トロイア戦争とは?古代ギリシャの叙事詩で語られる出来事は史実だったのか?
更新日:2023.04.05
投稿日:2022.08.31
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トロイア戦争は古代ギリシャの叙事詩で語られています。代表的な作品として、ホメロス作の英雄アキレウスを主人公とした『イーリアス』がありますが、その他の叙事詩も興味深いものです。この記事では、トロイア戦争の詳細について発生から終結まで叙事詩ごとに紹介します。
Contents
トロイア戦争とは?
時期 | 紀元前1260年~紀元前1180年ごろ |
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場所 | トロイア王国(現在のトルコ北西部・ダーダネルス海峡の南周辺) |
内容 | ギリシャ王国連合とトロイア王国による10年に渡る戦争 |
勝敗 | ギリシャ軍の勝利 |
トロイア戦争とは、ミケーネ国やスパルタ国などのギリシャ連合軍が現在のトルコにあったトロイア王国に攻め込んだ戦争です。人口を減らすために、全知全能のゼウスが計画した戦争と言われています。最強の英雄アキレウスをはじめとする多くのギリシャの英雄たちが戦争に加わり、また、オリンポスの神々がギリシャ軍とトロイア軍に分かれて参戦しました。ギリシャ連合軍によるトロイア王国の包囲は9年間続きましたが、ギリシャ軍の知将であるオデュッセウスが考案したトロイの木馬作戦により、トロイア軍は滅亡し、ギリシャ軍の勝利で幕を閉じたという物語です。
トロイア戦争の大まかなあらすじを確認
- オリンポスの最高神ゼウスが、増えすぎた人口を減らすために戦争を起こすことを考える
- 戦争で活躍させる英雄としてアキレウスが生み出され、トロイア王子パリスが戦争の元凶として選ばれる
- スパルタ王メネラーオスの妃であり絶世の美女と言われたヘレネーがトロイアの王子パリスに好意を抱くようにゼウスが仕向け、パリスがヘレネーを自国へ連れ帰る。
- 妻を奪われ憤慨したメネラーオス王は、兄であるミケーネ王国のアガメムノーンに詳細を告げ、オデュッセウスの誓いの元にギリシャ連合軍を結成。その連合軍と一緒にメネラーオスはトロイア王国に攻め込む。
- トロイア戦争によって、ギリシャ軍のアキレウスやトロイア軍のヘクトールなど、双方で戦死者が出る。しかし、トロイア戦争は9年間に渡る膠着状態となる。
- ギリシャ軍の知将オデュッセウスによるトロイの木馬作戦によりトロイア城壁を攻略し、ギリシャ軍の勝利で戦争が終結する。
トロイア戦争は実話?いつ頃に起きた戦争?
トロイア戦争は、古代に創作されたギリシャ神話であると長い間考えられていました。しかし、1871年に考古学者のシュリーマンによってトロイ遺跡が発見され、紀元前1300~950年の層では大火災や戦争による虐殺の痕跡が出土したのです。これによって、全く架空の物語ではないという可能性が浮上し、ある程度事実であると考えられるようになりました。
その後、トロイ遺跡の考古学的研究によってトロイア王国と思われる都市が紀元前1300年~1190年ごろに存在したことが明らかになります。現在では、トロイア戦争は紀元前1260年~紀元前1180年頃に実際に起きたであろうと考えられているのです。
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トロイア戦争が舞台の映画『TROY(トロイ)』
2004年に公開されたハリウッド映画「TROY(トロイ)」は、トロイア戦争を題材としています。主人公のアキレス役にブラッド・ピット、トロイの王子パリス役にオーランド・ブルーム、パリスの兄のヘクトール役にエリック・バナといった豪華なキャストが出演しています。スター俳優の共演と、迫力のあるシーンの連続で誰もが楽しめるエンターテイメント作品は、興行収入約5億9千万ドルという大ヒットとなりました。
映画の内容は、古代ギリシャ叙事詩で書かれたものとは異なる部分が多いですが、トロイア戦争が気になるという人はこの映画を鑑賞してみることをおすすめします。トロイア戦争の大まかな全貌を楽しみながら理解できるでしょう。
トロイア戦争は複数の叙事詩で語られている?
実はトロイア戦争は一つの作品で書かれているわけではありません。また、作者や時期も異なる複数の叙事詩によって語られているのです。
『キュプリア』では、トロイア戦争の発端と最初の9年間、ホメロスの長編叙事詩『イーリアス』でトロイア戦争の前半部分が語られています。そして『アイティオピス』、『小イーリアス』、『イリオスの陥落』でトロイア戦争終結までが書かれています。最後に『ノストイ』、『オデュッセイア』、『テレゴネイア』では、英雄たちがギリシャへ帰還する物語となっています。なお、オデュッセイアもホメロスの作品と言われています。
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イーリアスとオデュッセイアは現存していますが、その他の叙事詩はいずれも断片的な文章しか残っていません。断片を元に後の作家によって物語が付け加えられ、書かれたと言われています。また、多くの叙事詩で作者が不明となっているため、各叙事詩の作者は推定とされています。
叙事詩キュプリアで語られるトロイア戦争の原因
『キュプリア』はトロイア戦争を描いた叙事詩の中で最も早い時期を描いており、ストーリーの流れとしては、『イーリアス』の前作に該当します。しかし、作成されたのは明らかにイーリアスの方が先です。全11巻とされていますが、現状としてはわずかに断片が残っているだけです。
ゼウスの策略
地球上に人間が増えすぎたため大地の負担を減らすことを考え、オリンポスの最高神ゼウスは秩序の神テミスに相談し、大きな戦争を起こして人口を減らすことを計画しました。また、勇猛な人間であるペーレウスとティターン族の女神ティティスを結婚させ、その子供を戦争に参加させることで、敵軍の多くの兵士を倒して人口を減らすことをスムーズに達成できると考えました。その子供こそがギリシャの英雄アキレウスだったのです。
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パリスの審判
ペーレウスとティティスの結婚式が開かれて全ての神々が招待されました。しかし、争いの神エリスだけは中に入ることができませんでした。そこでエリスは「最も美しい女神へ」と書かれた黄金のリンゴを会場に投げ入れました。それを見たヘーラー、アテーナー、アフロディーテの3女神たちが、それぞれ黄金のリンゴは自分宛であると主張しました。
最も美しい女神を決定する方法として、ヘーラー、アテーナー、アフロディーテの3人の女神をトロイア王国の王子パリスの前に連れて行き、パリスに誰が一番美しいかを審判させることになりました。自分を選んでくれれば見返りとして、アテーナーは強い力と知識、ヘーラーは優れた政治力とアナトリアの統治、アフロディーテは絶世の美女ヘレネーの愛を与えることをパリスに提案しました。その提案を受け、パリスはアフロディーテを選んだのです。
パリスはアフロディーテの指示で船を建造しスパルタ国へ向かいました。しかし、絶世の美女ヘレネーはスパルタ王メネラーオスの妻でした。王の不在時にアフロディーテの力によってパリスとヘレネーが結び合わされ、パリスはヘレネーと一緒にスパルタの財宝を持ってトロイアに戻ったのです。
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トロイア遠征の決意
妻を奪われたメネラーオス王は、兄でありミケーネ王国の王であるアガメムノーンに相談し、アカイア人(ギリシャ人)の連合軍を組織してトロイアに攻め入ることを決心しました。アカイア人の遠征軍は、武力に優れているアガメムノーンが総大将となり、ヘレネーを奪われたメネラーオスが副大将となりました。
約1,200隻の大艦隊を編成し、約10万人のアカイア人がこの遠征に参加しました。最初の遠征ではトロイア王国の東にあるテウトラースという都市を間違えて攻撃してしまい、また嵐によって艦隊が離散をしてしまったため体制を整える必要がありました。
トロイア戦争の開始と9年に渡る膠着状態
再びギリシャ各国の王子たちが軍勢を引き連れて港町アウリスに集結しました。大艦隊はエーゲ海を渡り、トロイア王国近くの浜辺に上陸したのです。最初に到着したギリシャの武将プローテシラーオスは、トロイア軍の総大将ヘクトールとの一騎打ちにより倒されてしまい、最初の上陸は失敗に終わりました。しかし、その後の戦闘でギリシャ軍の英雄アキレウスがトロイア軍の武将キュクロスを倒し、トロイア兵を城内に撤退させることに成功したのです。
そしてヘレネーの返還を求めギリシャ軍は使者を送りましたが、拒否されたためトロイア城に対して攻撃を行いました。数で勝るギリシャ軍でしたがトロイア王国の城壁を打ち破ることができず、戦争は長期化しました。アキレウスがトロイア近郊の街を襲撃し、トロイアの王子の一人であるトローイロスを討ち取りましたが、両国お互いに決め手がなく、膠着状態は9年間も続いたのです。
ホメロスの長編叙事詩イーリアスで語られるアキレウスの活躍
全24巻から成るホメロスのイーリアスでは、トロイア戦争10年目に起きたアキレウスの怒りから、ギリシャ神話の英雄ヘクトールの葬儀までが描かれており、ギリシャ叙事詩の中でも最高傑作とされています。
英雄アキレウスの怒りと離脱
ギリシャ軍総大将のアガメムノーンは、クリューセーイスという女性に好意を抱き捕虜として自分の側に置いていました。太陽神アポローンの神官であり、クリューセーイスの父親の神官クリュセスから娘を返してほしいと懇願をされましたが、アガメムノーンはけんもほろろにこれを断ります。
悲観した神官クリュセスは太陽神アポローンに祈り、アポローンの力によりギリシャ軍に疫病を蔓延させたのです。そのためアキレスや他の武将から、アポローンの怒りを鎮めるために神官クリュセスに娘を返すべきであると、アガメムノーンに進言がありました。アガメムノーンはクリューセーイスをしぶしぶ返すという約束をしますが、代わりにアキレウスが捕虜としていたブリーセーイスという女性を自分がもらうと言いました。そしてアキレウスは強引にブリーセーイスをアガメムノーンに奪われてしまうのです。
アキレウスはアガメムノーンのこの行動に激怒し、戦場に出ることをやめてしまいました。さらに母親のティティスに祈り、ゼウスの力でギリシャ勢を追い詰めさせることを強く願ったのです。そこでゼウスは、アガメムノーンに夢の中で、今すぐに総攻撃をすればギリシャ軍は勝てると嘘の助言を与えたのでした。
因縁の2人の一騎打ち
ゼウスが与えた夢から目覚めたアガメムノーンは、トロイア軍への総攻撃を決意しました。アキレウスを除くギリシャの将軍たちと全兵士が陣形を整え、迎え撃つトロイア軍も攻撃準備を行い、両軍が激突しようとしていました。そこでトロイアの王子パリスは軍の先頭に立ち、自分と一騎打ちを行うようにギリシャ軍に挑発しました。妻を奪われ恨んでいたメネラーオスが喜んで挑発に乗り、一騎打ちの名乗りをあげます。
メネラーオスの姿を見たパリスは怖気づきましたが、兄のヘクトールに叱咤され、一騎打ちに臨みました。実力で勝るメネラーオスがパリスにとどめを刺そうとしますが、アフロディーテが濃霧を発生させ、パリスは城内に逃げ帰りました。この状況から一騎打ちはメネラーオスの勝利で決着を迎えようとしていました。しかし、ゼウスに惑わされたトロイアの武将がメネラーオスに弓を放ち、メネラーオスを負傷させたのです。これをきっかけに一騎打ちの決着はつかずに、両軍の戦闘が開始しました。
アキレウスの親友パトロクロスの死
副大将のメネラーオスが負傷し、勇猛なアキレウスが戦闘に参加していないギリシャ軍は、トロイア軍の勢いに押されて陣地の中まで攻め込まれてしまいました。この状況を見てアキレウスの親友パトロクロスが、アキレウスに出陣の説得を強く行いましたが、アキレウスは断りました。そこでパトロクロスはアキレウスの武具を借りて、ギリシャ軍を救うために出撃を決意したのです。
アキレウスの武具を見たギリシャ兵は、アキレウスが出陣したと勘違いし、士気を高めました。この出撃によってパトロクロスは大活躍し、トロイア兵を城壁まで後退させることに成功したのです。しかし、力を使い果たしたパトロクロスはヘクトールによって討ち取られ、アキレウスの武具を奪われてしまいました。
アキレウスの出陣とヘクトールの死
親友パトロクロスの死を知ったアキレウスは深く悲しみ、ヘクトールへ復讐することを決意し、出陣します。アキレウスは母ティティスから、炎と鍛冶の神であるヘーパイストスに作ってもらった新しい鎧を身に付けて戦場に向かったのです。
アキレウスの姿を見て、ほとんどのトロイア兵は城壁の中に撤退しましたが、ヘクトールがアキレウスの前に立ちはだかりました。戦と知恵の神アテーナーがヘクトールの弟デーイポボスに姿を変え、ヘクトールの前に現れたのです。アテーナーが変身した弟から、一緒にアキレス戦うことを提案されたヘクトールは、城門の中に入らず、アキレウスを撃つことを決めました。しかし、アキレウスが戦いに現れた時、デーイポボスは姿を消していました。
結果的に1対1で決闘を行うことになってしまいましたが、ヘクトールはパトロクロスから奪ったアキレウスの鎧を着て戦いに挑みます。しかし、自分の防具の弱点を知っているアキレウスに、その弱点である首元を攻撃され討ち取られてしまったのです。
親友パトクロスの復讐を成し遂げたアキレウスは、パトロクロスの魂を慰めるために競技大会を開きました。そして、ヘクトールの亡骸は鎧を取られ戦車に結ばれ、アキレウスによって引きずり回されたのです。ヘクトールの父プリアモス王はこれを嘆き悲しみ、深夜にアキレウスの元を訪れて息子の亡骸を返して欲しいと懇願しました。父親の思いに心打たれたアキレウスは遺体を返すことを決めたのです。ヘクトールの遺体はアポローンとアフロディーテの加護を受けていたため傷もない状態でプリアモス王に引き渡され、手厚く葬られました。そして、パトロクロスとヘクトールの死を弔うために11日間の休戦協定が結ばれたのです。
叙事詩アイティオピスで語られるアキレウスの死
イーリアスの直後の話となる、叙事詩アイティオピスの作者はミレトスのアルクティノスと言われています。
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全5巻からなるアイティオピスですが、わずかに断片が残っているだけです。物語はヘクトールの葬儀直後から始まります。
休戦期間が終了し、アマゾネスの女王ペンテシレイアがトロイア軍に援軍としてやってきましたが、アキレウスが出撃しペンテシレイアを倒しました。アキレウスは殺してしまった後に、ペンテレシアの美しさを見て嘆き悲しんだのです。そして、その姿を見て笑ったギリシャ兵テルシーテースを殺してしまいます。
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次にプリアモス王の義兄弟であるメムノーンが、エチオピア軍を率いてトロイア軍に加勢しました。そして、メムノーンは戦闘の中でアキレウスの友人であるアンティロコスを殺害したのです。怒ったアキレウスはメノムーンを討ち取り、アンティロコスの復讐を果たしましたが、怒りが収まらず冷静さを欠いたアキレウスはトロイア城門前まで敵を深追いしてしまいます。
そして、スカイアイ門でアポローンの力を借りたトロイア王子パリスが放った毒矢がアキレウスの足首に当たり、その傷が原因でアキレウスは絶命してしまったのです。アキレウスの遺体は双方で奪い合いになりましたが、最終的にギリシャ側のオデュッセウスと大アイアスが回収しました。
その後、アキレスの母であるティティスが姉妹たちとやって来て、アキレスの死を嘆き悲しみ、アキレウスを称える葬式の競技が催されました。勝者には賞品としてアキレウスの武具が与えられることになったのです。それを巡り大アイアスとオデュッセウスの間で確執が広がります。アイティオピスの物語はここで終わり、小イーリアスへと続くのです。
叙事詩『小イーリアス』で語られるトロイア陥落の預言とトロイアの木馬
叙事詩『小イーリアス』は、『アイティオピス』直後の物語です。作者にはピュラーのレスケース他、さまざまな人物の名前が挙がっており、確かではありません。また、全4巻で描かれていますが、わずかに断片が残っているだけです。
アキレウスの葬式としての競技大会が開催されて、競技大会の勝者はアキレウスの武具を与えられることになりました。大アイアスとオデュッセウスが競い、勝利したのはアテーナーの助けを得たオデュッセウスです。オデュッセウスはアキレウスの武具を手に入れました。そして、アキレウスの後継者は自分だと信じていた大アイアスは、負けた怒りにより正気を失ってしまい、我に返った時に自分の剣に身を投げて自殺をしてしまうのです。
トロイア陥落にはヘラクレスの弓が必要という預言を聞いたオデュッセウスは、1回目の遠征時に負傷離脱してレムノス島にいたピロクテーテースを迎えに行きました。島に残されてしまったピロクテーテースはオデュッセウスを恨んでいましたが、説得の結果ヘラクレスの弓と共にギリシャ陣営に連れてくることに成功したのです。
弓の名手であるピロクテーテースは早速出陣をすると、一騎打ちの戦いでパリスを弓で射って討ち取ります。パリスの死後、妻のヘレネーは、パリスの兄弟であるデーイポボスと結婚しました。
トロイア陥落のためには、アキレウスの息子のネオプトレモスの参戦が必要という神託が下されます。そこでオデュッセウスがネオプトレモスを迎えに行き、競技大会で勝利して所持していたアキレウスの武具を譲り渡しました。そして、ネオプトレモスはギリシャ軍に参加することになったのです。また、トロイアの預言者ヘレノスが、アテーナーの木像がトロイアにある限りトロイアは陥落しないと預言をしていました。これを打ち破るためにオデュッセウスはディオメデスと共にトロイアに侵入し、アテーナーの木像を盗みだすことに成功したのです。
オデュッセウスは、堅牢な城壁に守られているトロイア王国を陥落させる切り札として、木馬の内部にギリシャ兵が隠れてトロイア城内に侵入する作戦を考え出します。そして、アテーナーの助言を得て工作が得意な武将エペイオスが木馬を建造し、完成した巨大な木馬の中にギリシャ軍の精鋭たちが入り込んだのです。その木馬を残してギリシャ軍は野営地を焼き払い近くのテネドス島に身を潜めました。トロイア軍はギリシャ軍が帰国したものと思い、木馬を市中に入れて勝利を祝い合います。
叙事詩『イリオスの陥落』で語られるトロイア戦争の結末
イリオスの陥落は、小イーリアス直後の物語です。作者は『アイティオピス』の作者ミレトスのアルクティノスと言われています。全2巻から成るとされていますが、わずかに断片が残っているだけです。
野営地からギリシャ兵が姿を消している状況から、トロイア軍はギリシャ兵が撤退をしたことを喜び合っていました。しかし、残されていた木馬をどうするか議論が起こり、トロイアの神官ラオコーンと王女カッサンドラは内部にギリシャ兵が潜んでいるに違いないと訴えました。しかし、他の大勢の兵士は木馬を聖なる遺物と言い、アテーナー神殿へ捧げるべきであると主張したのです。
神官ラオコーンを封じ込めるために海と地震の神ポセイドンが2匹の毒蛇を放ち、ラオコーンと2人の子供たちは、このヘビに咬まれて死んでしまいます。神の怒りを恐れて木馬を破壊しようとするものはいなくなり、トロイア兵たちは木馬を城内に引き入れて勝利を祝う宴会を行いました。宴は終わり兵士たちが眠りについた深夜、木馬から隠れていたギリシャ兵たちが出てきて門番を倒し城門を開け放ったのです。
そしてテネドス島から戻ってきた大勢のギリシャ兵がトロイア城内に入り、街に火を放ちトロイア人たちを倒しました。トロイア王プリアモスはゼウスの祭壇に避難するものの、アキレウスの息子ネオプトレモスによって殺されます。また、プリアモス王の娘ポリュクセネーはアキレウスの怒りを抑えるためギリシャ軍によって、アキレウスの墓前で生贄にされたのです。そして、メネラーオスはヘレネーの夫となっていたデーイポボスを殺し、ヘレネーを奪い返すことに成功しました。
一晩の内にトロイア城と街は焼き尽くされ、ゼウスの思惑通り多くの人間が亡くなり、トロイア戦争はギリシャ軍の勝利で幕を閉じることになったのでした。
トロイア戦争で活躍する英雄たち
トロイア戦争では多くの英雄たちが登場し、活躍しています。ここでは、トロイア戦争で活躍した主要人物を簡潔に紹介します。
ギリシャ最強の英雄アキレウス
アキレウスは、ペーレウスとティティスの息子です。ホメロスの長編叙事詩『イーリアス』では、ギリシャ軍のアキレウスが主人公として書かれています。アキレウスは武力が強く俊足で、トロイア軍の総大将ヘクトールや多くの武将たちを討ち取り活躍しました。しかし、ヘクトールの弟パリスが放った毒矢が、唯一の弱点である足首に命中して亡くなってしまうのです。無敵のアキレウスの弱点はアキレス腱と呼ばれるようになりました。現代でもアキレス腱は、致命的な弱点の代名詞として使われています。
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ギリシャ軍の知将オデュッセウス
ホメロスの『イーリアス』ではアキレウスと共に2大英雄として書かれています。得意の知力を生かしてトロイアの木馬作戦などを考え出し、ギリシャ軍の勝利に大きな貢献した人物です。トロイア戦争に参戦すると長い間故郷に帰ることができないという神託を受けており、トロイア戦争への参加には否定的でした。しかし、参戦しなければならない状況となり、トロイア戦争に向かうのです。その後、トロイの木馬を考案しトロイア戦争の終わりを導きました。トロイア戦争後、20年の歳月をかけてようやく故郷に戻ることができたのです。帰還の物語はホメロスの『オデュッセイア』や、『テレゴネイア』で語られています。
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スパルタ王メネラーオス
スパルタ王の娘ヘレネーに対する多くの求婚者の中から選ばれて結婚し、スパルタ王の座を引き継いだ人物です。トロイア戦争では、ヘレネーを奪ったパリスへの復讐のため兄のアガメムノーンと参戦し、多くの活躍をしました。仇であるパリスと一騎打ちを行い、とどめを刺す一歩手前で、アフロディーテの邪魔が入り討ち取ることができませんでした。その後、トロイア陥落時にパリスの弟のデーイポボスを討ち取り、自分を裏切ったヘレネーも一緒に殺害しようとしましたが殺すことはできず、ヘレネーを自分の船に乗せ連れ帰ったのです。そしてスパルタに戻った後は、ヘレネーと共に幸せに暮らしました。
絶世の美女ヘレネー
スパルタ国の王女で、世界一の美女と言われており、結婚の話が出た時はギリシャ全土から求婚者がスパルタにやってくるほどでした。前述のとおりメネラーオスの妻となりますが、ゼウスの策略によりトロイア王国のパリスと結婚します。しかし、パリスはメネラーオスに打ち取られてしまいます。パリスの死後、パリスの弟であるデーイポボスと結婚しますが、デーイポボスもメネラーオスに殺害されてしまうのです。
スパルタとトロイアの間で人生を翻弄されたヘレネーですが、トロイア戦争後はスパルタで最初の夫であるメネラーオスと平穏に暮らします。しかし、メネラーオスの兄であるアガメムノーンの息子によって殺されてしまうのです。ヘレネーが元凶となったトロイア戦争によって、父アガメムノーンや家族が崩壊したため成敗されてしまったと言われています。
トロイア戦争の原因となった王子パリス
王子パリスはトロイア王プリアモスと王妃ヘカベーの間に生まれた人物です。もともとはアレクサンドロスと名付けられたのですが、預言者にこの子は将来、トロイを滅ぼすことになるということを告げられたため、王は大きな葛藤の中で子供を殺すように命じました。しかし、哀れに思った家来が殺さずに逃がし、パリスという名前に変えたのです。
パリスの審判でアフロディーテを選び、ヘレネーをスパルタから連れ帰ったことでトロイア戦争が発生しました。父親のプリアモス王からは寵愛を得ていますが、兄であるヘクトールからは優柔不断な態度をたびたび叱責されています。アポローンの力を借りてアキレウスを毒矢で討ち取りましたが、最後はギリシャ軍の武将ピロクテーテースに弓で射られて亡くなってしまいます。
トロイア軍の勇将ヘクトール
プリアモス王の息子でパリスの兄であり、トロイア軍の総大将を務めた最強の戦士です。常に国や国民のことを考えて王子として立派な態度を貫き通します。アキレスの親友パトロクロスなど多くのギリシャ兵を討ち取りましたが、アキレスとの一騎打ちで負けて殺されてしまいました。遺体はプリアモス王によって引き取られ、国をあげての葬儀が行われました。トロイア陥落時に息子も殺されてしまい、妻のアンドロマケーはアキレウスの息子ネオプトレモスに捕虜として連れ去られてしまいます。
無敵の盾を持つ大アイアス
大アイアスは、武力が非常に高くトロイア戦争では多くのトロイア兵を討ち取った人物です。巨大で頑丈な盾を持っており、盾に身を隠しながら異母兄弟のテウクロスが弓を放つという戦法を取り成果をあげました。アキレウスが倒された時は、遺体を奪うために襲い掛かったトロイア兵の攻撃を盾で防ぎ反撃し、無事にアキレウスの遺体を回収します。しかし、アキレウスの葬儀のための競技会でオデュッセウスに負けたことで正気を失い、自分自身に失望し、自らの剣に身を投げて自殺をしてしまうのです。
トロイア戦争の物語を感じられるトロイの木馬
多くの英雄が登場するトロイア戦争の物語。あらすじを理解することで物語の深さを実感できたのではないでしょうか。なお、トロイア戦争と関係深いトロイ遺跡の入り口にはトロイの木馬のレプリカがあります。
トロイ遺跡は歴史ロマンあふれるトルコの世界遺産!観光のポイントは?
このトロイの木馬は、トロイア戦争の物語のように胴体部分に入ることができるのです。当時のギリシャ兵の気分を味わいながら、トロイア戦争の物語に思いを巡らせるのもおすすめです。
名称 | トロイ遺跡(Archaeological Site of Troy) |
---|---|
住所 | 17100 Kalafat/Çanakkale Merkez/Çanakkale |
休館日 | 無し ※砂糖祭と犠牲祭の初日は13:00より開館 |
営業時間 | 8:00~19:00(4月から10月)、8:30~17:30(11月から3月) |
入場料 | 60 TL(約740円)、8歳未満の子供は無料 トロイ博物館とのセット券:100 TL(約1,240円) |
ウェブサイト | https://muze.gov.tr/muze-detay?SectionId=TRV01&DistId=TRV |
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