ウムラとは?ハッジとの違いや具体的な手順・ルール、巡礼旅行の準備・注意点を解説
更新日:2023.04.05
投稿日:2022.09.09
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ウムラとは、イスラム教の巡礼の一つです。巡礼とは、宗教上の聖地を訪れること。イスラム教の巡礼では、メッカを訪れます。
訪れる時期や巡礼の規模によって2種類にわけられるイスラム教の巡礼のうち、ウムラは小巡礼と呼ばれています。日本人にとっては巡礼自体、日常的に馴染みがない上、イスラム教について詳しい知識に触れる機会もないので、いまいちどのようなものか想像がつきにくいですよね。
この記事では、イスラム教に詳しくない方でもウムラのことがわかるよう、概要から具体的な手順・ルール、大巡礼ハッジとの違いまで丁寧に解説します。この記事を読めば、イスラム教におけるウムラがよくわかるはずです。
Contents
ウムラとは
ウムラとは、イスラム教の巡礼です。元は、アラビア語で「人の多い場所を訪れる」という意味の言葉です。
ウムラではサウジアラビアのメッカにあるカーバ神殿を訪れて信仰を新たにし、許しを請い、祈ります(イスラム教では巡礼を行うと罪が清められるといわれています)。ウムラは義務ではなく、行う時期も定められていませんが、ハッジの期間の前や、断食月(ラマダン)の前後などに行うことは「より信仰心を高められる」と考えられています。ウムラとハッジを組み合わせて行うことも可能です。
ウムラの巡礼者の数
巡礼者の数は年々増加傾向にあり、毎年100万人以上がウムラを行っています。本国サウジアラビア以外で特に巡礼者が多いのはインドネシアやパキスタンから来るムスリムです。
近年は、インドネシア人のウムラ巡礼者が特に増えたといわれています。インドネシアの人口の9割がムスリム(イスラム教徒)であるとともに、経済が成長して中所得層が増えたこと、割り当てられたハッジ枠が国内ムスリム人口に対してあまりにも少ない(0.1%)ことが要因とされています。
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ハッジとの違い
ウムラとハッジはどちらも聖地巡礼ですが、いくつかの違いがあります。
まず、ハッジは五行の一つであり、巡礼する期間が決められています。五行とは、イスラム教における義務のことで、その中の一つであるハッジは経済的・肉体的に可能な限り、一生に一度は行うべきとされています。五行にはハッジ(巡礼)のほかに、シャハーダ(信仰告白)、サラート(礼拝)、サウム(断食)、ザカート(喜捨)があります。
ハッジの期間は、イスラムの暦法であるヒジュラ暦第12月(巡礼月・ズー・アルヒッジャ)の8日から12日の5日間です。2022年は7月7日から12日となっています。
ウムラは時期が決められていないため個人で行いますが、ハッジは集団で行うものです。そのためハッジを大巡礼、ウムラを小巡礼と呼ぶこともあります。
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ウムラの儀礼
集団で行う大規模なハッジと異なり、ウムラは2時間弱で終わらせることができます。
ウムラはほかのイスラムの礼拝と同じように必要な清めを行い、メッカの中心にあるカーバ神殿を向いて行います。ここからは、ウムラの儀礼の順番を、それぞれ詳しく見てきましょう。
1.タルビヤを唱える
タルビヤとは、イスラム教における祈りの言葉です。
大きな声で「ラッバイカッラーフンマ・ラッバイカ・ラッバイカ・ラー・シャリーカラカ・ラッバイカ・インナルハムダ・ワンニイマタ・ラカ・ワルムルカ・ラー・シャリーカ・ラカ」と唱えます。
日本語では「あなたの前に侍ります。称賛と恩恵と大権はあなただけのものです。あなたに並ぶものはありません」のような意味です。女性の場合は、小さな声で唱えます。
2.タワーフ
タワーフとは、神様への献身を示すために祈りを捧げながらカーバ神殿の周囲を7回廻ることです。
カーバ神殿にたどり着いたら、神殿に塗り込められている黒い石に触れてから半時計周りに回礼を行います。この石はムスリムにとって重要な石です。タワーフは、通常であれば20分程度で行えますが、状況によってはそれ以上かかります。
3.祈祷
タワーフが終了したら、巡礼者はカーバ神殿から数メートルの位置にある石「マカーム・イブラヒム」でコーランの一節を唱えます。この石にはアブラハムの足跡が刻印されており、ムハンマドは石の後ろから礼拝したとされています。
ちなみに、石にアブラハムの足跡が残っている理由としては、
- アブラハムがカーバ神殿を建てる際に残った
- アブラハムが巡礼を呼びかけるため石の上に立ったときに残った
- イスマーイールの妻がアブラハムの頭を洗ったときに残った
などさまざまな説があるようです。
4.サーイ
続いて、カーバ神殿の近くにある「サファー」と「マルワ」と呼ばれる丘の間を往復します。2つの丘は450m程度離れたところに位置しており、往復する回数はサファーからマルワに4回、マルワからサファーに3回の合計7回です。
この場所はアブラハムの妻が幼い子どものために水を探していたところ、アッラー(神)が湧水を出したところだと信じられています。この湧水は、現在も巡礼者たちが飲んだり、お土産にしたりしています。
5.髪を切る
サーイが終了すると、理髪店で髪をすべて剃り落とします。「髪を剃ること=輪廻転生・巡礼の完了」とみなされるからです。
ただし、髪をすべて剃り落とすのは男性のみです。女性の場合は、髪の毛の一部を1~2cm程度切るだけでよいとされています。ウムラが終わると、理髪店には多くの巡礼者が訪れます。
髪を剃ったり切ったりすることでウムラも終了となるため、この後はイスラム教のウムラに関する規則に従う必要はありません。
ウムラのルール
ウムラを行う際は、必ずイフラーム状態に入らなければいけません。イフラーム状態に入るには、まず預言者が定めた地点に向かいます。到着後に身体を清めて、定められている服装に着替えてからタルビヤを唱えるとイフラーム状態に入ります。イフラーム状態に入ってからは、悪い言葉やケンカ、生き物を殺すことは禁止です。
服装は、男性は縫い目のない白い布2枚をまとうのが決まりです。1枚は腰に巻き、もう1枚は左肩から掛けます。この服装は神様の前では人類皆平等という意味があり、下着なども身につけません。さらに、サンダルを履いて頭を隠します。
女性の服装は定められていませんが、体型が出たり肌が露出したりしないような、ゆったりとした長袖の服を着用するのが一般的です。顔を隠す必要はなく、多くの方は全身を覆う黒っぽい服装のアバヤや、シンプルなヒジャブを着用します。
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メッカの中心「カーバ神殿」
メッカの中心に鎮座する黒い箱のような建造物が、イスラム教徒の崇拝の対象「カーバ神殿」です。周囲に建つ建造物はグランドモスクと呼ばれます。
カーバ神殿はもともと、周囲に多数の偶像が建てられている多神教の神殿でした。ところがある時、カーバ神殿の管理権を持つ一族からイスラム教の創始者ムハンマドが出現します。
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ムハンマドはアッラーの啓示を受けて630年に無血入城し、黒い石が塗り込められているカーバ神殿のみを残し周囲に建つ偶像を破壊しました。そしてこの地をイスラム教徒の聖所とします。現在、黒い石はカーバ神殿東側の角にあります。
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メッカはイスラム教徒以外立ち入り禁止です。イスラム教徒でさえあれば、日本人でもメッカ巡礼は可能です。
ウムラ巡礼旅行の準備と注意
国外からの巡礼者がサウジアラビアを訪れる際は、1か月間有効となる「ウムラビザ」と、髄膜炎予防接種の証明書が必要です。ハッジの季節以外であれば、観光ビザなどでもウムラの巡礼ができるようになっています。
1987年に巡礼者に関連した髄膜炎菌感染症の集団感染が発生したことにより、巡礼でサウジアラビアを訪れる際は予防接種の証明書が必要になりました。サウジアラビア国民や、現地に居住している方に関しては、特別な書類は必要ありません。
また、45歳未満の女性は、17歳以上の家族もしくはマフラム(イスラムで婚姻できないと定められている家族や近い親族の異性)の男性も同行する必要があります。45歳以上の女性であればマフラムの同行なしでも向かえるため、ツアーに参加して訪れることも可能です。
メッカの周辺にはホテルがたくさんありますし、メッカから離れたホテルからは無料のシャトルバスが運行されています。
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