ラマダンとは?本当の意味や断食する理由、1日の過ごし方などを解説
更新日:2023.04.04
投稿日:2022.05.26
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イスラム教の「ラマダン」という言葉を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。ラマダンは、“イスラム教の断食”のことと思われがちですが、実は断食を意味する言葉ではないのです。
ラマダンの本当の意味やラマダンで行われる断食の時期・期間はどのくらいなのでしょうか。日本ではあまり馴染みがないラマダンですが、イスラム教にとっては非常に重要なもの。イスラム教徒は世界人口の約1/4を占めるため、国際社会を生きる日本人も教養として基礎知識はおさえておきたいところです。日本の文化とは異なる興味深い情報が得られるでしょう。
この記事では、そんなラマダンの疑問について詳しく解説していきます。
Contents
ラマダンとは?
「ラマダン(ラマダーン)」は“断食”を意味する言葉ではなく、イスラム教で使われている暦法「ヒジュラ暦」における月の名です。そのヒジュラ暦の第9月のことを「ラマダン(Ramadan)」といいます。イスラム教では、この第9月のラマダン月の1ヶ月間に断食を行うため、ラマダン=断食というイメージが強くなったのでしょう。
日本でも各月に月の名(1月=睦月、2月=如月、3月=弥生など)がありますが、それと同じようなものと考えられます。ちなみに、ラマダンという名前の由来は、アラビア語で“灼熱”の意味を持つ「ar-ramad」です。
ラマダンの起源
第9月がラマダン月になったもともとの起源は、西暦610年に天使ガブリエルが預言者ムハンマドの前に現れて、イスラム教の啓典となるコーラン(クアルーン)の教えを授けたからといわれています。ラマダン月の第9月に起きたこの啓二によって、イスラム教の人々はこの月に断食を行うようになったのです。
ちなみに、日本の月数と同じようにヒジュラ暦でも月数は第1月~第12月までです。ただし、それぞれの月数は異なる意味を持ちます。たとえば、第9月のラマダンは「断食の月」の意味を持ちますが、12月は「巡礼(ハッジ)の月」の意味を持ち、ラマダン同様に神聖な月とされています。この時期には、五行(イスラム教徒の5つの義務)の一つである「巡礼」を果たすため、世界中のムスリムが聖地メッカを訪れます。
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ラマダンを行う理由や目的は?
断食を意味する「サウム」という言葉には、「斎戒(欲を戒める)」の意味があります。
ラマダン月の断食は1ヶ月間一切の飲食を行わないと誤解されがちですが、断食を行うのは日の出から日没の間です。ラマダン月の断食は、空腹や自己犠牲を経験することでさまざまな欲求を断ち、自己を鍛錬しながら神への献身と奉仕に没頭する時間とされています。
また、ラマダン月の断食を通して親族や友人たちと苦しい体験を共に分かち合うことで連帯感や絆が強まります。
断食は、自身を清めて信仰心を強める目的があるのです。それにより、ラマダン月には多くの寄付や施しも行われており、断食を通じてイスラム教徒が助け合う期間とされています。
イスラム教の「六信五行」とラマダン
イスラム教には「六信」といわれるイスラム教徒(ムスリム)が日々信じるべき6つの対象と、「五行」といわれるイスラム教として課せられた5つの行いがあります。イスラム教徒の間で禁じられている食品を避けたり、礼拝の作法を守ったりすることは、この「六信五行」の元になっています。
「六信」とは、“アッラー”、“天使”、“啓典”、“預言者”、“来世”、“天命”の6つです。「五行」は実生活の中で行動すべきことであり、“信仰告白(シャハーダ)”、“礼拝(サラート)”、”断食(サウム)”、“喜捨(ザカート)”、”巡礼(ハッジ)“の5つとなっています。イスラム教徒が1日5回行う“礼拝(サラート)”や、ラマダン月に行う“断食(サウム)”がその五行の中に含まれているのです。
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毎年変わる!ラマダンの時期とは?

Ksulaiman1, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
ラマダンはヒジュラ暦の第9月の1ヶ月間に行うと説明しましたが、実はラマダンの第9月と日本の秋の9月は異なります。なぜなら、イスラム教社会で用いられているヒジュラ暦は「純粋太陰暦」、日本で用いられているのは「太陽暦」と暦が異なっているからです。
日本の1年は365日ですがヒジュラ暦の1年は約354日となります。太陽暦と比べて1年が11日少ないのです。そのため太陽暦と異なり、毎年11日ずつずれていくため、季節と月が一致しません。
それによりラマダンの第9月の1日目は毎年日付が変わっていきます。したがって、ラマダンは春や夏に行われる年もあれば、秋や冬に行われる年もあるのです。
ヒジュラ暦はおよそ33年で季節が一巡するため、「イスラム教徒は同じ季節のラマダンを人生で2度経験する」ともいわれています。
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【ラマダンの日付(予定)】
2021年 | 4月12日~5月12日 |
---|---|
2022年 | 4月2日~5月1日 |
2023年 | 3月22日~4月20日 |
2024年 | 3月10日~4月8日 |
2025年 | 2月28日~3月29日 |
ラマダン月の断食は誰でも参加できる!
ラマダン月の断食はイスラム教徒の行いなので、ラマダン月にイスラム諸国を訪れても異教徒に断食は強制されません。しかし、世界中のイスラム教徒だけでなく、イスラム教徒以外の家族や友人など、誰でも断食に参加できます。
また、ラマダンの断食を行うための年齢制限はありません。子どもの場合、いつから参加するかは自分の意思で決められます。断食に参加する平均は10歳前後ですが、7歳頃から始める子どももいます。ただし、子どもが断食を始める際は身体の負担を考えて、3日に1回から始めるなど少しずつ断食に慣らしていくことが一般的です。
ラマダンに参加できない人
ラマダンは基本的に誰でも参加できることを前述しましたが参加できない人もいます。それは、月経中の女性です。
イスラム教では月経中の女性は不浄とされています。そのため、この時期の女性はイスラム教の啓典コーランを読むことも、モスクに入ることも、お祈りをすることさえも禁じられます。しかし、これはあくまでも女性が不浄ということではなく、月経の際に出た血液が不浄とされているものです。
しかし、周りが断食をしている中で通常通りの飲食をしていると、月経中であることを自ら語ってしまうことになります。したがって、この時期の女性は鍵をかけた部屋の中で他の人に見つからないように飲食をするケースもあるそうです。
ラマダンの断食が免除される場合もある
ラマダンの断食はイスラム教の五行のひとつで義務でもあります。前述で断食への参加を禁じられる女性について説明をしましたが、参加を禁じられているのではなく免除されるケースもあります。
参加が免除されるのは、乳幼児や子ども、高齢者や重病人など、体力的に断食に耐えられない人々です。また、妊婦や授乳中の女性など一時的に断食に参加できない人々は断食の時期をずらせます。その場合、断食をできなかった分を補うために、翌年のラマダンまでに断食を行います。これは月経で参加できなかった女性も同様です。
ラマダン中の過ごし方
ラマダンの1ヶ月間は日の出から日没まで断食を行いますが、イスラム教の人々も断食中の時間帯は普段通りに会社や学校へ通う生活を送っています。ただし、イスラム圏で行われるラマダン期間の会社や学校は時間が短縮されているためほとんどが15時で終了します。
ラマダン期間中のイスラム教の人々は、仕事や授業を早く終わらせて帰宅し、自宅でテレビを見たり、仮眠をとったりなどして日没までの時間をゆっくりと過ごします。
会社や学校で過ごす時間が短縮されることで仕事や学習の効率は落ちますが、イスラム教では何よりもラマダンが優先されるのです。
ラマダン期間にやってはならないこと
ラマダンの断食では飲食を断ちますが、飲食だけではありません。その他にもさまざまな欲を断たなければなりません。ラマダン期間中に飲食以外で禁止されているのが、「喫煙」「性行為」「投薬(健康上支障をきたす場合は免除)」「故意に物(つばなど)を吐く」などです。
そして特に禁止されていることが「噂話や人の悪口(ゴシップ)」です。イスラム教社会でゴシップは最大級の罪とされています。イスラム圏を訪れる際は忘れずに理解しておきましょう。
ラマダン期間中には特別な挨拶がある?
ラマダンの期間中には、いつもと違う特別な挨拶があります。たとえば、アラビア語圏では「ラマダン・ムバラク!(Ramadan Mubarak)=良いラマダンを!」や「ラマダンカリーム!(Ramadan Kareem)=恵み多いラマダン月おめでとう!」などです。
ラマダン期間中はイスラム教徒間で互いに声を掛け合います。身近な言葉で例えるならば、「メリークリスマス!」に近いイメージかもしれませんね。
ラマダン期間中の食事事情|イフタールとは?
ラマダン期間中のイスラム教徒(ムスリム)は、日の出から日没までの間は一切の飲食を断つため水すら飲みませんが、日没になったら人々は食事をとり始めます。
また、日没になって初めてとる食事のことを「イフタール(Iftar)」といいます。イフタールでは内臓に負担をかけないようにまずは水分からとり始めます。水を飲んだ後はデーツ(ナツメヤシの実)を食べることが一般的です。その理由は、預言者ムハンマドが断食明けに食べたのがデーツだったという言い伝えがあるからといわれています。そして家族全員でイフタールを囲んで食事をします。
また、街角やモスク、職場などでは食事が無料で振舞われることも多いです。イフタールでは、皆で食事を楽しむことが習慣とされています。
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ラマダン期間中は逆に太る?!
「ラマダン期間中は断食をしているから痩せそう」というイメージがありますが、実はラマダン期間中に逆に太ってしまう人も多いようです。
ラマダンでは日没後のイフタールで食事を始めますが、イフタールをその日の朝食とし、その後は昼食を食べてから眠ります。その後、起きてから日の出前に夕食を食べる、といった流れが一般的となります。ラマダン期間では日没から日の出までの間(夕方から翌未明)に1日分の食事をとるからです。人によっては、日の出まで食べ続ける人もいます。
そのため、ラマダン期間中で断食しているにもかかわらず、大量の食事を食べて太ってしまう人も少なくないようです。また、断食の反動によって食事が進み、いつもよりも食費がかかってしまうケースもあるといわれています。
ラマダンが明けるとお祭り騒ぎ!
約1ヶ月間のラマダン明けにはラマダンの終了を祝う「イード(=祝宴)・アル=フィトル(=断食の終わり)」と呼ばれる大祭が行われます。大祭は翌月の第10月(シャウワール)の1~3日間まで続き、この3日間は祝日の扱いです。
イスラム教徒たちはこの大祭で強さと恩恵を与えてくれた神(アッラー)に感謝します。そして、ラマダンによって神に近づいたことを願うのです。このイード・アル=フィトルは預言者ムハンマドが624年に最初に行ったとされています。
ラマダン明けの初日は特別な日
ラマダンが明けた1日目はイード(祝宴)の礼拝から始まります。イードの礼拝は1年に1度、この日だけの特別な礼拝です。また、イード礼拝には「シャワーを浴びて身体を清潔にすること」、「出かける際は身だしなみを整えること」、「礼拝前には軽食をとること」、「モスクの行きと帰りでは違う道を通ること」などのルールがあります。これらのルールは必ず守らなければならないわけではありませんが、預言者ムハンマドのスンナ(慣行)といわれています。
イードの礼拝後は家族や友人たちと断食明けの食事をします。イスラム教徒にとっては、まさに1ヶ月振りにとる日中の食事です。食事の後は、服を新調したり大掃除をしたりします。そして、2~3日間は家族や親しい人々を訪問してイード・アル=フィトルを祝います。
イスラム教のイード・アル=フィトルは日本のお正月に似ているのかもしれませんね。
トルコでもラマダンはある!
トルコでは国民の90%以上がイスラム教徒。しかし、トルコはイスラム諸国の中でも比較的戒律が緩いとされています。というのも、トルコではイスラム教で禁じられているお酒を飲むこともできるからです。
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しかし、トルコでもイスラム教の大事な行事であるラマダンの断食は行われます。内容も変わらず、日の出から日没まで断食を行います。戒律が比較的緩いとされるトルコにおいても、宗教行事については他のイスラム諸国と変わりはないのです。そんなトルコではラマダンのことを「ラマザン(Ramazan)」と呼んでいます。
トルコでのラマダンの挨拶は「イイ・ラマザンラール(Iyi Ramazanlar)」というのが一般的で、意味は「あなたにとって良い断食の日でありますように」です。もしラマダン期間にトルコを旅行で訪れたら、現地のトルコ人に「イイ・ラマザンラール!」と声をかけてみるといいでしょう。
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トルコのラマダン明けのお祭り
トルコでもラマダンが明けると盛大にお祝いをします。トルコではラマダン終了を祝う祭りのことを「シェケル・バイラム(砂糖祭)」といいます。この砂糖祭の期間は他のイスラム諸国と同様に3日間あり、3日間は祝日の扱いです。
「シェケル」はトルコ語で砂糖を意味し、砂糖祭はその名のとおり甘いお菓子を食べてお祝いをする習慣です。そのため、スーパーでは山のようにチョコレートや飴などのお菓子が積み上げられて販売されており、人々は訪問客や子ども達に配るために多くのお菓子を買い込みます。
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そもそもなぜ“シェケル・バイラム(砂糖祭)”と呼ばれ、甘いお菓子でお祝いするようになったのでしょうか。それに関しては以下のような説があります。
もともとは「シュキュル・バイラム(感謝祭)」と呼ばれていましたが、年月が経つにつれて、シュキュル⇒シェケルに結びつき、トルコではシェケル・バイラムと呼んでお祝いされるようになったということ。
その他には、オスマン帝国時代に“ラマダン15日目を過ぎたらバクラヴァなどの甘いお菓子をお盆に乗せて兵士に配る”という習慣があり、その習慣を真似てラマダン明けにお菓子を作り始め、子どもたちには砂糖菓子が配られるようになり、伝統化したという説もあります。
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その他にも諸説あるため本当のところは分かりません。しかし、いずれにしてもラマダン明けにお祝いをすることは他のイスラム諸国となんら変わりないのです。
ラマダン中の旅行は大丈夫?
「ラマダン期間中にイスラム圏に旅行に行っても大丈夫?」と心配される方も多いと思います。結論からいうと、ラマダン期間中でも旅行に行っても大丈夫です。問題なく観光もできます。あくまでも断食を行うのはイスラム教徒であり、異教徒には断食を強制されませんのでご安心ください。むしろ、旅先ではラマダンの時期だからこその“特別”が見られるかもしれません。
ラマダン期間中に断食を行っているのは日の出から日没の限られた時間のみなので、イスラム教徒も日没後は食事をします。日没後の街中では露店が多く並ぶこともあるため、お祭りのような雰囲気を楽しめるでしょう。また、イルミネーションを装飾する場所もあり、普段では見られない光景も楽しめますよ。
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ラマダン期間中の旅行者のマナー
ラマダン期間中の飲食店は基本的に日没からの営業となるお店がほとんどですが、日中でもイスラム教徒以外や旅行者向けに営業している飲食店もあります。ただし日中は、断食をしているイスラム教徒の目の前での飲食は控えるよう配慮した方がいいかもしれません。
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ラマダン明けの祝日に注意!観光に影響も
ラマダンが明けた第10月の1日~3日には「イード・アル=フィトル」の大祭が行われると説明しましたが、この時期に旅行に行く場合は注意が必要です。なぜなら、この3日間は休業するお店や観光施設が多いからです。
トルコのグランド・バザールやエジプシャンバザールなどのバザールもラマダン明けの3日間は休館することが通常です。各地の観光名所の博物館などは3日間とも休館になるケースもあれば、2日間だけの休館など博物館によっても異なります 。
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そのため、旅行のスケジュールに影響が出てしまうかもしれません。できればラマダン明けの3日間は避けて旅行のスケジュールを立てることをおすすめします。
イスラム圏だけじゃない!日本にもラマダンはあります
日本ではまだまだイスラム教は馴染みがなく、人口に占めるムスリム(イスラム教徒)は1%にも満たないと言われますが、ラマダンの断食も行われます。国内に100以上あるモスクのうち、最大級である東京ジャーミイでは、2022年のラマダン月(4/2~5/1)にさまざまなオンラインイベントが開催されました。
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さらに、東京ジャーミイではラマダン期間中、日没後にとる「イフタール(Iftar)」の食事会を開催。ムスリムではない方も参加でき、イスラム教を身近に体感できる貴重な機会となっています。
ラマダンを知って旅行を楽しもう!
私たち日本人にとってイスラム教はあまり馴染みがないので知らないことも多いでしょう。しかし、ラマダンについて知っていれば、イスラム諸国への旅行の計画も立てやすくなります。
トルコ含めイスラム諸国には魅力的な観光名所が多数あります。イスラム諸国への旅行を検討されている方はぜひこの記事を参考にしてくださいね。
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