女神アルテミスの特徴とギリシャ神話の有名な逸話!実はトルコの土着神だった?
更新日:2023.05.28
投稿日:2022.09.21
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ギリシャ神話に登場するアルテミスは、貞潔や狩猟の女神、そして月の女神とさまざまな側面をもつ女性です。太陽神とされるアポロンは、アルテミスの双子の弟です。
アルテミスにはさまざまなエピソードが残っており、気の強さや生真面目さを印象づけるシーンが多い一方で、恋をしたり他人への哀れみを表したりする場面もあります。
実は、ギリシャ神話に先立ち、アルテミスは古代アナトリア(現在のトルコ)ですでに信仰されていたという歴史はあまり知られていません。
そこで今回は、ミステリアスなギリシャ神話に登場するアルテミスの魅力に迫っていきましょう。アルテミスの特徴や象徴、そして有名なエピソードなどをご紹介します。
アルテミスとは?
アルテミスは、ギリシャ神話のなかでゼウスとレトの子どもとして登場します。父親のゼウスはギリシャ神話の最高神です。ゼウスの子どもを身ごもったレトは、ゼウスの妻であるヘラの嫉妬により悩まされますが、苦渋の末にアルテミスとアポロンの双子を出産します。
双子の弟であるアポロンは太陽神として有名ですが、芸術や医術、弓術など、多彩な分野に長けた男神です。
アルテミス自身は、貞潔や狩猟の女神として知られています。純潔を尊ぶため、自分の貞潔を守ることはもちろん、他者の不貞に対しても厳しいという徹底した信念を持っている女性です。また、アルテミスはヘカテーやセレネ、ディアナと並んで月の女神としてもよく知られています。
ギリシャ神話の神としての印象が強いアルテミスですが、実はその起源はギリシャ神話よりも古く現在のトルコである古代アナトリアに遡ると考えられています。古代アナトリア地方では豊穣の女神として崇められ、古代都市エフェソスには巨大なアルテミス神殿が存在しました。
アルテミスの象徴・特徴は?
アルテミスの象徴(アトリビュート)として彫刻や絵画などで描写されるものには、膝丈の短いチュニックとサイクロプス族が作った弓矢、矢筒があります。これは狩人としての象徴で、若くて美しく活発な様子が描かれることが多いでしょう。弓矢はときに人間に罰を与えるために使われ、矢は刺さると疫病をもたらすと信じられていました。
また、三日月のモチーフが付いた冠やヘアバンド、松明、長いローブが描写されていることもあります。これは、光をもたらす存在である月の女神としてのシンボルです。
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そして、動物の毛皮で作られた帽子や鹿の革のマント、鹿や狩猟犬などの動物を携えていることもあります。アルテミスは「動物の女王」と呼ばれ、野生動物の守護者とされてきました。特に、神聖な動物として鹿を伴うことが多く、神聖な動物に危害を加えたものには罰を与えることもあったとされています。
アルテミスが持つこうした特性は、まだ子どものときに父ゼウスに願って求めたものと言い伝えられています。
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アルテミス誕生の経緯
アルテミスは、ギリシャ神話の最高神であるゼウスとティターン神族レトの間に生まれます。ゼウスの妻であったヘーラーはゼウスが不貞を働いたことに激怒し、レトが地球上で出産することを禁じていました。レトは放浪したあげくエーゲ海に浮かぶテロス島にたどりつき、オリーブの枝の上でようやくアルテミスを出産します。
レトはアルテミスの他にももう一人身ごもっていましたが、ヘーラーは自身の娘で出産の女神であるエイレイテュイアにレトをこれ以上助けることを禁じます。
そこで生まれて間もないにも関わらず助産の技術を習得して双子の弟の誕生を助けたのが、アルテミスです。弟アポロンの誕生は、アルテミスの出産から9日経ってからのことでした。難産に苦しむ母親の苦痛を軽減したことから、アルテミスは出産の守護神としての一面ももつようになりました。
アルテミスはもともとトルコの土着神だった?
アルテミスの起源をたどると、もともとはアナトリアの地母神キュベレーだったと考えられています。特に、トルコの観光人気スポットとなっているエフェソスのアルテミス神殿では、独自のアルテミス信仰文化が形成されました。
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ギリシャ神話のアルテミスとの違い
エフェソス遺跡から発掘されたアルテミス像は、チュニックに弓矢といったギリシャ神話に登場する快活なアルテミスとは見た目の特徴が大きく異なっています。
エフェソスでのアルテミスは、エフェソスでは豊穣や多産の女神として崇められていました。このため、エフェソスのアルテミス像の胸元には、乳房あるいは睾丸とも解釈される丸い卵型のモチーフが多数施されています。
アルテミスは、母レトの助産をしたことから出産の守護神とされることがあります。また、アルテミスと同一視されているローマ神話のディアナは、豊穣や多産の女神です。ギリシャ神話と古代アナトリアでのアルテミスは姿・形が異なりますが、つながりを感じられる面もあるのが興味深い点です。
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世界七不思議の一つ「アルテミス神殿」
エフェソス遺跡は、世界遺産に登録されるトルコの人気観光スポット。文化的・商業的に栄えた古代都市です。エフェソス遺跡のなかでも見どころの一つとなっているのがアルテミス神殿で、今日では観光客で溢れています。しかし、過去には放火などにより何度も破壊と再建を繰り返してきた歴史があり、世界七不思議の一つとしても有名です。
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巨大で豪華な造りの神殿から、アルテミスがエフェソスで熱狂的に崇拝されていたことがわかります。
ギリシャ神話におけるアルテミスの逸話
自分の裸身を見たものを変身させて罰する
50匹の猟犬を率いて狩りに出ていたアクタイオーンは、アルテミスがニンフと一緒に水浴びをしている場面をたまたま見てしまいます。貞潔を尊ぶアルテミスはアクタイオーンを牡鹿に変身させ、彼が連れていた猟犬を差し向けます。アクタイオーンは、自分の猟犬によって身を引き裂かれて死亡してしまいました。
一方で、シプロイトという少年がアルテミスの脱衣を偶然見てしまった際には、彼を女の子に変えたと言い伝えられています。
他者の貞潔に対しても厳しい
アルテミスは、自身の貞潔だけでなく、自分に仕えるニンフ達にも厳しく純潔であることを求めていました。ニンフのカリストは処女を誓って毎日狩猟にいそしんでいましたが、あるとき、アルテミスの父親であるゼウスに見初められます。ゼウスはアルテミスに姿を変えてカリストに近づき、カリストは妊娠させられてしまいます。
このことでカリストはアルテミスの怒りを買い、熊に変身させられたあげく追放されてしまいました。この後、カリストは将来のアルカディアの王となる息子のアルカスを出産します。
なお、アルテミスに追放されてアルカスを産んだ後に、ゼウスとの不貞に激怒したヘラによって熊の姿に変えられたとする話もあります。
その後、アルカスは成長して狩人となって森に入り、熊となった母カリストと出会います。これを見たゼウスは、息子が母親を殺す前に二人を天に上げ、カリストはおおぐま座に、アルカスはこぐま座になりました。
貞潔を重んじるものに対しては報いを与える
不貞したものに対しては容赦なく冷酷な態度をとりますが、貞潔を尊ぶものには報いを与えるのがアルテミスです。アテネの王テセウスの息子ヒッポリュトスは、父の後妻となったファイドラに想いを寄せられ言い寄られますが、この求愛を拒否しました。しかし、ファイドラは「ヒッポリュトスに言い寄られて困惑した」という事実と異なる内容の遺書を残して自殺します。
この遺書が原因でテセウスはポセイドンに息子を罰するように願い、追放します。この結果、ヒッポリュトスは無実ながらに亡くなってしまいました。ヒッポリュトスの死を悼んだアルテミスは、医神アスクレピオスを説き伏せて貞潔を守ったヒッポリュトスを復活させます。ローマ神話によると、復活したヒッポリュトスは、ローマに近い洞窟に隠されてウィルビウスというイタリアの神となりました。
オリオンとの恋の物語
ハンサムな顔立ちの巨人で優れた狩人であったオリオンは、アルテミスの唯一の恋の相手として伝えられてきました。オリオンとアルテミスのエピソードにはいくつかのパターンが存在しています。
- アルテミスもオリオンに想いを寄せていましたが、オリオンがアルテミスの服を脱がそうとしたときに貞潔が脅かされたため、オリオンを殺してしまいます。
- オリオンは、アルテミスの狩猟仲間でもありました。狩りの名手であるオリオンは名が広く知れ渡るようになり、やがて地球上の獣を全て殺すと豪語し始めます。このため、ガイアによってサソリを差し向けられ、殺されてしまいます。
- オリオンとアルテミスは仲良く穏やかに暮らしていましたが、アルテミスの貞潔が脅かされていることを感じた双子の弟アポロンが、アルテミスを騙して彼女自身の手でオリオンを弓矢で殺害させます。
いずれにしても、悲しんだアルテミスがゼウスにせめてオリオンを星座として夜空にあげてくれと頼み込んだことで、オリオン座となりました。
トロイア戦争におけるアルテミス
ギリシア神話のなかでも有名なトロイア戦争は、トロイアとギリシア遠征軍の戦争です。ギリシア艦隊が出航する際に、ギリシア遠征軍の総大将アガメムノンは、神聖な動物である牡鹿を狩り、さらに自分の狩りの腕前を豪語していました。このことがアルテミスの怒りに触れ、航海に必要な風がなくなってしまい船を出せなくなります。
アガメムノンは娘のイーピゲネイアを兵団のための生贄として捧げますが、それを哀れんだアルテミスは生贄を鹿に置き換えて彼女を神官として迎えました。
双子の弟アポロンがトロイアの守護神だったこともあり、アルテミスはトロイア側についたため、ギリシア側についたヘラとは対立関係になります。気の強さを見せるエピソードが多いアルテミスですが、ヘラと対峙した際には持っていた弓矢を奪われて殴られ、泣きながら逃走したと言い伝えられています。
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母を侮辱した相手を罰する
アルテミスとアポロンは、母レトを大切にしていました。タンタロスの娘のニオベは、テーベ王アンフィオンの妻で7人の息子と7人の娘をもうけており、アルテミスとアポロンしか子どものいないレトより勝っていると誇ります。このため、アルテミスとアポロンは母を侮辱した罰としてニオベの子どもたちを弓矢で射殺します。
子どもたちを殺害されたニオベは嘆き悲しみ、故郷のリディアで石に身を変じました。この石は、「ニオベの泣き岩」として、トルコのマニサ県スピル山で見学することができます。
アルテミス合意・アルテミス計画とは?
アメリカが提案している月面有人探査と火星探査を目指す国際宇宙探査計画は、月の女神ともされるアルテミスの名にちなんで「アルテミス計画」と名付けられています。計画では、女性が月面に立つことも目標の一つとして掲げられていることもあり、アルテミスの名が採用されました。
また、アルテミス計画を含んだ広範囲にわたる宇宙空間での探査や利用の諸原則について関係各国が認識を合わせるために制定した政治的宣言は、「アルテミス合意」と呼ばれています。日本・アメリカ・カナダ・イギリス・イタリア・オーストラリア・ルクセンブルク・UAEの8カ国が署名しており、探査にあたって宇宙環境の保全や衝突回避などについての認識を共有しています。
1960年代にNASAによって行われた人類初の月面着陸は、アルテミスの双子の弟アポロンにちなんで「アポロン計画」と名付けらたことも有名です。
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