多く残されています。
世界有数の古代遺跡アフロディシアス|美神アフロディーテ由来の町
パムッカレ・ヒエラポリス遺跡
トルコ西部のパムッカレは、雪のように真っ白な石灰棚に温泉が湧き出す幻想的な光景が広がる観光スポットです。パムッカレはトルコ語で「綿の宮殿」を意味し、古くから綿花の生産地としても栄えました。
ローマ時代から温泉保養地と知られ、石灰丘の上に築かれた都市ヒエラポリスには1度に1000人が入れる大浴場や円形劇場など、かつて多くのローマ人を楽しませたさまざまなスポットが残っています。
なかでも人気なのが、現代でも入れる貴重な古代ローマ時代の温泉プール。水底にはローマ時代の遺跡が沈み、かつてはクレオパトラも泳いだといわれるアンティークプールです。現地を訪れた際はぜひ一度、体験してみてください。
パムッカレ-ヒエラポリスはがっかり世界遺産じゃない!観光の見どころ解説
ペルガモン遺跡
トルコ西部のエーゲ海付近にあるペルガモンは、古代ギリシャ時代から発展してきた都市で、B.C.129年にローマがアジア属州を作ると、属州の中心都市となって繁栄しました。政治だけでなく、文化や科学の中心地にもなり、文書を残すのに欠かせない羊皮紙発祥の地といわれるのもペルガモンです。
世界遺産ペルガモン(ベルガマ)の古代遺跡とは?トルコの人気観光スポット紹介
街には古代ギリシャからローマ、後継となった東ローマ(ビザンツ)帝国時代の遺跡が残されており、ローマの五賢帝の一人であるトラヤヌス帝に捧げたトラヤヌス神殿のほか、図書館や円形劇場などが見学できます。
ギリシャ神話とあわせてローマ神話にも触れてみて
ギリシャ神話に比べると、日本では馴染みが薄く、知名度の低いローマ神話ですが、実際に触れてみると、ローマオリジナルの神様や英雄、エピソードなど、ギリシャ神話とは一味違う魅力をもっています。
ギリシャ神話と対応している神もたくさんいるため、ギリシャ神話を知っている人なら、親しみやすいかもしれませんし、2つの神話の違う部分を比べてみるのも面白いでしょう。神話に興味のある方は、ぜひギリシャ神話と一緒にローマ神話にも触れてみてください。
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