ミナレットとはどんなもの?イスラムの権威を体現しモスクを象徴的に彩る塔
更新日:2023.04.05
投稿日:2022.08.23
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ミナレットとは、イスラム教の宗教施設であるモスクにある塔のこと。ここから礼拝を呼びかけるアザーンが流れます。日本人にはあまりなじみのないミナレットですが、モスクには必ずあるもので、形や本数もさまざま。
その形や数は時代や場所によって移り変わり、オスマン帝国が栄華を極める時代には、スルタンの権威を体現するかのような壮大なモスクが建築され、高くそびえる鉛筆形のミナレットが複数本作られました。今回はそんな「ミナレット」について解説していきます。
Contents
ミナレットとはどんなもの?
ここでは、そもそも「ミナレット」とはどんなものなのかについて、わかりやすく解説していきます。
ミナレットとは?
ミナレットとは、モスクやマドラサなどの宗教施設の一部として設けられる塔のこと。1日5回の礼拝時になると、礼拝の呼びかけであるアザーンがここから流れます。ミナレットとは英語の呼び名で日本では光塔や尖塔、アラビアではマアザナやマナーラと呼ばれています。
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ミナレットの位置
ミナレットは、イスラム教初期は礼拝堂の手前、メッカと反対側の方向にあるミフラーブの軸線上に設けられることが多かったようです。その後、モスクの敷地の隅や街から見渡せる場所に設けられるようになっていきます。時代とともに礼拝を呼びかけるための塔というだけではなく、モスクをシンボリックにみせる役割も担うようになっていきます。
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ミナレットの数
機能的にミナレットは1基のみで十分事足ります。ミナレットが2基以上あるのは、装飾と権威づけの意味があるようです。
ミナレットの歴史
イスラム初期の7世紀にはミナレットはなく、屋根の上から礼拝の呼びかけを行っていました。8世紀以降は、階段がついた塔状のミナレットがつけられるようになります。この頃から、ミナレットはただ呼びかけをするための塔ではなく、イスラムの権威を示す役割も持つようになっていきます。
初期アラブ型の角塔からトルコの鉛筆型まで。さまざまなミナレットをご紹介
ミナレットといっても、世界中にはさまざまな形のミナレットがあります。ここでは、ミナレットの形について紹介していきます。
ミナレットのさまざまな形
角塔 | 塔は1本でモスクの中央線上の手前にあることが多い。8~10世紀にかけてイランからスペインに広く普及。 |
---|---|
らせん形 | 9世紀に一時期イラクとエジプトで作られた。塔は1本でモスクの中央線上の手前にある。 |
円筒塔 | 塔は1本で礼拝室との位置関係はさまざま。11世紀にイランや中央アジアで広まる。 |
ドゥ・ミナール | 12世紀以降広まった、2基1対の円筒形のミナレット。イラン発祥で、アナトリアやエジプトなどに広まっていった。 |
分節形 | 多層のバルコニーで分節し、頂上に宝珠をのせている。塔の形や数、位置などはさまざまで建物につけられている。中世エジプト形とも呼ばれる。 |
多塔形 | ドゥ・ミナールの変形。円筒をモスクの装飾的に用いていて、複数を対照的な位置に建てる。14世紀イランで初めて作られ、その後インドや中央アジアで好まれるようになる。 |
鉛筆形 | バルコニーと尖った屋根が特徴的で、塔は1~6本を対象の位置に たてる。オスマン形とも呼ばれる、トルコ独特の形。 |
ミナレットの形状のうつりかわり
ミナレットの形状の起源は、シリアのビザンチン教会の鐘楼や灯台などの説があります。大モスクほどミナレットは高くなり装飾が増していきます。一方で、住宅街や農村部の小さなモスクではずんぐりした形で背が低いものが多くみられます。
年代別にみていくと、11世紀にはイランや中央アジアで円筒型が広まり、12世紀以降は2基1対の円筒型が広まります。12~16世紀前半、カイロでは円筒や8角形の平面を組み合わせたものが多くみられるようになっていきます。さらに15世紀、オスマン帝国が栄華を極める頃には鉛筆状の突塔型が主流になり、ミナレットの本数も増えていきます。
オスマン帝国の栄華を体現するトルコのミナレット
複数本のミナレットがあるモスクの建設がさかんになったのは、オスマン帝国の時代。最初はスルタンのモスクに限り複数のミナレットを建てていました。また、ミナレットの形も細長くより高く作られるようになっていきます。鉛筆形の細長く先の尖ったミナレットは、トルコならではの形状です。
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トルコでミナレットが4基あるモスクは、ウチュ・シェレフェリモスク、スレイマニエ・モスク、セリミエ・モスク。さらに、6基あるモスクはスルタン・アフメット・モスクのみです。
スルタン以外の人が建てたモスクでミナレットが2基あるのは、スレイマン大帝の娘で大宰相リュシュテム・パシャの妻ミフリマーが建てたウシュキダル・ミフリマーモスクが最初。ミナレットの数については、事実上の制限がありました。
世界で唯一6本のミナレットがあるブルー・モスク
世界遺産にも登録されているイスタンブールの歴史地区にある「ブルー・モスク」ことスルタン・アフメット・モスクは、オスマン建築の傑作と称されるモスク。オスマン帝国最高峰の建築家ミマール・スィナンの弟子メフメット・アーが手がけたものです。ブルー・モスクは、世界で唯一ミナレットが6本も建っていて、その壮大さはオスマントルコの栄華を今に伝えてくれます。
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ブルー・モスクの6本のミナレットには逸話が残っています。スルタンアフメットは「アルトゥン(金)のミナレットを建てよ」と命じたのですが、建築家が「アルトゥ(6)のミナレット」と聞き間違えたため6本になったのだとか。当時6本のミナレットは聖地メッカのカーバ神殿にしかなかったため、恐縮したスルタンは7本のミナレットを聖地に寄贈しました。
象徴的なミナレットが見られるトルコのおすすめモスク
ここでは、象徴的なミナレットがあるトルコでおすすめのモスクをご紹介します。トルコを訪れたらぜひ足を運んでみてくださいね。
アヤソフィア
アヤソフィアは、もともとはビザンツ帝国の首都コンスタンティノーブルにキリスト教正教会の大聖堂として建設されました。1453年にオスマン軍がコンスタンティノーブルを征服した後にモスクに転用されました。4本のミナレットはその時に建てられたものです。
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ディヴリーイの大モスク
ユネスコの世界遺産にも登録されているディブリーイの大モスクは、病院と一体化した複合施設の大モスク。セルジューク朝・ルームセルジューク朝期の最高傑作ともいわれています。モスクの北西の角にあるミナレットは円筒形で、1565年にオスマン帝国のスルタン・スレイマン1世によって設置されました。
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スレイマニエ・モスク
スレイマニエ・モスクは、オスマン帝国が栄華を極めた時代のスルタン・スレイマン1世の命により建設されたモスクです。オスマン帝国史上最高峰の建築家、ミマール・スィナンが手がけていて、スィナンの最高傑作ともいわれています。
イスタンブールの旧市街地を見渡す高台に建つ壮大なモスクは、当時のスルタンの権威の大きさを物語っています。スレイマニエ・モスクには4本のミナレットがあり、これはスレイマン1世がイスタンブールをおさめる4人目のスルタンであることを意味しています。
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セリミエ・モスク
セリミエ・モスクは、世界遺産にも登録されているモスクで、トルコのエディルネにあります。
スルタン・セリム2世の命で、オスマン帝国を代表する建築家のミマール・スィナンによって建てられたモスクで、イスラム建築の最高到達点のひとつとも評されています。ミナレットは高さが70メートルもあり、モスクの4角に建てられています。
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インジェ・ミナーレ博物館
インジェ・ミナーレは1265~1267年にコンヤに建造されたイスラム教神学校。トルコ語で「細かい突塔」という意味の名前で、その見た目から名前がついています。
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現在はイスラム関係の彫刻の博物館になっていて、門の脇には壁面装飾の美しいミナレットが建っています。
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ミナレットはモスクにあり、礼拝の時間を知らせるアザーンを流すための塔。時代が流れるにつれ、単に礼拝の時間を知らせるだけでなくイスラム教の権威を示し、モスクを象徴的にするための役割も担っていくようになります。
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オスマン帝国最盛期には壮大なモスクが建築されるようになり、そこには複数本の高くそびえるミナレットも作られました。トルコには世界遺産にも登録されている世界的に有名な大モスクがいくつもあり、そこにはミナレットが象徴的にそびえ立っています。
ぜひ次回のトルコ旅行では、モスクを訪れてミナレットも眺めてみてください。ミナレットから流れるアザーンを聞きながら、トルコの街を歩くのも素敵な時間ですよ。オスマン帝国の雄大な歴史に思いをはせながらトルコを旅して、その魅力にふれてくださいね。
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