レスリングの歴史や起源、ルールを徹底解説!実はトルコは強豪国
更新日:2023.04.05
投稿日:2022.08.26
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レスリングは人類最古のスポーツともいわれている、歴史あるスポーツです。地上波でオリンピックや世界大会が放送されることもあり、人気のあるスポーツの一つであるレスリングは、いったいどのような歴史を辿ってきたのでしょうか。
この記事では、レスリングの歴史や特徴、強豪国、レスリングとよく似たトルコの国技ヤールギュレシなどを解説します。歴代のオリンピックメダル選手もご紹介するので、チェックしてみてください。
Contents
レスリングとは
レスリングは、道具を使ったり相手を傷つけたりすることなく、技を掛け合って勝敗を競う、人類がはじめた最古のスポーツです。多くの重要な儀式の際に行われてきた歴史があり、神聖な身体文化として扱われてきました。
レスリングは人類最古のスポーツですが、その歴史を考えると日本に持ち込まれたのは比較的最近といえます。日本では昭和初期に八田一郎がレスリングを持ち込み、そこから広まっていきました。
レスリングの歴史
レスリングは人類がはじめた最古のスポーツだけあり、さまざまな歴史があります。現代も続くレスリングはどのように誕生し、どのような歴史を辿ってきたのでしょうか。レスリングの起源や古代オリンピック、日本におけるレスリングの歴史を確認してみましょう。
レスリングの起源
レスリングはいまから5000年ほど前、紀元前3000年のシュメール人の時代から存在しています。シュメール人は古代バビロニア南部で世界最古かつ高度な文明を築いた民族で、楔形文字を発展させるなどメソポタミア文明の担い手となりました。
古代ギリシャ時代には、体にオリーブオイルを塗って裸でレスリングが行われていました。オリーブオイルは寒さ対策や日焼け止めの目的で塗っていたようです。当時、レスリングは若い男性にとって重要なトレーニングでもあり、ほとんどの地域で男性のみが行える競技でした。
エジプトのベニ・ハッサンでは、レスラーが400組も描かれた古代エジプトの絵が発見されています。
また、トルコではオスマン帝国時代からオイルレスリングが競技として発展していて、無形文化遺産にも登録されています。
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古代オリンピックのレスリング
古代オリンピックでは、グレコローマンスタイルのレスリングが五種競技の一つとして行われていました。グレコローマンスタイルとは、古代ギリシャ・ローマ時代から伝えられてきた古典的なレスリングです。
ギリシャでは「パライストラ」という若人たちのための練習場もありました。こちらではレスリングと教育が行われており、レスリングが教育手段としても古代ギリシャ人に重要視されていたことがわかります。
ところが、393年になるとコンスタンティノープル(現在のイスタンブール)に初めて常駐した皇帝、テオドシウス1世がオリンピック競技を禁止してしまいました。
ちなみに、イスタンブールの観光名所となっている競技場「ヒッポロドーム」のオベリスクの台座には、テオドシウス1世のレリーフが刻まれています。
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また、トルコのアンタルヤ県に残るアスペンドス遺跡では、レスリングのレリーフが刻まれたコインも見つかっています。
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昭和初期に八田一朗によって国内に普及
日本でレスリングが広まったのは、昭和初期に八田一朗が国内にレスリングを持ち込み競技として確立してからのこと。しかし実は、大正時代すでにレスリングに触れていた人物がいました。
日本からは19選手が出場した第8回パリオリンピックのことです。当時国内にレスリングの競技団体はなかったものの、留学先のアメリカでレスリングに取り組んでいた内藤克俊氏は、フリースタイルフェザー級で銅メダルを獲得しました。
その後、早稲田大学の柔道部だった八田一朗は、アメリカ遠征でレスリングに出会います。現地で木っ端微塵に敗れた八田一朗は悔しさから帰国後レスリングの研究を開始、1931年(昭和6年)年に「大日本アマチュアレスリング協会」を創立しました。ちょうどこの年、ロサンゼルスオリンピックに選手を派遣しています。大日本アマチュアレスリング協会は、現在の「日本レスリング協会」の前身です。
それから日本でも多数の選手が誕生し、レスリングは日本のお家芸といわれるまでに発展しました。
レスリングのスタイル
オリンピックや世界大会など、テレビでレスリングの試合が放送されることもありますが、レスリングには2つのスタイルがあることをご存知でしょうか。ここでは、アマチュアレスリングのスタイル「グレコローマンスタイル」と「フリースタイル」をそれぞれ解説します。
グレコローマンスタイル
グレコローマンスタイルとは、古代ギリシャ・ローマ時代から伝えられてきた古典的なレスリングのことです。フランス語で「ギリシャとローマの」を意味し、イタリアのレスラーが古代ギリシャと古代ローマ帝国に対する敬意を示して名付けたようです。「フレンチレスリング」「フラットハンドレスリング」と呼ばれることもあります。
グレコローマンスタイルで使えるのは上半身のみ、腰から下で攻撃したり防御したりすることは禁止です。そのため、タックルする際は胴体を狙い、攻撃は投げ技が中心となります。
近代オリンピックとして1896年に第1回大会が開催されたアテネ大会から、オリンピックの正式種目として行われています。特に東ヨーロッパやスカンジナビア半島で人気です。
フリースタイル
フリースタイルは、中世イギリスのキャッチ・アズ・キャッチ・キャン・レスリング(略してCACCもしくはキャッチ)が原型です。「掴めるところはすべて掴め」を意味するCACCはもともとイギリス騎士の武芸で関節技なども含まれ、打撃や悪質な反則技以外は許されるスタイルでした。
そんな激しい争いとなったCACCからアメリカ人が危険を排除してスポーツ化したのが、現在のフリースタイルです。フリースタイルは世界中へ普及して、1904年のセントルイスオリンピックで初めて正式な種目として認定されました。
なお、オリンピックの女子レスリングで採用されているのは、こちらのフリースタイルのみです。
上半身のみのグレコローマンスタイルに対して、フリースタイルでは全身使うことが可能です。タックルが中心の試合展開となることが多く、寝技の攻防が繰り広げられます。
レスリングの強豪国
レスリングはオリンピックや世界選手権のほか、ワールドカップやFILAゴールデングランプリといった、さまざまな大会が行われています。世界のなかでも強豪国といわれているのは、ロシア・日本・アメリカ・トルコ・ブルガリア・イランの6か国です。
ロシア
ロシアはオリンピックで特に多くのメダルを獲得しているレスリング強豪国です。男子の全現行階級でのこれまでの金メダル獲得数は、グレコローマンスタイル、フリースタイル、ソビエト連邦時代も含めると68個(2020年東京オリンピックではロシアオリンピック委員会選手団として参加)です。女子は金メダル獲得数1個ですが、男子は圧倒的に強いことがわかります。
ロシアがこれほどまでに強いのは、ソビエト連邦時代から広大な領地を有しており、古くからレスリングに近い格闘技が盛んに行われていた地域が含まれていることが理由と考えられます。「霊長類最強の男」といわれるカレリン選手もロシアの選手です。
日本
日本のレスリングの強さも世界トップクラスです。特に女子は強く、日本は「女子レスリングの聖地」ともいわれています。これまでのオリンピックで獲得した金メダルは現行階級で男子が23個、女子は15個です。
日本が強豪国の仲間入りをしているのは、レベルの高い女子選手の多くが至学館大学で優秀な指導者のもとトレーニングを行ったり、選手たちが最新鋭設備の整ったナショナルトレーニングセンターを利用したりしているからと考えられます。
日本レスリング協会(JWF)
日本レスリング協会(JWF)は、日本のレスリングを統括している国内の競技連盟です。世界レスリング連盟にも加盟しており、レスリング大会の主催も行っています。前述した1931年に八田一郎が設立した「アマチュアレスリング協会」が始まりです。
1946年に現在の「日本レスリング協会」へと改名し、レスリングに関するさまざまな活動をしてきました。公式サイトはもちろん、YouTubeやInstagramなどのSNSでも情報を多数発信しているのでチェックしてみましょう。
Japan Wrestling Federation – 日本レスリング協会公式サイト – JWF
アメリカ
レスリングはアメリカでも人気を集めるスポーツの一つです。アメフト会場やタイムズスクエアといった、レスリングの競技場以外の場所でレスリングのイベントが行われることもあるほどです。
これまでのオリンピック現行階級で男子は35個、女子は2個の金メダルを獲得しています。ちなみに、女子の場合はオリンピックで実施されるのはフリースタイルのみですが、アメリカ国内ではグレコローマンスタイルの大会を開催しているところもあります。
ブルガリア
ブルガリアにはダン・コロフという伝説的なレスラーがおり、そのレスラーの名前からとったレスリングの大会「ダン・コロフ国際大会」が開催されています。伝説のレスラーがいるだけあり、ブルガリアもレスリング強豪国の一つとなっています。
これまでのオリンピックで獲得した金メダルは、男子が現行の全階級で7個です。女子は金メダルこそ獲得していないものの、銀メダル2個、銅メダルは3個獲得しています。
イラン
レスリングが国技のイランも強豪国です。オリンピックでは、男子が現行全階級で7個の金メダルを獲得しています。記憶に新しい東京オリンピックでは、グレコローマンスタイルの67kg級でモハンマド・レザ・ゲラエイ選手が金メダルを獲得しました。
レスリングが国技となっているだけあり、イランでは試合で難易度の高い技が決まったときだけ観客が盛り上がるといわれるほど、訪れた観客もレスリングのルールを熟知しています。
トルコもレスリング強豪国の一つ
トルコにはレスリングに近いヤールギュレシという国技ともいえる競技があり、伝統的にレスリングが強い国です。その歴史は紀元前2世紀にはすでにレスリングを行っていたとの記録もあるほど。
トルコがレスリングで強い理由は、ヤールギュレシが盛んに行われていることでレスリングも人気で、選手層が厚いからといえます。トルコでは、ヤールギュレシの他に、オイルなしで行う「カラクジャク・レスリング」という伝統的な競技もあり、各地で大会が開催されています。
オリンピックでは、これまでに男子は29個の金メダルを獲得しており、2021年の東京大会では、ヤセミン・アダール選手が女子初のメダル(銅メダル)を獲得しました。
トルコの近代レスリング事情
トルコで近代レスリングが初めて行われたのは、1903年のこと。1923年にはトルコレスリング連盟(TGF)が首都アンカラに設立されました。2022年現在は、世界選手権をはじめ、多くの国際大会で王者に輝いたシェレフ・エログル氏が会長を務めています。
TGF | Türkiye Güreş Federasyonu
トルコは、1936年のベルリン大会で、フェザー級のヤシャル・エルカン選手が初めてオリンピックの金メダルを獲得して以降、多数のメダルを獲得しています。トルコがオリンピックで獲得したメダルの大半は、レスリングにおけるものです。伝統的に男子が好成績を残していますが、近年は女子の活躍も目立っており、国際大会でもメダルを獲得しています。
世界的に有名な選手としては、1996年のアトランタ大会と2000年のシドニー大会でオリンピック連覇を果たしたハムザ・イェリカヤ選手や、世界選手権で4度の王者に輝いたリザ・カヤルプ選手などがあげられます。
現役で活躍中のリザ・カヤルプ選手は、2022年の欧州選手権で12回目の優勝を果たし、同じく12回の優勝記録を持つ“霊長類最強”と言われたロシアのカレリン選手の記録を塗り替えることが期待されています。
レスリングのルール
レスリングは、フリースタイル・グレコローマンスタイルともに直径9mのマットの上で行います。いずれも試合時間は3分×2ピリオドで、30秒のインターバルを挟みます。
相手の両肩をマットの上に1秒以上つけた状態を指す「フォール」が成立、もしくは規定の得点差になると試合終了です。ちなみに、途中までどちらかがポイントをリードしていても、フォールが成立すれば試合は終了、フォールを成立させた選手の勝ちです。
フォールが成立しない場合は、試合中のトータルポイントで勝敗が決まります。トータルポイントが同点だった場合の勝者決定手順は以下のとおりです。
- ビッグポイント…より点数の高い技を決めた選手
- コーション…反則行為が少なかった選手
- ラストポイント…最後に点数を獲得した選手
なお、判定に異議がある場合は、セコンドがマットの上に赤いスポンジを投げて、選手の同意を得たうえでVTR判定を要請できるチャレンジシステムが設けられています。
フリースタイルのルール
基本的なルール以外に、フリースタイル・グレコローマンスタイルでは異なるルールもあります。たとえば、勝敗が決まる得点差です。フリースタイルの場合は、試合中10点差がつくと試合終了となります。
また、レスリングには試合に消極的な選手に対して注意する「パッシブ」があり、その対応も異なります。フリースタイルではどちらかの選手にパッシブが2回あると「アクティビティピリオド」として30秒間のピリオドが設けられるのがルールです。
ここでどちらにも得点が入らなければパッシブを受けていないほうに1点が入ります。この間も消極的とみなされると、防御側はコーションとしてカウントされるケースもあります。
グレコローマンスタイルのルール
グレコローマンスタイルで勝敗が決まる得点差は8点、立ち技のスタンドと寝技のグラウンドの2種類で戦います。試合はスタンドポジションから始まり、積極的に攻撃しなければなりません。どちらか一方が消極的とみなされると試合を中断し、積極的に攻撃していた選手に1点を与えます。そのうえでスタンドポジションか、四つん這いの選手の背後からもう1人の選手が攻める体勢のパーテールポジションかを選択させて試合を再開します。
2回目も同様で、3回目になると得点は入らず、試合を中断して積極的な選手にポジションを選択させてから再開するのがルールです。
反則行為
レスリングでは反則をするとコーションという警告が与えられ、3回コーションを与えられるとその試合は失格となります。反則行為には以下のようなものがあります。
- パンチやキック
- 噛みつく
- 首を絞める
- 皮膚をつねる
- 髪の毛を掴む
- 腕を90度以上に極める技
- 伏せた状態で戦っているときに下の選手が故意に場外へ逃避する
などです。粗暴行為を繰り返すと「レッドカード」が与えられたり、下半身を使用してはならないグレコローマンスタイルの防御者が足の反則を2回犯すと、その時点で試合終了となったりもします。
ユニフォームに関するルール
レスリングでは、ユニフォームにもルールがあります。まず、試合では水着のように伸縮性のある素材でできた「シングレット」という特別な試合着を着用します。
世界レスリング連盟が公認しているシングレットの色は赤と青の2色です。試合は抽選によるトーナメント形式となっており、組み合わせたときに抽選番号が小さいほうの選手(トーナメント表の上段)が赤、小さいほうの選手(トーナメント表の下段)が青と決められています。
シグレットの背中には国名・氏名を表記し、レスリングシューズを履くことも義務付けられています。
また、試合中に流血した際、ふき取るための白いハンカチも必須です。ハンカチの携帯はルールに定められているため、持っていなければ失格となります。
レスリングの階級
第1回近代オリンピックアテネ大会では、階級はなく無差別級でした。その後1908年のロンドンオリンピックで4階級が設定され、階級は増え続けます。昔はフライ級、バンダム級、ミドル級、ヘビー級のような階級名でしたが、現在は57kg級のように体重で示されています。
現在のオリンピックでは男子フリースタイルの階級は「57kg・65kg・74kg・86kg・97kg・125kg」の6つです。男子グレコローマンスタイルの階級は「60kg・67kg・77kg・87kg・97kg・130kg」となっています。女子は「50kg・53kg・57kg・62kg・68kg・76kg」の6つの階級です。
オリンピック以外では、さらに細かい階級に分かれています。
日本の歴代オリンピックメダル選手
前述したように強豪国で多くのオリンピックメダル選手がいる日本。ここからは、国内の歴代オリンピックのメダル選手を男女別・メダルの種類別にご紹介します。
男子レスリング 歴代金メダル選手
オリンピック男子レスリングで金メダルを獲得した選手は以下のとおりです。1964年の東京オリンピックでは、フリースタイル、グレコローマンスタイル合わせて5つもの金メダルを獲得しています。その次の大会、メキシコオリンピックでも好成績を残しました。
【フリースタイル】
獲得年 | 名前 | 種目 |
---|---|---|
1952年・ヘルシンキ | 石井庄八 | バンタム級 |
1956年・メルボルン | 池田三男 | ウェルター級 |
笹原正三 | フェザー級 | |
1964年・東京 | 吉田義勝 | フライ級 |
渡辺長武 | フェザー級 | |
上武洋次郎 | バンタム級 | |
1968年・メキシコ | 中田茂雄 | フライ級 |
上武洋次郎 | バンタム級 | |
金子正明 | フェザー級 | |
1972年・ミュンヘン | 柳田英明 | 57kg級 |
加藤喜代美 | 52kg級 | |
1976年・モントリオール | 高田裕司 | 52kg級 |
伊達治一郎 | 74kg級 | |
1984年・ロサンゼルス | 富山英明 | 57kg級 |
1988年・ソウル | 小林孝至 | 48kg級 |
佐藤満 | 52kg級 | |
2012年・ロンドン | 米満達弘 | 66kg級 |
2021年・東京 | 乙黒拓斗 | 65kg級 |
【グレコローマンスタイル】
獲得年 | 名前 | 種目 |
---|---|---|
1964年・東京 | 市口政光 | バンタム級 |
花原勉 | フライ級 | |
1968年・メキシコ | 宗村宗二 | ライト級 |
1984年・ロサンゼルス | 宮原厚次 | 52kg級 |
女子レスリング 歴代金メダル選手
女子レスリングがオリンピック競技として正式に認められたのは2004年のアテネオリンピックからです。日本選手は2004年から毎回金メダルを複数獲得しており、日本が「女子レスリングの聖地」といわれているのも納得できます。
獲得年 | 名前 | 種目 |
---|---|---|
2004年・アテネ | 吉田沙保里 | 55kg級 |
伊調馨 | 63kg級 | |
2008年・北京 | 吉田沙保里 | 55kg級 |
伊調馨 | 63kg級 | |
2012年・ロンドン | 小原田日登美 | 48kg級 |
吉田沙保里 | 55kg級 | |
伊調馨 | 63kg級 | |
2016年・リオデジャネイロ | 登坂絵莉 | 48kg級 |
伊調馨 | 58kg級 | |
川井梨沙子 | 63kg級 | |
土性沙羅 | 69kg級 | |
2021年・東京 | 須崎優衣 | 50kg級 |
向田真優 | 53kg級 | |
川井梨沙子 | 57kg級 | |
川井友香子 | 62kg級 |
男子レスリング 歴代銀メダル選手
金メダルもさることながら、日本男子は銀メダルも多数獲得しています。特に、1984年のロサンゼルスオリンピックでは、フリースタイル、グレコローマンスタイル合わせて5つの銀メダルを獲得しました。
【フリースタイル】
獲得年 | 名前 | 種目 |
---|---|---|
1952年・ヘルシンキ | 北野祐秀 | フライ級 |
1956年・メルボルン | 笹原茂 | ライト級 |
1960年・ローマ | 松原正之 | フライ級 |
1972年・ミュンヘン | 和田喜久夫 | 68kg級 |
1984年・ロサンゼルス | 入江隆 | 48kg級 |
赤石光生 | 62kg級 | |
長島偉之 | 82kg級 | |
太田章 | 90kg級 | |
2008年・北京 | 松永共広 | 55kg級 |
2016年・リオデジャネイロ | 樋口黎 | 57kg級 |
【グレコローマンスタイル】
獲得年 | 名前 | 種目 |
---|---|---|
1968年・メキシコ | 藤本英男 | フェザー級 |
1972年・ミュンヘン | 平山紘一郎 | 52kg級 |
1984年・ロサンゼルス | 江藤正基 | 57kg級 |
1988年・ソウル | 宮原厚次 | 52kg級 |
2000年・シドニー | 永田克彦 | 69kg級 |
2016年・リオデジャネイロ | 太田忍 | 59kg級 |
2021年・東京 | 文田健一郎 | 60kg級 |
女子レスリング 歴代銀メダル選手
2004年と2008年に銀メダルを獲得している伊調千春選手は、2004年から4大会連続で金メダルを獲得した伊調馨選手の姉で、姉妹で活躍していました。銀メダルのみに注目すると少ないような印象ですが、それは金メダルを多く獲得しているからです。
獲得年 | 名前 | 種目 |
---|---|---|
2004年・アテネ | 伊調千春 | 48kg級 |
2008年・北京 | 伊調千春 | 48kg級 |
2016年・リオデジャネイロ | 吉田沙保里 | 53kg級 |
男子レスリング 歴代銅メダル選手
男子レスリングの日本人選手は、銅メダルも多数獲得しています。特にモントリオールオリンピックでは、フリースタイルとグレコローマンスタイル合わせて4つの銅メダル、金メダル2つの合計6つものメダルを獲得しました。
【フリースタイル】
獲得年 | 名前 | 種目 |
---|---|---|
1924年・パリ | 内藤克俊 | フェザー級 |
1964年・東京 | 堀内岩雄 | ライト級 |
1976年・モントリオール | 江藤章 | 48kg級 |
荒井政雄 | 57kg級 | |
菅原弥三郎 | 68kg級 | |
1984年・ロサンゼルス | 高田裕司 | 52kg級 |
1992年・バルセロナ | 赤岩光生 | 68kg級 |
1996年・アトランタ | 太田拓弥 | 74kg級 |
2004年・アテネ | 田南部力 | 55kg級 |
井上謙二 | 60kg級 | |
2008年・北京 | 湯元健一 | 60kg級 |
2012年・ロンドン | 湯元真一 | 55kg級 |
【グレコローマンスタイル】
獲得年 | 名前 | 種目 |
---|---|---|
1976年・モントリオール | 平山紘一郎 | 52kg級 |
1984年・ロサンゼルス | 斎藤育造 | 48kg級 |
2012年・ロンドン | 松本隆太郎 | 60kg級 |
2021年・東京 | 屋比久 翔平 | 77kg級 |
女子レスリング 歴代銅メダル選手
女子レスリングの銅メダルは、浜口京子選手が2回獲得しています。浜口選手は父のアニマル浜口が経営するレスリング道場で14歳からアマチュアレスリングを開始し、全日本選手権や世界選手権で優勝を重ねた実力の持ち主です。
獲得年 | 名前 | 種目 |
---|---|---|
2004年・アテネ | 浜口京子 | 72kg級 |
2008年・北京 | 浜口京子 | 72kg級 |
レスリングの有名・注目選手
レスリングは世界中のファンを魅了し、オリンピックでも注目される競技です。当然、魅力ある選手も揃っています。ここからは、日本と海外の現役選手・引退した選手のなかから注目されている選手や有名な選手をご紹介します。
現役選手(日本)
日本の現役選手で注目したいのは、東京オリンピックのフリースタイル65kg級で金メダルを獲得した乙黒拓斗選手です。乙黒選手は小学生時代から天才といわれて注目されてきた選手で、2018年には19歳で世界選手権フリースタイル65kg級の王者となりました。これは日本男子最年少記録です。
女子は東京オリンピックで金メダルを獲得した須崎優衣選手です。2017年の世界選手権48kg級、2018年の世界選手権50kg級で金を獲得しており、2022年の全日本選抜50kg級でも優勝しました。スピード感のある試合展開が見どころです。
また、同じく東京オリンピック57kg級で金メダルを獲得した、井川梨沙子選手にも注目です。8歳からレスリングをはじめていて、国内外さまざまな大会で優勝を果たしてきました。
現役選手(海外)
海外で注目したい現役選手は、東京オリンピックでROCからフリースタイル97kg級に出場し、金メダルを獲得したアブドゥルラシド・サドゥラエフ選手です。欧米メディアが彼を「ロシア戦車」と呼ぶほど鍛え上げられており、多数の国際大会で優勝している素晴らしい実力を持っています。10歳の頃にフリースタイルレスリングをはじめて、ジュニア選手権ではすべてのライバルを2分間で倒したという記録があります。
女子で注目したいのは、東京オリンピック57kg級で銅メダルを獲得したヘレン ルイーズ・マルーリス選手です。東京オリンピックでは銅メダルでしたが、2016年リオデジャネイロオリンピックでは53kg級で吉田沙保里選手を破り、金メダルを獲得しています。
引退した選手(日本)
戦後初のヘルシンキオリンピックでは、石井庄八選手がこのオリンピック唯一の金メダルを獲得しました。国内がまだ不安定だったにもかかわらず金メダルを獲得したことで、多くの日本人に希望を与えたことでしょう。
1998年に開催されたソウルオリンピックで金メダルを獲得した小林孝至選手は、帰国後に金メダルを紛失して話題になりました。その後、無事に戻ったものの、まれな出来事だったため現在でもオリンピックの話題で取り上げられることがあります。
また、伝説として多くの方の記憶に残っているのが吉田沙保里選手です。2004年のアテネオリンピックから3連覇を果たし、世界大会は16連覇、個人戦では206連勝という驚異の記録を残し、「霊長類最強の女」ともいわれていました。吉田選手は、国民栄誉賞も受賞しています。
引退した選手(海外)
海外の引退した選手にも霊長類最強といわれた選手がいます。ロシアのカレリン選手です。ソウル、バルセロナ、アトランタオリンピックで3連覇、1987年から2000年まで無敗という成績を残し、「霊長類最強の男」と呼ばれていました。
レスリング強豪国の一つに挙げられるブルガリアの女子選手、スタンカ・ズラテバ選手は、北京、ロンドンオリンピックで銀メダルに輝いた選手です。そのほか、世界選手権やヨーロッパ選手権でも多くの金を獲得しているほど実力があります。
日本の学生レスリングとレスリング強豪校
歴代のメダリストはもちろん、現役で活躍する選手に憧れてレスリングに取り組む子どもや学生も少なくありません。ここで、国内の中学校から大学までのレスリング強豪校や、少年少女レスリングをご紹介します。
大学
大学でレスリングが強いのは、日本体育大学や専修大学、山梨学院大学、早稲田大学、至学館大学などです。2021年東京オリンピックグレコローマンスタイルのメダリストのうち2人は日本体育大学出身、専修大学はメキシコ大会からバルセロナ大会まで9人のオリンピック選手を輩出するなど、各大学のOB・OGにオリンピック選手がいます。階級によって強い学校は異なるものの、レベルの高い選手が集まっていることがわかります。これからのオリンピックにも、ご紹介した強豪校のなかから素晴らしい成績を残す選手が多数誕生するかもしれません。
高校
高校にもレスリングの強豪校がいくつかあります。たとえば、愛媛県立八幡浜工業高等学校には国体への出場が決定した生徒が複数いたり、自由ヶ丘学園高校は全国大会の常連だったり、将来が楽しみな生徒が活躍しています。
また、成城高等学校、渋谷女子高等学校、渋谷教育学園渋谷高等学校などもレスリングが強いことで知られている高校の一つです。インターハイなど高校生のレスリング全国大会にも注目してみましょう。
中学
中学のレスリング大会も開催されています。中学校でレスリング部を設けているところもありますが、大会に出場するのはクラブチームに所属している子がほとんどです。公益財団法人日本レスリング協会が主催している大会では、世界レスリング連盟のU15ルールが採用されています。
ジュニア強化合宿などを実施している都道府県のレスリング協会もあり、選手育成にも力を入れていることがわかります。
日本の少年少女レスリング
未就学児や小学生の少年少女レスリングも大会があります。ルールや階級が大人とは少し異なり、年齢によって試合時間も異なります。小学3年生からは階級に女子の部が設定されているものの、幼児の部から小学校1~2年生までは男女で分けられていません。
試合時間は年齢によって以下のように設定されています。年齢にかかわらず、ハーフタイムはいずれも30秒です。
幼児の部 | 年少・年中・年長 | 1分2ピリオド | フォールなし |
---|---|---|---|
小学生の部 | 1~2年生 | 1分30秒2ピリオド | フォールなし |
3~6年生 | 2分2ピリオド | フォールあり |
また、基本的に乱暴な技は禁止されており、殴る・蹴る・頭突き、髪を引っ張る、噛みつく、試合中のおしゃべりなどの行為も反則とみなされます。
勝者決定手順は以下のとおりです。
- フォール…相手選手の両肩が計2秒マットについたとき。幼児および1~2年生の部は5カウント後スタンドレスリング。
- テクニカルフォール…1つの技が終結したときに、両者のポイント差が10ポイント以上あったとき。
- 上記が成立しなければ、ポイントを多く獲得したほうを勝者とする。
- 同点の場合は延長戦で先にポイントを獲得したほうが勝者。双方ポイントがなければ積極的に攻撃した選手を勝者とする。
なお、こちらはNPO少年少女レスリング連盟の公式サイトとSNSで、試合予定や結果などを確認できます。各都道府県や地域にもあるのでチェックしてみましょう。
国内のレスリングの主な大会
国内で実施されているレスリングの主な大会は3つあります。それぞれ概要をご紹介します。
全日本レスリング選手権大会
前日本レスリング選手権大会は日本レスリング協会主催の大会で、1934年から続くレスリングの全国大会です。各階級の最優秀選手には天皇杯が授与されます。歴代の優勝者のなかには、1976年モントリオールオリンピック・フリースタイル52kg級金メダリストの高田裕司選手、多くの国民から愛されバラエティー番組にも登場することの多い浜口京子選手などがいます。
全日本選抜レスリング選手権大会
全日本選抜レスリング選手権大会は、日本レスリング協会が主催し、株式会社明治が特別協賛している大会です。なお、オリンピックや世界選手権の代表選考会も兼ねている、日本レスリング選手権大会と並ぶ大きな大会です。もともとは男子選手の大会でしたが、2010年からは全日本女子選手権大会と統合、男女の大会となりました。
全日本ジュニアレスリング選手権大会
全日本ジュニアレスリング選手権大会は、日本レスリング協会が主催する15~20歳までが参加できる大会です。ジュニア競技大会の質的向上や、オリンピック・世界選手権で活躍できる選手を発掘するために開催されています。こちらの大会で優秀な成績を残した選手は、「オリンピック有望選手」として認定されます。
オイルを塗って行うトルコの伝統的レスリング「ヤールギュレシ」
トルコの国技で、オイルを塗って行うことからオイルレスリングとも呼ばれる「ヤールギュレシ」も確認しておきましょう。レスリングが誕生した古代ギリシャ時代はオリーブオイルを体に塗って行っていたことを考えると、レスリングが誕生した頃に近いスタイルといえます。
全身にオリーブオイルを塗って対戦するトルコの国技
全身にオリーブオイルを塗って対戦するヤールギュレシはトルコの国技で、トルコ相撲とも呼ばれています。ヤールギュレシは14世紀のオスマントルコ時代に始まりました。もともとは強い戦士を育成するために行われていた鍛錬です。
ヤールギュレシを行う際は、クスベットという15kgもある牛革製のズボンを履きます。競技をする場所は草地のスタジアムで、試合は40分も続きます。40分間に勝敗がつかない場合は15分の延長もあり、スタミナがなければ難しいでしょう。
レスリングのように相手の両肩を地面につける、もしくは相手を持ち上げて3歩歩けば勝負が決まります。ギブアップしたり、ズボンが破けたり、脱げたりしても負けです。
トルコ相撲(ヤールギュレシ)とは?無形文化遺産のオイルレスリング
2010年にユネスコ無形文化遺産に登録
トルコには毎年6~7月の3日間にわたり開催されるヤールギュレシの全国大会があり、トルコ全土から1500人以上もの強豪が集まります。全国にテレビ放送されるほど人気で、「バシュペフリヴァン」というチャンピオンを目指して多くの選手が戦います。
2010年には、「クルクプナルオイルレスリングフェスティバル」としてユネスコ無形文化遺産にも登録されました。
ヤールギュレシの始まりは諸説ありますが、1346年のオルハン・ガーズィのヨーロッパ遠征中に始まったレスリングが始まりという説が一般的です。ヤールギュレシは、発祥から現在まで中断されることなく続いてきたトルコの伝統的な大会の一つです。タイミングが合う場合は、ぜひ見学してみましょう。
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レスリングから生まれた興行「プロレス」
激しい戦いで人気を集めるプロレスは、レスリングから生まれた興行です。プロレスの起源は、レスリングが社会的な地位のある一部の人向けのスポーツだった中世・ルネッサンス時代とされています。地方でお祭りやサーカス、見世物小屋の一部として行われており、格闘技の技術・知識のない選手や観客ばかりだったため、ルールは整備されていませんでした。観客が飛び込みで参加することもあったそうです。
19世紀末になると選手権試合や世界大会といった正式な形でプロレスが開催されるようになり、興行として確立します。1910年~1930年代頃に、巡業範囲を拡大したり馴染み客以外も楽しめるよう工夫したりするようになり、ショー化が進んだといわれています。
また、レスラー・プロモーター・マネージャーなどで結成されたトラストも、ショー化に拍車をかけました。関係が緊密になったことで、リアルではない試合も確実に仕組めるようになったからです。
日本では力道山がきっかけで広まり、力道山がこの世を去ったあとは、ジャイアント馬場とアントニオ猪木がプロレス界を率いてきました。一時的に人気が低迷した時期があったものの、80年代後半からは人気が回復し、90年代には新団体が続々と設立されました。
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