タレスはトルコ(ミレトス)出身の哲学者。数学の定理、あの名言も!
更新日:2023.04.05
投稿日:2022.07.29
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タレスという哲学者の名前を聞いたことはありますか?古代ギリシアの哲学者のひとりで、世界最古の哲学者ともいわれますが、ソクラテス、プラトン、アリストテレス、といった有名どころがいるために、知名度はいまひとつかもしれません。しかし、タレスの残した功績を私たちは義務教育で学習していますし、タレスの名言の数々は現代にも通じるものがあり、多くの人に親しまれています。
そんなタレスが生まれたのは、現在のトルコのミレトスです。ミレトスはギリシア哲学の先駆的な地域でもありました。そんなミレトスに生まれたタレスの足跡をたどり、どのような功績や名言を残したのか解説します。
タレスとはどんな人?
哲学者、タレスとはどんな人物なのでしょうか。実はタレス自身が残した著作や記録はありません。タレスの思想や逸話は古代ギリシアの歴史家、ヘロドトスの『歴史』やアリストテレスの『形而上学』などで語られているものが現代まで語り継がれています。
タレスは「世界最初の哲学者」と言われていますが、それはアリストテレスの『形而上学』で「タレスが哲学の創始者」と紹介されているためです。
タレスの人物像
哲学者として数々の名言を残したタレスの人物像に迫ってみましょう。
トルコにあった都市ミレトス生まれ
タレスは紀元前624年ごろ、西部アナトリアの都市ミレトスで、フェニキア人の名門一家に生まれました。
アナトリアは西アジアの西端に位置する半島で「小アジア」とも呼ばれる地域で、ミレトスは現在のトルコ・アイドゥン県に属します。ギリシア・アテネからも近く、交流も盛んに行われている都市国家でした。
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ミレトス学派の創始者で「哲学の祖」
古代ギリシアの哲学者というと「無知の知」を唱えたソクラテスが有名ですが、タレスはソクラテスよりも前に存在した哲学者で、アナクシマンドロス、アナクシメネスと並んで「ミレトス三哲人」と呼ばれます。タレスは万物の根源を追求する自然哲学の学派「ミレトス学派」の創始者です。
同じく古代ギリシアの哲学者で「万学の祖」と呼ばれるアリストテレスはタレスを「哲学の祖」と呼びました。アリストテレスは、著作『形而上学』のなかで、タレスが万物の根源として「水」を提唱していることを紹介しています。
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ギリシア七賢人のひとり
紀元前7~前6世紀に古代ギリシアで模範的人物とされた7人の哲学者や政治家を「ギリシア七賢人」と呼びます。その七賢人はミレトスのタレス、アテナイのソロン、スパルタのキロン、プリエネのビアス、リンドスのクレオブロス、ミュティレネのピッタコス、ケナイのミュソンの7人。
七賢人に選ばれる人は書物によって異なります。五賢人であったり、7人以上が選ばれたりする書物もありますが「哲学の祖」であるタレスの名は必ず挙がります。
タレスのエピソード
哲学者といえば、天才、変人、個性的など、さまざまなイメージがありますが、タレスにも数々のユニークなエピソードが残っています。
天体観測に夢中で井戸に落ちる
天文学を使って紀元前585年5月28日の日食を予測したことで知られるタレスですが、プラトンの著作『テアイテトス』では「天体観測に夢中で井戸に落ちた」という逸話が描かれています。
天体観測に同行していた女性は「足元さえしっかり見えていないのに、はるか彼方にある星について知ることができるのですか」とタレスに伝えたといいます。学者としての探究心が垣間見えるとともに、タレスの人間味もうかがえるエピソードです。
オリーブの豊作を予想し大もうけ
タレスは名門の生まれでしたが、自然哲学に注力するようになってからは貧しい生活を送っていました。彼の暮らしぶりを見て、「哲学なんてものは役に立たない」と蔑む市民がいたため、タレスは天文知識を生かしてオリーブの一番いい収穫時期と翌年の豊作を予測します。
予測は的中して大もうけしましたが、彼は利益に固執しませんでした。「知識を役立てて利益を得ることはできるが、そのような俗世間的なことには興味がない」というタレスの信念のようなものが感じられる逸話です。
スポーツ好きで観戦中に熱中症で死亡
タレスは紀元前546年ごろに亡くなりましたが、原因はスポーツ観戦中の熱中症であったと言われています。哲学の祖、ギリシア七賢人と呼ばれたタレスも、最期は自分の好きなことをしている最中だったところに、人間らしさを感じます。
タレスが残した偉大な功績
哲学者タレスは「万物の根源は水である」と唱えたことで知られており、ギリシア哲学の源流ともいえる存在です。タレスは哲学者としてだけでなく、多くの人が学校で習った有名な数学の定理を説くなど偉大な功績を数多く残しています。
タレスの多彩で偉大な功績
古代ギリシアの平均寿命は、女性35歳、男性で44歳だという説がありますが、タレスは78歳で生涯を終えました。平均寿命より2倍近く生きたタレスは、その生涯を通して多彩で偉大な功績をあげました。
功績の数々の中から、有名なものを4つ紹介します。
幾何学の「タレスの定理」は中学校の教科書で有名
中学の数学の授業で習った“直径に対する円周角は直角である”という有名な「タレスの定理」は、タレスが約2,500年前に説いたものです。ただし、定理そのものを発見したのではなく、エジプトやバビロニアなどを巡っているなかで出合った定理をタレスが証明したようです。
タレスは図形や空間の性質について研究する幾何学に興味を持っており、“二等辺三角形の底角は等しい” “2本の直線が交わってできる対頂角は等しい”という定理などを証明で追究したといわれています。
「万物の根源は水」と提唱
タレスは自然哲学を研究しました。「神話的世界観を排して、自然の世界は神々の恣意的な働きに左右されるものではなく、それ自体で確固とした秩序をそなえた存在であり、また、その秩序は人間の観察と思考によってとらえられる」と考えたのです。
そこで提唱されたのが万物の根源を意味する「アルケー」。タレスは、すべてのものは水を根源にして生まれていると唱えました。果てのない海や植物の育つ姿を見て提唱したそうです。一方、「火も水から生まれるのか?」との反論もあったようです。
その後もアルケーは何であるかの議論は続き、「空気」「原子」「数」など、さまざまなものが「万物の根源である」と提唱されてきました。議論に終止符は打たれていませんが、タレスの功績は「万物の根源は何か」という命題を生み出したところにあるのかもしれません。
ピラミッドの高さを世界で初めて算出
タレスは世界で初めてピラミッドの高さを算出した人物でもあります。晴れた日にピラミッドの近くに立ったタレスは、ピラミッドの影の長さからその高さも導き出せることに気が付きました。
自分の影の長さと身長が同じになる時刻には、ピラミッドの影と高さも同じ長さになります。この時刻にピラミッドが作り出す影の長さを測定し、自身の身長との比率から高さを計算することに成功しました。
日食の日時を予測
古代ギリシアの歴史家、ヘロドトスの著作『歴史』では、タレスが日食を予測したことが紹介されています。
当時、小アジアではリディアとメディアが争いを繰り返していましたが、タレスの日食の予言が当たったことにより、両軍が和平を急ぐことになったという趣旨のことが書かれています。紀元前585年5月28日は皆既日食だったため、太陽が闇に飲まれていく様子は、神学的な世界観をもつ人々に大きな恐怖を与えたためでしょう。
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聞いたことがあるかも?タレスの名言5選
いにしえの哲学者が残した言葉は、格言として現代に生きる私たちにも「生き方のヒント」を与えてくれます。タレスが残した言葉はたくさんありますが、その中から5つを紹介します。
●A multitude of words is no proof of a prudent mind.
(言葉が多いのは、才気の徴にはならない)
●The most difficult thing is to know yourself.
(最も困難なことは自分自身を知ることである)
●All things are full of gods.
(万物は神々に満ちている)
●Avoid doing what you would blame others for doing.
(他人のせいにするようなことは避けよ)
●Time is the wisest of all things that are; for it brings everything to light.
(時間はすべてのものの中で最も賢明なものである。それは、すべてを明るみに出すからである)
タレスの出身地、ミレトスとは
ミレトスはヨーロッパとアジアをつなぐ重要な拠点として、東西からさまざまな文明の影響を受けてきました。湾の一部が埋まってしまったため、現在残っている遺跡は海岸より10キロメートルほど内陸側にありますが、かつては港町として栄えていました。
ミレトスはイオニア地方の政治・文化の中心都市
ミレトスはイオニア地方の政治・文化の中心都市でした。東地中海エリアのギリシア人ポリスのなかでも規模が大きく動きも活発でした。ミトレスは現在、トルコに属しており、小アジア最大級の古代劇場や典型的なローマ浴場などの遺跡を見ることができます。
ミレトスの場所
ミレトスはアナトリア半島の西海岸にあり、現在はトルコのアイドゥン県に属します。エーゲ海をはさんでギリシア本土の対岸に位置しており、当時の代表的なポリスであったアテネからも近く、交流も盛んに行われていました。観光で訪れる場合は、トルコ西部のリゾート地・クシャダスから車で1時間ほど南下してアクセスする方法がおすすめです。
ミレトスの成り立ち~オスマン帝国の支配
ヘロドトスによると紀元前11世紀、ミレトスはイオニア人のネレウスの指揮のもと、先住者であるカリア人を駆逐して建設されたとされています。その後、タレスの活躍した紀元前6世紀頃には、人口が6万~7万人に達する繁栄を見せました。
しかし、紀元前4世紀のイオニアの反乱、ペルシア戦争によってミレトスは壊滅的な被害を受けました。その後、アレキサンドロス大王による解放、セルジューク朝トルコによる征服を経て、1299年に建国したオスマン帝国の支配下となりました。
オスマン帝国の初期においてはミレトスの港は使われていましたが、土砂の堆積が進んだことで港の機能は徐々に失われて、ミレトスは衰退の一途をたどりました。
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ミレトスの荒廃~現在は遺跡に
ミレトスには港の機能が失われてからも人々が暮らしていましたが、20世紀中頃に発生した大地震をきっかけに放棄されました。こうしてミレトスは一度は無人になってしまいました。その後、発掘調査が進められ、貴重な遺跡が残る観光地として再び人々が訪れるようになりました。
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輩出された賢人たち
イオニア地方の政治・文化の中心都市であったミレトス出身の賢人は、タレスだけではありません。ソクラテスの影響を受けていない「ソクラテス以前の哲学者」として知られる賢人がミレトスから輩出されました。
ミレトス学派、イオニア学派とは
ミレトス学派とは、「万物の根源」を究明しようとする自然哲学の学派です。タレスによって生み出された「アルケー(万物の根源)」という思想は、アナクシマンドロスとアナクシメネスによって引き継がれました。
イオニア学派とは、初期の自然哲学者であるミレトス学派の「ミレトス三哲人」 に、エフェソスのヘラクレイトス、クラゾメナイのアナクサゴラスをはじめとする、後の哲学者を加えた学派です。
タレス以外のミレトス学派、アナクシマンドロスとアネクシメネス
ミレトス三哲人とは、ミトレス学派の創始者であるタレス、タレスの弟子のアナクシマンドロス、アナクシマンドロスの弟子のアナクシメネスの3人の哲学者を指します。アナクシマンドロスは「不生不滅で永遠に運動する『無限(アペイロン)』」、アナクシメネスは「空気」が万物の根源であると提唱しました。
アナクシマンドロスとは?哲学者タレスの後継者の生涯と思想の特徴
イオニア学派の代表格、ヘラクレイトス、アナクサゴラス
イオニア学派の代表格としては、エフェソスのヘラクレイトス、クラゾメナイのアナクサゴラスが挙げられます。エフェソスとクラゾメナイは、ともにイオニア同盟に参加している都市です。ヘラクレイトスは「火」、アナクサゴラスは「スペルマタ(種子)」が万物の根源であると提唱しました。
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学派以外に地理学の父、ヘカタイオスとカドモス
ヘカタイオスとカドモスは、タレスと同時期にミレトスに住んでいた地理学者です。ヘカタイオスはイオニア散文作家として活動したのち、地理学的な視点で世界を描くことをはじめました。諸説あるものの、ヘカタイオスの『ペリエゲーシス』はギリシア最古の地理書だと言われています。
設計者のヒッポダモス
設計者のヒッポダモスは、紀元前5世紀ごろに活動した設計者です。機能性を重視して街を区画ごとに整備する都市計画は「ヒッポダモス方式」と呼ばれ、プリエネやアレクサンドリアなど他の都市でも採用されました。現在残っているミレトス遺跡も、ヒッポダモス方式で作られており、碁盤の目状の街路が特徴です。
アテネの政治家ペリクレスの愛人アスパシア
アスパシアはミレトス出身の女性で、アテネの政治家ペリクレスの愛人だったと言われています。ソクラテスをはじめとする哲学者との交流も多かった人物で、プラトンの対話篇のひとつである『メネクセノス』では、アスパシアに関する記述も見られます。
ミレトス遺跡の見どころ
ミレトスには紀元前の古代ギリシアに関する遺跡だけでなく、ローマ帝国時代の浴場、セルジューク朝のモスクをはじめ、さまざまな時代の遺跡が残っています。ほかにも、ミレトス博物館、劇場跡、アポロ神殿、市場の門など、見どころ満載です。
ミレトス遺跡を訪れる場合はトルコ西部のリゾート地・クシャダスを拠点に、プリエネ遺跡、ディディム遺跡とあわせて観光するのがおすすめです。バスツアーであれば、ミレトス、プリエネ、ディディムを1日で観光することができます。
タレスの故郷、トルコをぜひ訪ねてみよう
ソクラテス、プラトンへと続くギリシア哲学の源流は、トルコのミレトスにあります。ミレトスは、さまざまな偉人を輩出したイオニア地方随一のポリスで、当時の文化や生活を感じられる遺跡が数多く残っています。「万物の根源」という概念を生み出した哲学の祖・タレスの故郷であるミレトスをぜひ訪ねてみてください。
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