ヘロドトスとは?「歴史の父」と呼ばれる古代ギリシャの歴史家の生涯を解説
更新日:2023.04.05
投稿日:2022.08.10
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ヘロドトスは、人類で初めて「歴史」という概念をつくったと言われている歴史家です。古代ギリシャのハリカルナッソス(現トルコ・ボドルム)で生まれ、流転の人生を歩んだヘロドトスはかの有名な著作『歴史』を書きました。ヘロドトスはどのような人生を歩み、『歴史』にはどのようなことが記されているのでしょうか。
この記事では、ヘロドトスの生涯や功績、ヘロドトスと関係のある偉人を解説します。彼らとゆかりのあるトルコの観光地も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
Contents
ヘロドトスとは?「歴史の父」と呼ばれる理由
ヘロドトスとは紀元前484年頃に小アジア(アナトリア)のハリカルナッソスで誕生した作家で、人類で最初の歴史家とも言われています。
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ヘロドトスはさまざまな国を旅行して、自分が見聞きしたことをまとめた旅行記のようなものを著しています。それが、ヘロドトスの代表的な書物『歴史(historiai)』です。
当時は歴史という概念がなかったため、ギリシャ語で「調査・探求」を意味する「ヒストリエー」という名が付けられました。ヒストリエーは、現在英語で歴史を意味する「History」へとつながっています。
『歴史』の内容
『歴史』は女神ミューズの名を冠した計9巻からなっており、1~4巻にはオリエント世界の概要やペルシア帝国の歴史を、5~9巻にはペルシア戦争の説明がまとめられている書物です。ちなみに、この著作を9巻に分けたのは古代ギリシャの天文学者・数学者のアリスタコスと言われています。
ペルシア戦争には参加していないので戦争に関する記述は伝聞と考えられるものの、ほとんどはヘロドトスが旅行する中で実際に見聞きした情報を記しており、現在でも当時の貴重な情報源となっています。このことから、ヘロドトスは「歴史の父」と呼ばれるようになりました。
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『歴史』に登場するトルコの有名な出来事
ヘロドトスの『歴史』には、先述したトルコ出身の叙事詩人ホメロスや、アマゾンの名前の由来にもなったアマゾネス、ギリシャ神話に登場するミダス王についても記載されています。
アマゾネスは、現トルコのテルメ村付近のテルメ川畔を首都としていた古代民族のことです。女性だけの部族であり、人類初の騎馬民族とも言われています。トルコの古代都市として有名なエフェソスやスミルナを建設したのもアマゾネスとされています。
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ミダス王が登場するのは、「触れたものをすべて黄金に変える手」を手に入れたというギリシャ神話です。また、日本でも馴染みのある「王様の耳はロバの耳」に登場する人物でもあります。神話に登場する王様なので伝説上の人物のイメージがありますが、実在した可能性が高いとされています。
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なお、『歴史』には脚色や物語的叙述が多く、客観的事実と混在している部分があるため、ヘロドトスは「嘘つき」と呼ばれたこともありました。しかし、現在では誤りもあるものの、信頼性は高いとする見解が一般的です。
ヘロドトスの生涯
父親は土着のカリア人リュクセス、母親はギリシャ人のドリュオ、当時名を知られていた叙事詩人パニュアッシスを父方の親戚に持つ名家に生まれました。ハリカルナッソスは、現トルコの都市ボドルムのことです。
ヘロドトスが生きた時代のハリカルナッソスは暴君リュグダミスが支配しており、それに反発していたヘロドトスはサモス島へ亡命することとなりました。紀元前455年頃に一度はハリカルナッソスへ戻ったようですが、すぐに旅へ出かけます。
エジプトやパレスチナ、シリア、バビロン、マケドニア、すべてのギリシャ諸島など、当時知られていた国を巡ったようです。紀元前445年頃に旅を終えるとアテネを訪れ、紀元前443年頃にはイタリアに建設していたギリシャ植民地の町トゥリオイへと渡り住みます。トゥリオイでは建設に加わり市民権を得ました。
その生涯を閉じたのは紀元前425年~413年頃のことです。ギリシャの植民地トゥリオイという町、もしくはマケドニアで生涯を終えたと言われています。なお、疫病が原因で亡くなったと考えられています。
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ギリシャ文学の基礎を生み出したホメロスとの関係
ホメロスは紀元前850年頃のスミルナという現トルコのイズミルに住んでいた叙事詩人で、トルコ出身の偉人の一人です。トロイ戦争の叙事詩『イリアス』と、ギリシャの英雄オデュッセウスの物語『オデュッセイア』の著者とされています。
盲目の叙事詩人だったとされており、ヘロドトスはホメロスの生涯を記した『ホメロス伝』を残しています。ホメロスもヘロドトスのように史実をベースとした物語を書いています。ただし、実際に見聞きした内容を書いているヘロドトスに対して、ホメロスが書いているのは基本的に神話や叙事詩です。
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同時代の歴史家トゥキディデスとの違い
トゥキディデスは紀元前460年頃から紀元前400年頃まで、ヘロドトスと同時代を生きた歴史家です。トゥキディデスは、ペロポネソス戦争などの史実を客観的に記述した『歴史』を執筆しました。
一方、ヘロドトスの『歴史』は自分が見聞きした事実をもとにした物語的叙述で、史実を客観的に記述した歴史書というよりも、旅行記や紀行文のような書物です。
ヘロドトスの名言
ヘロドトスの名言といえば、エジプト文明が築かれたのはナイル川がよく肥えた土を運んだからという意味の「エジプトはナイルの賜物」が有名です。しかし、彼は他にもたくさんの名言を残しています。ここでは、その一部をご紹介します。
- 中傷された人は、二回傷つけられる。一回目は中傷を言う人によって、二回目はそれを信じる人によって。
- 自尊心を持つのは愚か者だ。
- 平和な時には子が父を葬るが、戦争となれば父が子を葬らなければならなくなる。
- 挑戦を恐れるな。挑戦しなければ、なにもはじまらない。
- 成功の秘訣は、失敗しないことではなく、妬まないことである。
- どんなビジネスにおいても、焦りは失敗のもと。
どれも現代の私たちにとっても戒めとなる言葉や、勇気を与えてくれる言葉ばかりです。まったく異なる時代を生きる私たちの心に響く言葉を多数残しているのも、亡命や数々の国を転々とする旅行など、さまざまな経験を積んだヘロドトスだからこそではないでしょうか。
ヘロドトスの出身地ハルカリナッソス(ボドルム)は人気リゾート地
ヘロドトスの出身地ハリカルナッソス、現在のボドルムはトルコの南西端に位置するエーゲ海沿岸の人気リゾート地です。日本人にはあまり知られていないものの、欧米では有名で夏になると多くの観光客が集まります。
ヘロドトスは、古代都市ハリカルナッソスはドーリア人が建設した町だと記しています。ハリカルナッソスの最盛期はマウソロスという王が統治していた紀元前4世紀半ば頃です。マウソロスがこの世を去ったあと、アレキサンダー大王の攻撃により町は次第に衰退していきます。そして1523年、町はオスマン帝国に征服されました。
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現在のボドルムには町の中心部にプチホテルや大型チェーンホテル、レストランが立ち並びます。路上の小さな店舗には皮製品や衣服、絨毯、刺繍を販売する店舗などが軒を連ねており、散策がてらショッピングも楽しめます。ボドルムは歴史的な遺跡もバカンスも一度に満喫できる、贅沢な観光地といえるでしょう。
ボドルムの主要観光地
ボドルムでぜひ訪れたいのがマウソロス霊廟遺跡とボドルム城です。
マウソロス霊廟は先述したハリカルナッソスを最盛期へと導いたマウソロス王のために建てられた霊廟で、世界七不思議の一つとなっています。36本の柱に支えられた霊廟は高さが42mあったとされており、現在は大理石でできた霊廟の縮尺模型や、柱などの破片が残されています。
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ボドルム城は、マウソロス霊廟遺跡の石を使って建てられた15世紀の建築物です。もともとは牢獄として使用されていましたが、今は海洋考古学博物館として使用されています。マウソロス霊廟遺跡で発掘された遺物や難破船など、青銅器時代から中世にかけての遺物が展示されている貴重な博物館です。
ボドルムで楽しめるグルメ
ボドルムはエーゲ海沿岸に位置するだけあり、新鮮なシーフードが名物です。シーフード好きであれば、ぜひメイハネを訪れてみましょう。メイハネとは、自分が選んだシーフードを調理してくれる、トルコ風の居酒屋です。メイハネとシーフードを選べる魚屋さんは、ボドルムの中心地にほど近いチャルシュ通りに軒を連ねています。
また、餃子に似た「ボドルム・マントゥ」も名物です。油でカリッと揚げた料理で、ニンニクや唐辛子オイルを加えたヨーグルトソースでいただきます。ボドルムには、トルコ料理として有名なケバブやトルコアイスを食べられるお店もあります。
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シーフードはもちろんですが、さまざまなトルコ名物も楽しめるので、食べ歩きもおすすめです。
ヘロドトスと関係のある偉人たちゆかりの地も魅力満載
ヘロドトスが著した『歴史』に書かれている偉人たちゆかりの地も魅力が満載です。ここからは、ヘロドトスと関係のある偉人ゆかりの地をご紹介します。
ホメロスが生涯を過ごした「イズミル」
イズミルはイズミル湾に面した人口約400万人の都市で、エーゲ海地方の中心地です。毎年国際見本市が開催されるトルコ第三の重要な都市でもあります。かつてはスミルナと呼ばれており、ホメロスが暮らしていた時代は、現在の中心地より8kmほど北に位置していたようです。
イズミルでは、アレキサンドロス大王時代に建てられたカディフェカレ城塞跡や、イズミル考古学博物館で、当時の面影を目にすることができます。カディフェカレ城塞跡のあるパゴスの丘では、イズミルの町とイズミル湾までを一望できます。
また、国際見本市の会場となるキュルトゥル・パーク、市の象徴である時計台、オスマン帝国時代のモスクなども必見です。イズミルキョフテやイズミルサンドといったグルメも楽しみましょう。
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ホメロスが書いた『イリアス』の舞台「トロイ」
トロイ遺跡はホメロスが書いた叙事詩『イリアス』の舞台で、トルコの北西部ダーダネルス海峡の南側、エーゲ海沿岸から6km内陸のヒサルルクの丘に位置します。チャナッカレからは車で約30分です。
実は、イリアスで書かれているトロイア戦争にはギリシャ神話の神々が登場するため、トロイは長年伝説上の都市で実在するとは思われていませんでした。
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ところが、1870年にドイツのシュリーマンというアマチュア考古学者が発掘し、実在していたことがわかったのです。1998年には「トロイの考古遺跡」として世界文化遺産に登録されています。
この遺跡は紀元前3000年頃から西暦500年頃までの9つにも及ぶ古代都市の層があります。戦争や自然災害によって倒壊するも、そのたびに新しい都市を建設していたようです。現在はトロイア戦争で作られたといわれるトロイの木馬のレプリカや、遺跡から出土した品々を展示するトロイ博物館がつくられています。
遺跡だけでなく博物館もセットで見学することで、より遺跡の素晴らしさがわかります。
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ミダス王の遺跡や埋蔵品のある首都「アンカラ」
アンカラはトルコ中央部に位置する人口550万4,000人のトルコ第二の都市であり首都でもあります。アンカラが首都になったのは、1923年10月23日のことです。1923年というとつい最近できた都市をイメージするかもしれませんが、実は旧石器時代からの歴史があり、遺跡や数々の埋蔵品が見つかっています。
たとえば、町の中に点在するローマ時代の遺跡です。ローマ式大浴場跡や、紀元前に建てられたアウグストゥス神殿の一部が残っています。また、ローマ時代にビザンツ帝国が築いたアンカラ城やトルコ共和国を樹立したムスタファ・ケマル・アタテュルクを葬るアタテュルク廟、新石器時代から鉄器時代の遺物を展示するアナトリア文明博物館にも注目です。
さらに、先述したミダス王の墓とみられる古墳もアンカラ付近で見つかりました。古墳はかつてゴルディオンというフリギア王国の首都があったとされる場所にあります。なお、ミダス王のものと考えられる遺骨や副葬品は、アナトリア考古学博物館に収蔵されています。
アンカラでおすすめのグルメは、焼き方と材料が特徴的なケバブ「アンカラ・ドネル」です。
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アマゾネスが建設した都市へ想いを馳せる「エフェソス」「シノぺ」
アマゾネスが建設したエフェソスやシノペも魅力的な都市です。どちらもイズミルを拠点として観光できるので、時間が許す場合は訪れてみるとよいのではないでしょうか。
エフェソスはクレオパトラがアントニウスと過ごした都市、聖母マリアが余生を過ごした都市、自然哲学者ヘラクレイトスの出身地としても知られています。また世界七不思議の一つアルテミス神殿もこの地に建てられました。アルテミス神殿は火災により失われましたが、現在は復元された柱が佇んでいます。
保存状態がよく、大繁栄した東地中海最大規模のローマ遺跡であるエフェソスは、2015年に世界文化遺産に登録されました。
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一方、港町シノペは哲学者ディオゲネスの出身地でもあります。ディオゲネスは樽に住んでいたことから「樽の中のディオゲネス」と呼ばれていたそうです。その自由な生活から、アレキサンドロス大王から羨望されていたとの逸話も有名です。シノペではシノプ考古学博物館やディオゲネスの像を見学できます。
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「歴史の父」とも呼ばれるヘロドトスは、当時のハリカルナッソス、現トルコのボドルムで誕生した作家です。亡命後の旅行で実際に見聞きしたことを著した『歴史』や、「エジプトはナイルの賜物」という名言などで知られています。
広大な国土を有するトルコの中でも、ヘロドトスの出身地ボドルムや、ヘロドトスと関係のある偉人たちゆかりの地にはおすすめの観光地が多数あります。遺跡や博物館でヘロドトスをはじめとする偉人たちに思いを馳せてみたり、現地でしか味わえないグルメを味わってみたり、楽しみ方は自由自在です。
歴史もグルメも満喫できる魅力いっぱいのトルコを実際に訪れてみませんか?
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